三浦雄一郎のユニークな家庭教育——次男・三浦豪太語る

86歳で南米大陸最高峰アコンカグア(標高6961メートル)の登頂に挑戦した三浦雄一郎さん。惜しくも途中で断念となりましたが、三浦雄一郎さんのサングラスやザック、挑戦心を引き継いだ次男でプロスキーヤーの三浦豪太さんが登頂を果たしました。その三浦豪太さんに、父の教え、三浦家のユニークな家庭教育についてお話しいただきました。(※お話のお相手は、筑波大学名誉教授・村上和雄さんです)

父に教わったスキーの楽しさ

〈村上〉
三浦家の健康法を書いた本を拝見しましたが、三浦式トレーニング法や食事法は、非常に理にかなっているところがあると思います。例えば食事は質素ですよね。食事やトレーニングは遺伝子に化学的・物理的に刺激を与えますから、そういう環境で育ったことが豪太さんにも大きな影響を与えていると思います。

〈三浦〉
一家から受けた影響は、遺伝子レベル、環境レベルでいろいろあると思います。
 
スキーをすること自体、当たり前という環境でした。子供の頃から、僕も兄も、ずっとアルペン競技でのスキーヤーを目指していました。ただ僕はそんなに優等生ではなく、小学校を卒業するぐらいまではビリから数えるほうが早い選手でした。
 
小学校高学年頃から、三浦雄一郎の息子というと「もっとスキー頑張れよ」とか、大会で入賞すると「三浦さんの息子だから」とか言われるのが嫌で、海外に行きたいと思うようになりました。

〈村上〉
確か14歳で留学されていますよね。海外に行ってよかったと思いますか?

〈三浦〉
一人で行った時に頑張らなきゃなと思ったことはたしかによかったですね。それまでスキーが当たり前にできる環境にいたわけですが、アメリカの中学、高校では勉強ができないとスキーもさせてもらえないんです。

〈村上〉
勉強とスキーを両立させないといけない。

〈三浦〉
はい。アメリカでもスキー自体がそんなに好きじゃなくなった時期があって、その時に、父に相談したことがあるんです。父は「やってもやらなくてもいい」と。
 
たしかに父からは、一度として「スキー選手を目指せ」と言われたことはありません。ただ海外に行く時、「日本でも成績が出ないのに、海外に行っても、駄目だろう」って言われていました。それでやっぱりやらないとなと思って、頑張ったのがモーグルです。

〈村上〉
それでオリンピックに2回も行ったでしょう。

〈三浦〉
その頃は競技人口が少なかったので、オリンピックに出るならねらい目の種目でした(笑)。いまでは日本でも、8000人ぐらいの競技人口がいます。
 
モーグルという競技は僕に合っていましたね。モーグルは、それまで続けていたアルペン競技のようにタイムだけを競う競技とは考え方が全然違うものでした。要は目立つ競技なんです。自分の素晴らしい滑りを相手に見せつける。ジャッジに見てもらうんだって。
 
僕は根っからの目立ちたがり屋、ステージの上に立たされたら何でもやるというタイプの人間ですから、モーグルの斜面を自分のために用意してくれたと思ったら、すごくうれしい気分になるんです。それから、スキーそのものが好きになりました。

振り返ってみると、父からスキーについて教えを受けたといえるのは、子供の頃ですね。スキーを始めたばかりの頃、寒いし、防寒着のダウンジャケットのチクチクした感じが嫌で、とことんスキーが嫌いだったんです。
 
そんな僕を見て、ある時、父は「雪は何からできているか分かるか」と聞いてきました。「水から」と答えると「違う。あれはな、雲が降りてきて地面に積もるんだ。だから、おまえはスキーをするときに、雲の上を滑っているんだ。だから、『西遊記』に出てくるきん斗雲に乗っているように、地面から2、3メートル飛んで滑っているんだ」と話してくれました。

〈村上〉
いい話ですね。スキーを教えるというより、導くといったほうが適切ですね。

〈三浦〉
それを聞いてから、夢中になってスキーをしました。スキーをする時には、空中に僕は浮いていると毎回、思うようになって。

その後、思春期にスキーをやめようとした時も、その話を思い出したりしました。父がそういう話をしてくれたおかげでスキーをやめずに、最終的にはモーグルに出合うことができたと思っています。

(本記事は月刊『致知』2009年3月号 特集「賜生」から一部抜粋・編集したものです。人生や仕事、人材育成のヒントが満載、月刊『致知』の詳細・ご購読はこちら

★三浦雄一郎さんの『致知』への推薦文★

『致知』には古今東西の不変の訓えと、それを実践している人の魂の言葉が表現されていて、来るたびに僕は読んでいて感動します。素晴らしい本だと思います。

◇三浦豪太(みうら・ごうた)
昭和44年神奈川県生まれ。三浦雄一郎氏の二男。58年よりアメリカ留学。平成3年には全日本モーグル代表選手に。リレハンメル、長野と2度の冬季オリンピックに出場。引退後、プロスキーヤー、テレビ解説者として活動。

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