危機管理のプロ・佐々淳行の教訓〈1995年 阪神・淡路大震災〉

天災が人災に変わる

〈佐々〉
今度の震災の悲劇は、菅さんに優秀な下士官がいないことです。高級将校と称しているメンバーが実務経験のない学者だったり昔の全共闘仲間でしょう。よくもまあ、あれだけ拾ってきたものだと感心しますね。1970年体制そのものじゃないですか。

〈渡部〉
国民のガバナビリティーは素晴らしいが、問題はガバナンス(統治能力)のほうですね。

〈佐々〉
これも大切な教訓だから申し上げておきますとね。阪神・淡路大震災の時、首相の村山富市さんも官房長官の五十嵐広三さんも地元出身の土井たか子さんも、社会党の面々はガバナンスという点でまったく駄目だった。自衛隊は憲法違反だから災害の救援に来るなという話でしょう。

〈渡部〉
自衛隊アレルギーの連中ばかりです。それに、いつまでも自衛隊に出動を要請しなかった当時の貝原俊民知事の責任も避けられません。

〈佐々〉
ただ、この時の政権は幸いにも自民党が与党に入っていたんです。役に立ったのが運輸大臣の亀井静香君でした。

アメリケアーズというアメリカ最大のボランティア組織があるんです。震災後、日本国際救援行動委員会の理事長だった僕に「ノースリッジ地震のお礼をします」と電話をかけてきた。ご存じのように阪神・淡路大震災のちょうど1年前の1994年1月17日、ロサンゼルスが震災でやられ、日本は懸命に支援したんですね。「そのお礼にジャンボ機一杯の100㌧の物資、それに8名の医師団、数百人のボランティアを連れて日本に向かう。1月23日午後1時に関西空港を開けてほしい」という電話でした。

ところが、村山さんも五十嵐さんもアメリカの恩を受けたくないという理由で申し入れを断ってしまうんです。外務大臣の河野洋平さん、彼もだらしのない男で、右へ倣えでこの話を蹴ってしまう。

それでどうしたかというと、理事長の僕が受取人になったんです。ところが、受け入れるには運輸大臣に空港を開けてもらわなくてはいけない。亀井君はあさま山荘事件で一緒に仕事をした僕の後輩ですしね。追いかけ回してなんとか自動車電話で連絡をつけました。「亀井君、君の力を借りたい。関西空港を開けてほしい。援助物資を運ばなくてはいけないが、陸路は使えない。ついては君の指揮下にある海上保安庁の巡視船とヘリコプターを手配してほしい」と。

周囲は「無理でしょう」と言っていたんですが、空港に着くと「大臣の命令により」と言って海上保安庁の隊員たちが整列して待っていて、敬礼して通してくれました。驚いたことに4隻もの巡視船とヘリコプター3機を借りることができた。その協力のおかげで、援助物資は無事、神戸の災害対策本部に送ることができたんです。

〈渡部〉
まさにお手柄でしたね。

震災の当日といえば、僕は村山さんと懇親会をやっていたんです。

〈佐々〉
ああ、知っています。新春文化人懇談会というやつね。僕はこの日の総理の行動をきちんと把握しようと皆に聞きました。村山さんのもとに第一報が入ったのが午前7時なんです。地震発生から1時間14分も経過していた。そして10時からの閣議の後、21世紀地球環境懇話会という会合に出席しています。神戸でどんどん人が焼け死んでいる時に、オゾン層を破壊するフロンガスの規制をどうするか、といったことを話し合っていたんです。神戸のことは「凄い地震だったらしいね」という程度で話題にもならなかったらしい。渡部先生たちとの懇談会もこの日だったんですね。

〈渡部〉
そう。「総理、神戸が大変なのにこんなことをしていてもいいのですか」と言ったら「大丈夫ですからどうぞ」と言って予定時間を15分もオーバーしました。

〈佐々〉
その間も自衛隊の車両やヘリはエンジンを回し、いまかいまかと指示を待っていた。天災が途中から人災に変わったんです。

(本記事は『致知』2011年6月号「新生」より一部を抜粋・編集したものです。『致知』には人間力・仕事力を高める記事が満載!詳しくはこちら)

佐々淳行
さっさ・あつゆき――昭和5年東京都生まれ。29年東京大学法学部卒業後、警察庁入庁。以来35年にわたり、警察・外務・防衛各省庁や内閣安全保障室で我が国の危機管理に従事し、東大安田講堂事件、連合赤軍あさま山荘事件などの事件処理を指揮。平成元年、昭和天皇大喪の礼警備を最後に退官。「危機管理」という言葉のワードメーカー。第54回文藝春秋読者賞、第48回菊池寛賞、第22回正論大賞受賞。13年勲二等旭日重光章受章。危機管理に関する著書多数。最新刊に『彼らが日本を滅ぼす』(幻冬舎)。

渡部昇一
わたなべ・しょういち――昭和5年山形県生まれ。30年上智大学文学部大学院修士課程修了。ドイツ・ミュンスター大学、イギリス・オックスフォード大学留学。Dr.phil.,Dr.phil.h.c.平成13年から上智大学名誉教授。幅広い評論活動を展開する。著書は専門書のほかに『歴史に学ぶリーダーの研究』『論語活学』『国民の見識』『人生を創る言葉』など多数。最新刊に『名将言行録を読む』(いずれも致知出版社)。

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