日本ハムのドラフト1位・吉田輝星投手(金足農)に栗山英樹監督が手渡した1冊の本

第100回夏の甲子園で秋田勢として103年ぶりに決勝進出を果たした金足農業高校のエース・吉田輝星投手。昨年11月23日の日本ハムファイターズへ新入団発表の際、栗山英樹監督から「宿題」として1冊の本が手渡されたといいます。その本の名は『小さな人生論』(藤尾秀昭・著/致知出版社刊)。栗山監督からは入寮時に持参するよう指示されたという本書に、「『満足しない』ということと、たくさん支えてくださる方がいるので『感謝を忘れない』と書きました」と吉田輝星投手。いま話題を呼んでいる『小さな人生論』から、一話をご紹介いたします。

歴史創新

彼は片田舎の丸太小屋で生まれた。学校は貧しさのために断続せざるを得なかった。彼が正規の教育を受けたのは、合計しても一年に満たない。

20代になって事業を起こす。だが、失敗した。その上、恋人の死という悲運に見舞われ、自身は神経衰弱を患う。その中でも彼は独学し続けた。そして27歳の時、弁護士の資格を取得する。

労働に明け暮れた経験。弁護士活動で得た見聞。それが止みがたい夢と激しい志を育み、彼を政治へ駆り立てた。

だが、なだらかな道ではなかった。30代では下院議員選挙に2度、40代でも上院議員選挙に2度、落選した。47歳の時、副大統領選に立候補したが、これも落選した。

しかし、彼は逃げなかった。夢と志が逃げることを許さなかった。そして大統領の座を射止めたのは51歳の時だった。彼は南北戦争を戦い抜き、奴隷解放という新しい歴史を切り開いた。
彼の名はアメリカ第16代大統領エイブラハム・リンカーンである。
 
18世紀から19世紀にかけ、世界に重くのしかかる難問があった。梅毒の跳梁である。決定的な解決策を見い出せず、密かに人類の滅亡さえ予感された。曙光が射したのは20世紀に入ってだった。

1910年、梅毒の化学療法剤サルバルサンが発明されたのだ。発明者はコッホ研究所の研究者パウロ・エールリッヒである。

このサルバルサンは別名606号と呼ばれる。ヒ素化合物の試作品を次々と作って、606番目に初めて得られた目的を達する薬だったからである。つまり、エールリッヒは605回失敗を繰り返し、その数だけ失望と苦悩を味わったのである。

研究にとって最も大事なものは何かと問われ、エールリッヒはこう答えた。「忍耐」。

時代の古今、洋の東西、分野の差異を問わず、新しい歴史を切り開いた人たちがいる。それらの人たちに共通する条件を一つだけ挙げれば、こう言えるのではないか。

困難から逃げなかった人たち、困難をくぐり抜けてきた人たち――だと。
新しい時代に適った夢と志を実現する。「歴史創新」とはこのことである。そして、夢と志を実現しようとする者に,天は課題として困難を与え、試すのではないか。

松下幸之助の言葉が聞こえる。

「百遍倒れたら百遍立ち上がれ。万策尽きたと言うな。策は必ずある」

困難から決して逃げない――私たちの歴史もそこから開けてくるのだと肝に銘じたいものである。


(本記事は致知出版社刊『小さな人生論』(藤尾秀昭・著)の一部を抜粋したものです)

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