リアル“下町ロケット”! 植松電機社長・植松 努の宇宙への挑戦

北海道にある社員数20名の町工場「植松電機」。この小さな会社は2004年からロケットの打ち上げ開発に取り組み、現在、国内外の研究者が集まる宇宙開発の拠点になっています。この常識を超えたチャレンジの他、10代に向けて、夢を諦めず挑戦し続けることの大切さを伝え続ける植松努さんに、挑戦者としての原点を伺いました。
(本記事は月刊『致知』2011年9月号 特集「生気湧出」より一部抜粋したものです)

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宇宙開発は自分の修錬の場

2004年から宇宙開発に取り組み、僕たちの会社は独力で宇宙に到達するための道を探るために、いまロケット以外にも人工衛星の開発などいろいろなことをやっています。無重力状態をつくり出す実験装置も完成させました。ありがたいことに、僕たちのロケットは主流のものと違ってとても安全性が高いというので、いまはJAXA(宇宙航空研究開発機構)の新型ロケットの研究に使われたりしているんです。

ただ、ロケットをつくるだけでは採算が取れませんから、本業の植松電機が、建設機械に取り付ける特殊マグネット装置の製造、販売で食い扶持を稼いでいます。宇宙開発のほうは2006年に宇宙開発企業のカムイスペースワークスを立ち上げ、研究を続けているわけです。

ロケットはまるで儲からない世界ですが、でも僕は儲からなくてもいいと思っているんです。開発はデモンストレーションでもお客様を探すことでもなく、自分の修錬の場としか思っていませんから、毎日が大変おもしろいです。

「より良く」というのはあらゆるビジネスに共通していると思いますが、ロケット産業は研究開発に限りがなく、しかもクリアすべき課題が多いという意味では非常にいい修錬ができます。それに自分がつくったものが宇宙に飛んでいくのは非常におもしろい経験でもあり、その醍醐味を知った社員はよく成長するようになりました。

もともと飛行機やロケットは好きでしたね。本屋に入り浸ってはいろいろな本を読んでいました。図鑑を見て研究し、小学校六年生の頃には自分と同じくらいの大きさのペーパークラフトの飛行機をつくりました。重心に糸を付けたら立派な凧になり、地元の凧揚げ大会で優勝までしてしまったんです。僕が様々なものを考えて製品化できるのは、この時の体験が大きかったと思います。

僕には、かつて樺太で車の修理会社をやっていたおばあちゃんがいたんです。敗戦後、ソビエト軍が侵攻してすべてを失ってしまいました。だからいつも僕にこう話していましたよ。「お金はくだらないよ。一晩で価値が変わっちゃうからね。お金があったら本を買いなさい。頭に入れてしまえば誰にも取られないし、その知識が新しいことを生み出すよ」と。

「どうせ無理」という言葉をなくさなきゃいかん

ある時に青年会議所の仲間とボランティアに行く機会がありました。そこで児童虐待を受けていた子供たちに会って、その子たちが親に殺されるような目に遭っていながら、なお親と暮らす日を夢見ていると知った時に、「どうして親は裏切ったのだろう。いくら寄付をしてもこの子たちを救うことはできない」と自分の無力さを思い知ったんです。

その時、思い出したのが僕自身の人生でした。「強制したり暴力を振るったりして他人の可能性を奪おうとした人がたくさんいたな」と。そして、その背景にあったのが「どうせ無理だ」という言葉だと気づいたんです。

この言葉が連鎖して、可能性を奪われた人が今度は他人の可能性をも奪ってしまう。そしてその方向は自分よりも優しく弱い人に向かう。それが児童虐待の大本だろう。だったら、この世から「どうせ無理」という言葉をなくさなきゃいかんと思いましたね。これが僕の宇宙開発の原点なんです。

その意味で宇宙開発は僕の手段です。夢ではありません。僕はいま子供たちに宇宙開発を知ってもらうために全国の小中学校や本社工場でロケット教室を開いているのですが、昨年は1万人くらいの子供たちが2万機のモデルロケットを飛ばしました。これは固形燃料に点火して時速200キロで100メートルの高さまで飛ばし、最後はパラシュートで落ちてくるという本格的なものです。

20人くらいしかいない会社だから教室を開くのも大変なんですが、そこで僕が自分の体験から話すのが「やったことのないことは、やれないと思い込んでいるだけ。ものづくりの基本は諦めずに続けること。諦めたりやめたりせずに考えるんだ。考えるのを決してやめちゃいけないよ」ということです。僕の話を本当に理解できる子が増えたら、世の中はもっとよくなるのではないかと思います。

夢というのは自分で大好きなことをやってみたいという思いでしょうね。だったらやったらいい。それだけの話です。大好きなことをしっかり持つには感動が一番です。「やってみたい」「すごい」という心があれば、夢はいくらでも見つかると思いますよ。

でも、その時にできない理由をいくつも思いついてしまうんですね。そして、そのできない理由すら考えなくなる最悪の言葉が「どうせ無理」なんです。この言葉が人間の脳波を止めてしまう。思考が止まると楽ですが、それだと何も始まらない。「どうせ無理」ではなく「だったらこうしたらできる」と頭を切り替えて考え続けることで道は拓けると思います。


(本記事は月刊『致知』2011年9月号 特集「生気湧出」より一部抜粋したものです)

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◇植松努(うえまつ・つとむ)
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昭和41年北海道生まれ。北見工業大学卒業後、名古屋の三菱重工業に勤務。平成6年植松電機入社。11年リサイクルに使う特殊マグネットを開発。翌年同社専務に就任。16年宇宙開発事業に着手。18年民間宇宙開発企業のカイムスペースワークスを設立し社長に就任。19年全長5㍍のロケット打ち上げに成功。著書に『NASAより宇宙に近い町工場』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

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