【髙田明×神田昌典】いま、トップに求められる「伝える力」とは何か

家業だった街のカメラ店を年商1,700億円を超えるジャパネットたかたへと変革、成長させ、社長退任後も次々と目覚ましい実績を重ねる髙田明さん。先進的な手法を駆使して数々の企業の未来を拓いてきたトップマーケター・神田昌典さん。目まぐるしく変転する現代をどう生きるか――2人が語り合う、いまトップに求められる「伝える力」とは?

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ジャパネットたかたの販売MCを選ぶ基準

髙田〉
キャッチコピーを顧客視点で分かりやすく説明し直すとおっしゃっていましたが、私も通販の仕事を長くやっていて感じるのは、同じ商品を売るにしても伝え方によって全く結果が変わってくるということです。

〈神田〉
いまのお話で思い出したんですけど、私この夏に長崎の五島列島に行ったんです。

髙田〉
ああ、五島列島に行かれたんですか。私も行ったことがありますが、元気になりますよね。

〈神田〉
はい。素晴らしい場所です。ただ、どう伝えるかということで言うと、とにかく伝え方が暗い。教会群に行きますと看板が出ていまして、「ここは牧師さんが嵐の夜中に船に乗ったら、金銭を取られて殴り殺された」といったようなことが書いてある。 

世界遺産の候補に挙がっているのに、これを伝えるのはいかがなものかと。髙田社長だったらまた別のものを読み取るだろうなって思いました。

〈髙田〉
江戸時代初期、禁教令によりキリスト教が弾圧され教会も破壊される中、五島列島に移り住んだのが、仏教徒を装った約3000名の隠れキリシタンでした。彼らは迫害を受け苦しみましたが、それでも地を這うようにひっそりと土地を耕し、辛抱強く代々信仰を守り続けるんですね。 

その後、明治時代に入ってようやく禁教令が廃止されると、隠れキリシタンたちの手によって島の津々浦々に50の美しい教会が建てられます。250年以上もの風雪に耐えて信仰を守り、そして復活を遂げた歴史は世界に類を見ないことで、まさしく世界遺産に相応しいと思います。

〈神田〉
実に感動的なお話です。

〈髙田〉
私はいま『髙田明のいいモノさんぽ』っていう旅番組をBSフジでやっていて、全国を回っているんですけど、そういう素晴らしいものは日本のどこの地域にもあるんですよね。それをどう表現するか。 

この前、岡山県の井原市に行ったんです。井原はかつて日本の7割くらいのシェアを占めるデニムの生産地だったものの、近年は倉敷に替わってきていました。そこに行って私はデニムの歴史を伝えながら、デニムでつくったトートバッグと作務衣を紹介したんです。普通の値段の2~3倍するんですけど、これがすごい反響があって、番組放送後、お客さんがすごく増えたと、市長さんにおっしゃっていただきました。

だから、歴史を紐解いて伝え続けていけば、人の心に響きますし、地方創生もできていくんじゃないかなと思います。

〈神田〉
ぜひ地方創生担当大臣になっていただきたいですね(笑)。

一つお聞きしたいことがあるんですけど、私は2016年の熊本地震の時に、髙田社長が特別出演された番組を見まして、感銘を受けました。普通こういう自己表現能力に長けた人っていうのは一人の天才であって、その人が量産されるってことはないんです。

ところが、ジャパネットの番組に出られているキャスターの方は、プロのアナウンサーでもタレントでもない普通の人なのに、髙田社長と同じように商品が売れていく。これは一体何なのかと。どのようにご自身の売れる力を伝えてこられたんでしょうか?

〈髙田〉
いや、ほとんど何もやっていないんです。ただ自分一人では全部できないので、カメラを握っていた社員やキューを出していた社員に「喋ってみる?」っていう感じでやってきました。私に少し喋り方が似ているのは、やっぱり5年、10年と見ているうちに自然と学習しているのだと思います。

基本的に私がMCを選ぶ時は、その人の伝える力よりも人間性を重視しています。うまく喋れなくてもいい。自然体で自分の気持ちを表現できる人。そして、仕事を通じて人間性をどんどん磨いていく人。人間力を高めていかないと絶対に一流にはなれません。

時代が変わっても、失ってはいけないものがある

〈神田〉
髙田社長は「伝える」ということに関して、どんなことを大事にされていますか?

〈髙田〉
やっぱり情熱、パッションが要りますね。それなくして絶対に伝わらないです。伝える時には非言語の目が喋り、表情が喋り、手が喋り、指が喋り、全身が喋る。そして、情熱を持って語り続ける。これが一番大事な部分じゃないかなと思います。

だから、企業経営においても、トップは常に情熱を持って夢を語らなきゃいけない。ところがいま、AIとかIoTとかビッグデータが発達してきて、効率の部分がどんどん求められるようになってきています。これも非常に大事なんでしょうけれども、そういうものに頼り過ぎると、人間本来の持つパワーとか情熱が落ちてしまうような気がするんです。

最近の子供たちは1日4時間、5時間とスマートフォンをいじっている。すごくいい面もあると思いますが、弱くしている面もあるじゃないですか。本来人間は言葉を発し、喜怒哀楽を言葉で表現することが人間の素晴らしさなんだけど、この部分が弱くなってくればコミュニケーション教育、情熱教育のようなものが必要になってくるのかなと。

神田さんにお尋ねしたいのは、伝える手段がフェイスブックやインスタグラム、ライン、ユーチューブといったものにどんどん変わってきて、写真や動画を撮ったらそれを世界中の人たちに同時に発信でき、秒単位で会話することができる。

これは便利だけれども、その半面、心配するところもあるんです。人間の考える力とか感情をなくしてしまうんじゃないかと。便利過ぎるのもどうかなって思うんですけど、いかがですか?

〈神田〉
時代環境というのはやはり変わります。しかし、失ってはいけないものがあると思うんです。それは一体何かというと、人の痛みを感じる心

〈髙田〉
全く同感です。

〈神田〉
おかげさまで我われは先人の努力によって、飢えることのない社会になりましたし、戦争のない生活を営むことができています。でもそういった中で、情報革命によって非常に洗脳されやすい世の中になりました。

ですから、情報に対するリテラシーを磨かなくてはいけないし、人の痛みに対する理解、思いやり、これを培っていく教育をしていかなければならないと思います。

〈髙田〉
技術革新が進めば進むほど、教育のあり方っていうのもそれに対応していかないとダメですよね。

先日、座間で9人の方が亡くなられた事件なんかもSNSがなかったら起こらなかったことだなと思うんです。でも、時代はそれを求めていくわけだから、拒否する必要はないし、受け入れながら対応していく自分をつくっていかなきゃいけないんでしょうね。


(本記事は『致知』2018年2月号 特集「活機応変」より一部を抜粋・編集したものです)

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◇髙田 明(たかた・あきら)
昭和23年長崎県生まれ。46年大阪経済大学卒業後、阪村機械製作所に入社し、海外勤務を経験。49年家業の写真店「㈲カメラのたかた」に入り、61年分離独立して「㈱たかた」を設立、社長となる。平成11年社名を「㈱ジャパネットたかた」に変更。27年社長を退任し、「㈱A and Live」を設立。29年4月サッカーJ2のV・ファーレン長崎の社長に就任し、同年11月J1昇格へと導く。著書に『伝えることから始めよう』(東洋経済新報社)『90秒にかけた男』(日本経済新聞出版社)。

◇神田昌典(かんだ・まさのり)
昭和39年埼玉県生まれ。上智大学外国語学部卒業。大学3年次に外交官試験に合格し、4年次より外務省勤務。その後、ニューヨーク大学経営学修士及びペンシルバニア大学ウォーオンスクール経営学修士(MBA)取得。コンサルティング会社を経て、平成7年米国ワールプール社日本代表に就任。10年経営コンサルタントとして独立。現在アルマクリエイションズ社長。著書に『あなたの会社が最速で変わる7つの戦略』(フォレスト出版)『都合のいい読書術』(PHPビジネス新書)など多数。

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