松下幸之助の“遺言” ——上司の一番大事な仕事は何か?

松下電器産業(パナソニック)を世界的企業に育て上げた松下幸之助翁。経営者として、事業のみならず、社員の教育にも妥協を許さない人物だったようです。その薫陶を受けた岩井虔(けん)氏と上甲晃(あきら)氏の口から、幸之助翁が社員たちにどのような愛を注いでいたのかを語っていただきました。

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幸之助翁は「生き方の神様」

〈上甲〉
松下幸之助についていろいろと語り合ってきましたが、私が松下幸之助から学んだことを端的に言えば、人生にできないことは何一つない、絶対的なハンディは何もない、すべては考え方次第ということだと思っています。

「啼かぬなら、それもまたよしホトトギス」

という松下幸之助の名言がありますが、歎いてもどうにもならないものは受け入れる。できれば喜んで受け入れる。そうしたら、すべての困難、難儀は人生の糧になる。この世に無駄な経験はない、無駄な人もいない。短所も見方によって長所になる。考えようによっては、そのすべてが生きてくる――。私はそれが松下幸之助の発想の原点ではないかと思うんです。

松下幸之助からこのことを教わったことは、私にとって何よりの財産であり、その意味で私は松下幸之助のことを「生き方の神様」だと思っています。

〈岩井〉
私はやはり人生いかに生きるべきかを、いろいろな形で教えられたことが大きかったですね。特にリーダー論は、実践的で分かりやすかった。

ちなみに松下幸之助は、昭和17年の「満洲無線工業株式会社社長経営方針」でこんな一文を書いています。

「経営者タルモノハ誰ヨリモ最モ会社経営ニ熱意ヲ持チ常ニ理想ヲ打樹テ其ノ実現ノタメ強力ナル指導精神ノ発揚ニ努メラレタキコト」

ここに示されている指導者の条件は、1つにはしかるべき理想を掲げ明確なビジョンを示すこと、2つには熱心さ、もう1つが指導精神、つまり人を導いて巻き込んでいく力です。リーダーの条件は、この3つに言い尽くされてるのではないかとも思います。

もう1つ、これは41歳の時に松下幸之助から松下グループの幹部を対象とした研修を命ぜられ、準備をしておりました時の話です。

当時、松下幸之助は『指導者の条件』という本の中で、人を生かす心得を102項目記していましたが、幹部研修時間は限られますので、その中から特別に10に絞って人を生かす心得を皆で学ぶことを松下幸之助に提案したんです。

そこには「志を立てる」「自らを知る」「衆知を集める」などの項目を挙げましたが、これを見た松下幸之助は、

「君、一つ大事なものが欠けとるな、何か分かるか」

「いや、分かりません。何でしょうか」

「愛嬌や。愛嬌が入っとらんな」

〈上甲〉
愛嬌ですか。

〈岩井〉
松下幸之助は続けてこう言うのです。

「上司の一番の仕事は、部下にええ仕事をさせることやな。ところがうちも組織が大きくなって何か偉そうにしたり、ケチをつけるのが上司の責任と錯覚しておる者が多くなったように思えてならんのや。
 君、皆に言うといてくれ。あなたは部下に対して愛嬌がありますか、なければ失格やと。これは松下幸之助の遺言やと」


(本記事は月刊『致知』2015年8月号 特集「力闘向上」より一部を抜粋・編集したものです)


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◇松下幸之助(まつした・こうのすけ)
[1894~1989]経営者。明治27年和歌山県生まれ。大正7年改良ソケットを考案して独立し、家庭用の電気器具製作所を創業。昭和10年松下電器産業(現・パナソニック)に改組以後、家庭電化製品の大メーカーに育てた。平成元年逝去(写真提供=PHP研究所)。

◇岩井虔(いわい・けん)
昭和11年満州ハルピン生まれ。千葉県、徳島県で育つ。33年京都大学卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)入社。36年PHP研究所へ出向し、研究、編集、国際、研修部門を担当する。平成4年同専務取締役・研修局長、9年顧問を経て、現在客員。著書に『松下幸之助 元気と勇気がわいてくる話』(PHP文庫)がある。

◇上甲晃(じょうこう・あきら)
昭和16年大阪府生まれ。40年京都大学卒業と同時に松下電器産業(現・パナソニック)入社。広報、電子レンジ販売などを担当し、56年松下政経塾に出向。理事・塾頭、常務理事・副塾長を歴任。平成8年松下電器産業を退職、志ネットワーク社を設立。翌年、青年塾を創設。著書に『志のみ持参』『志を教える』(いずれも致知出版社)など。

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