王将イズムはリーダーの〝率先垂範〟にあり——餃子の王将・大東隆行さん

業界トップの中華レストランとして発展を続けている「餃子の王将」(王将フードサービス)。その創業から携わり、同社の土台を創り上げたのが大東隆行さんです。しかし、11年前の2013年12月19日、痛ましい事件によって命を奪われ、日本中に衝撃とその死を悼む声が溢れました。一日も早い事件の全容解明を願います。事業を通じて多くの人々の幸せを実現してきた大東さんを偲び、弊誌でのインタビューをご紹介いたします。

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常識や固定観念に囚われない

〈大東〉
私に転機が訪れたのは昭和44年、27歳の時だった。国内の電化が進み、商売が振るわなくなっていた矢先のこと。

「俺が中華料理つくるから、薪炭氷業なんかやめて来い」

先代のこのひと言がきっかけで、「餃子の王将」に入店したのである。小さなお店で客の確保もままならない。事業を軌道に乗せるため、私はそこでも必死に働いた。

当初は餃子の他にもおでんや寿司など、ありとあらゆる料理を提供していた。ただ、店の柱となるメニューがなければ生き残っていけないと先代が考え、どこにも負けないおいしい餃子をつくろうと決意したのである。

肉と野菜、調味料の配分、具の混ぜ方、皮の包み方、油の量……僅かな違いであっても、それが味に大きく影響する。また、季節や時代によってもお客様の味覚は変わってくるのだ。例えば、夏は汗をかくため、塩分を少し多めに配分する。そういう地道な研究を来る日も来る日も続け、2年の歳月をかけてようやく納得のいく餃子を完成させることができた。

ところが、餃子の売れ行きは決して最初から順風とはいかなかった。おいしい料理をつくったとしても、それをお客様に食べてもらわなければ意味がない。どうにかして食べに来てもらおう。そこで考えたのが「餃子試食券」だった。

いまは当然の如くどこの飲食店でも無料券や割引券を配っている。しかし、当時はまだどこもやっていなかった。そればかりか、他の競合店からは笑われる始末。駅前や市役所などに出掛けていき、先代と二人で配ったが、知らない店の試食券など、最初は誰も手に取ってくれない。

そこで思案を巡らせ、食べ盛りの学生にターゲットを絞った。(餃子を)5人前食べられたら無料、10人前食べられたら無料、女性は3人前食べられたら無料、○○店限定無料券など、工夫改善を加え、様々な種類の無料券を出していくことによって、徐々にお客様に足を運んでいただけるようになったのである。

従来の常識や固定観念に囚われず、次から次へと手を打っていったことが、餃子の王将の知名度を確立することに繋がっていったのではないだろうか。

王将イズムは率先垂範

〈大東〉
入社2年目には身内だったこともあって店長を任されるようになったが、いま振り返っても当時の働きぶりは想像を絶するものだったと思う。

最低でも1日16時間は働いた。料理の仕込みは当然のことながら、調理場や客席の掃除、社員教育、雑用にいたるまで、できることはなんでもやった。

朝8、9時から夜中の2、3時まで働き、それでも仕事が終わらず、家に玉ねぎを持ち帰って皮むきをしたこともある。睡眠時間は2、3時間。朝6時には家を出る。血尿が出るほど働いた。

先代は「行動ありき」と口癖のように言っていた。要するにリーダーは率先垂範。それが「王将イズム」として、いまなお受け継がれている。

現場のトップがいくら口で言ったとしても、従業員は動かない。「言うは易し、行うは難し」という言葉があるように、綺麗事は誰でも言える。しかし、一番の問題は実行である。実行なくして何も生まれない。従業員の心を打つような働きぶり、仕事が夢にまで出てくる真剣さがあって初めて、彼らは付き従ってくれるし、店も繁盛していくのだ。

王将に限らず、創業期はどこもこのような難儀を経験しているものだろう。これまで多くの成功者にお会いして感じるのは、その陰には並外れた努力、情熱、執念、気魄があるということだ。なんの苦労もなしに成功するなどあり得ない。やはり一所懸命、真剣に打ち込むことで何か答えが返ってくるのである。


(本記事は月刊『致知』2014年2月号 連載「二十代をどう生きるか」から一部抜粋・編集したものです)

◇大東隆行(おおひがし・たかゆき)
昭和16年大阪府生まれ。関西経理専門学校中退後、薪炭や氷の販売を経て44年義兄の加藤朝雄が創業した「餃子の王将」1号店に入店。営業本部長、副社長を経て平成12年に社長就任。窮地に陥った同社の経営再建の陣頭指揮を執る。25年7月東証一部上場を果たす。

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