大谷翔平、菊池雄星を育てた花巻東高校・佐々木洋監督が語る「本当の人生の勝利者」

現在メジャーリーグで八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍を見せる大谷翔平選手をはじめ、数々のスタープレーヤーを育て上げてきた花巻東高校硬式野球部監督・佐々木洋さん。選手たちに懸ける思いは一貫して、本当の意味で「人生の勝利者」になることだと語られています。
〈記事の情報は掲載当時のものです〉

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この負けは神様が自分に何かを教えている

〈佐々木〉
花巻東の採用試験を受けた時、「自分が岩手の野球を変えます」ぐらいのことを言って採用してもらったんです。いまの花巻東は合併して生まれた学校で、前身の花巻商業時代はプロ野球選手も何人か輩出した野球の名門だったんですね。

ところが、私が採用された当時は県の1、2回戦敗退が続いているような状態でした。その再建を志して来たのですが、1年目に任されたのがバドミントン部、次は女子ソフトボール部、そして3年目の秋に野球部の顧問となりました。

1年目は学校を夕方5時に帰って、土日は家でゴロゴロしていました。ただ、その年がちょうど岩手でインターハイがあって、うちの目の前がちょうどテニスコートなんですね。

そこで母校である黒沢尻北高が全国優勝したんです。茶の間で寝転んでいたら、ウワーッとものすごい歓声が聞こえてきて、観戦した父親なんか涙を流しながら帰ってきましてね。「俺、何しているんだろう」と魂を揺さぶられました。

やはり若くして成功するのはよくないとつくづく思うのですが、俺が指導したら勝てると思い上がっていたところに、監督になって1か月後の秋の県大会で準優勝、夏の大会はベスト4になって、「全国なんてすぐに行ける」と勘違いしてしまったんです。

だけど神様は必ず天罰を下さるんですね。次の秋の大会は地区大会で敗退。しかも進学校に負けてしまいました。それはもう大ショックだったのですが、自分で少しだけ救いがあると思うのは、「これは神様が自分に何かを教えたくて経験させているのではないか」と考えたんですね。

「お前が選手の邪魔をしている」

監督という立場になると、誰も叱ったり指導してくれる人がいません。だからあえて東京から交通費をお支払いして私の恩師に来てもらい、うちの練習を見てもらいました。

自分としては的確に指示を出して、的確な指導をして、「どうだ、俺も成長しただろう」という感じで練習を終えたところ、呆れた様子で恩師はひと言「おまえが選手の邪魔をしている」と。続けて「おまえの性格だと許せないだろうが、冬の間、選手たちに練習メニューを立てさせてみろ」と言われました。

そんな、子供たちに任せたら、バッティング練習とか自分の好きなメニューばかりで、トレーニングなどの嫌いなメニューがなくなってしまうでしょう。でも、恩師の言うことなので、ぐっとこらえて受け入れたんです。

しばらくは我慢して生徒たちが立ててきたメニューをさせていたのですが、ある時ひらめきました。そうか、再び恩師が来た時に「どうだ、君たちは自分たちでメニューを決めているのか」と聞かれて生徒たちが「ハイ!」と答えればいいんだと。

「この前、こういうミスがあったけれども、こういう練習しなくていいのか?」「必要だと思います」「じゃあ練習する?」「します」「別にしなくてもいいんだけど、やるならいつやるの?」「きょうやります」って、私が導くんだけれども、本人たちが決めたように練習をさせていきました。

雪が溶けて4月にグラウンドでの練習が始まった時、私自身選手たちの変化にびっくりしたんです。

私がノックしたら、選手たちがああでもない、こうでもないと互いに声を掛け合っているんです。以前は私が一方的に「こうだ、ああだ」と指示を出していただけだったんですね。ああ、邪魔をしているとはこのことだったんだなと。要するに生徒たちに考える力があるのに、私が先に答えを出して、考えさせなかったんです。

地区大会で負けた時から自分が変わらなければならないと思い、いいチームの練習に参加させてもらったり、研修に行ったりして、国分(秀男)先生のお話を聴きに行ったのもその頃でした。だから負けて初めて人の話も真剣に聞けるようになったと思います。

「本当の人生の勝利者」とは?

うちのモットーは「野球選手を育てるのではなく、野球ができる立派な人間を育てる」です。

考えてみたら、プロ野球は86勝44敗くらいで優勝できますが、高校野球はただの1敗も許されない。ある意味でプロよりも厳しい戦いを強いられています。しかしその中にあって勝利だけに重点を置いたら、高校スポーツではなくなってしまいます。

例えば菊池雄星はいま150キロの球を投げますが、プロ野球はどんなに長く続けられても40歳半ばまでです。

一方で医学の発達で平均寿命は延びていますから、野球人生の後の40、50年はどうするのと。若い頃は野球選手としては素晴らしかったけれども、その後の人生がどうしようもなかったとなったら、全然人生の勝利者ではないですよね。人生全体を考えた時、我々の目指すべき境地が見えてくると思います。

スポーツの力量と生き方、要するに社会的成功と人間的な完成を両方成し遂げられる人が、本当の意味での人生の勝利者であり、そういう人間を数多く育てていきたいというのが私の願いです。

プラトンの言葉に「最高の勝利は自分自身を乗り越えることだ。自分に負けることはあらゆることの中で最も恥ずべきことである」とありますが、私はその自分に勝つ力をつけさせるのも部活動だと思っています。

いま学校教育の中で人間教育をする場というのは、部活動がものすごいウエートを占めています。例えば、協調性とか忍耐力とか、努力するとか、そういったことを体験させ、身につけさせる場は部活動しかない。

日本の精神復興の鍵を握っているのはスポーツ教育ではないかと思いまして、我々は非常に重要な位置にいるのだなと感じています。だからこそ「野球の実力も日本一、取り組み方も日本一」を目指していきたいと思っています。やはり結果を出しているからこそ、多くの人がそのプロセスを真似ようと思いますから。


(本記事は月刊『致知』2010年3月号 特集「運をつかむ」に掲載された記事を抜粋・編集したものです)

◇佐々木洋(ささき・ひろし)
昭和50年岩手県生まれ。平成10年国士舘大学卒業後、大谷学園横浜隼人高等学校にて硬式野球部コーチを経て、11年より花巻東高等学校勤務。バドミントン部、ソフトボール部の顧問を経て、14年硬式野球部監督。20年第81回選抜高校野球大会準優勝、第91回全国高等学校野球選手権大会ベスト4、新潟国体第3位となる。

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