20年治らなかった病を治した発酵食品の力。栗生隆子の体験的健康法――。

原因不明の激痛に悩まされた10代、20代

14歳から突然、下痢や頭痛、めまいに悩まされるようになった栗生隆子さん。いくつもの病院を回り、精密検査をするも、診断結果は決まって「異常なし」だったといいます。しかし、過敏性腸症候群の症状がひどく、下痢、便秘が繰り返され、その度に腹部に激痛が走るため、日常生活もままならなくなっていきました。

「西洋、東洋医学をはじめ、体にいいと言われる民間療法はすべて試みましたが、回復の兆しが見えませんでした。(略)

何度かそのようなことが繰り返されると、やがて精神は追い込まれていきます。その時に、生きるのにもエネルギーが必要ですが、死もまた生と同じくらいのエネルギーであると感じました。

生と死は現れが違うだけで同じエネルギーだと思った時、どちらの選択もできないと感じ、いままでの価値観、思考が崩れました。そして、いまでも理由は分かりませんが、生と死という両極端の方向から途轍もない力で引っ張られ、その瞬間、意識だけがポンッと時空間に飛んでしまった感覚になりました。
それは臨死体験とは少し異なり、意識だけが鮮明にある奇妙な空間でした」

苦しみが極限状態に達した時、栗生さんの精神は肉体から離れて、時空間に飛んでしまったというのです。その空間での体験をこう語ります。

「自分の姿も景色も光も闇も何も見えません。しかし、思考は鮮明にあるので、『これが死んだ後の世界だ』と感じたのを覚えています。そこで私は〝苦しみ〟の塊のようなものを持っていました。それまで『死んだら楽になれる』と考えていたのに、意識だけの状態になっても、苦しみはしっかりとあったのです。

その空間ではなぜか時間軸を変更でき、意識だけが飛んでいける設定になっていました。私は苦しみを軽減したい一心で、試しに1年後に飛んでみました。しかし、苦しみはそのまま。3年、5年、10年と未来に行ってもその苦しみは変わらず、100年後に飛んでもなくなりません。

『百年も経てば人の一生は終わるのに、それでも苦しみが取れないというのはどういうこと?』と衝撃を受け、私はやけになって、痛みが取れるまで未来に進んでみることにしたのです。200年後、1,000年後、1万年後へ行き、最後に2万5千年後まで行ったところでようやく気づきました。『時間という概念はなく、よって苦しみはなくならない。この病気の肉体で喜怒哀楽を体験することに意味があるのだ。五感は肉体がある時にしか知ることはできない』と……」

極限状態で掴んだ人生の真理

その後、「帰ろう」と強烈に思ったことで、現世に戻ってくることができ、その絶望のどん底で、「死ぬのではなく、この体のまま精いっぱい生きていこう」とありのままを受け入れることができました。すると、運命が変わったかのように、発酵食品に出逢い、20年間治らなかった病が治り、健康を取り戻すことができたのでした。

「いま振り返ると、この体験は雲水さんたちの修行とまるで同じだったのではないかと思います。坐禅や滝行など過酷な修行を通して自らを追い込み、過去でも未来でもなく、『いま、ここ』に徹しきる。そうして極限状態まで追い込んだ末に至れるところです。私の場合、心身ともに疲弊しきった状況で自我が消え、あるがままを受け入れるようになりました」

その後、発酵食品の魅力を一人でも多くの人に伝えるべく、いまから5年前に「発酵生活研究家」として活動を始めました。麹、味噌、醤油、ヨーグルトなどの食品だけでなく、お米のとぎ汁でつくる「お米の発酵水」をつくって掃除に活用するなど、発酵を家事全般に取り入れています。

「この活動に興味を持たれる人は、病気の方や子を持つ母親、忙しいけれど健康も維持したいOLさんなどが中心です。参加当初はネガディブ思考だった方も、体が健康になれば、自ずと心も健康になっていくから不思議です。1年経たないうちに皆、笑顔を取り戻し、2年目からは自然と周りの方にも発酵生活の魅力を伝えるようになっています。

最近、学校給食を自然食に変更すると、子供たちの言動や性格が落ち着き始めたという結果を耳にしました。食が整うだけで、個々人の体も組織も調和が取れるようになるのでしょう。体の中で起こっていることは、自然界、社会でも同じことが起こっています。何一つ切り離されたところはなく、循環なきところに持続、存在はありません」

原因不明の病が発酵食品の力で治り、現在の健康体を取り戻せたことを、栗生さんは奇跡のようだと語ります。そして、自分の使命は体験談を通じて掴んだことや発酵の魅力を伝えていくことだと思い、勢力的に活動されています。

本誌ではその発酵の持つ力や、現代社会にこそ求められている発酵生活の魅力などが語られています。心身ともに健康でイキイキと過ごしたい方はぜひ、56ページの「発酵食品に生かされたこの命」をご覧ください。

(本記事は『致知』2018年11月号 特集「自己を丹誠する」より一部抜粋したものです。人間力・仕事力を高める記事が満載の『致知』、詳細はこちら!)

◇栗生隆子(くりゅう・たかこ)
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昭和47年岐阜県生まれ。14歳の時から20年以上、原因不明の体調不良に悩まされるも、平成16年に冷え取り健康法に、17年に発酵食品に出逢い、病を完治。以来、発酵食品の魅力を伝えるべく精力的に執筆活動や国内外で講演を行う。管理人を務めるフェイスブック「TGG豆乳ヨーグルト同好会」は1万5千人ものメンバーが集う。著書に『豆乳グルグルヨーグルトで腸美人! 』(マキノ出版)『からだにおいしい発酵生活』(宝島社)など多数。

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