65歳なんてまだ青年。五木寛之が語った〝新しい時代〟の幸福論


過去現在を問わず、いまを生きる私たちの心を癒し、鼓舞する「千年の名言」を本誌に連載中の五木寛之先生。コロナ禍に、代表作『大河の一滴』が再び大きな注目を集めるなど、いまなお第一線を走り続けています。作家として、人間の生と死を深く見つめ続けてきた五木先生に、仏の教えを交えながら、現代を生きるヒントを示していただきました。

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65歳なんてまだ青年

〈五木〉
最近、幸福論ブームが続いていますね。アラン、ヘッセ、ヒルティといった古典的な幸福論ばかりでなく、新しい幸福論も続々と出てきていて、書店では幸福論のフェアが盛んに組まれています。

――なぜいま幸福論がブームになっているのでしょうか?

100歳以上が5万人という時代に入って、日本国民の中でいま一番多いのが61歳なんだそうです。これに62歳、63歳、60歳が続いていて、この人たちがいまの日本の人口の大きな部分を占めている。つまり日本はいま、完全に大人の時代に入っているんです。昔はシルバーと呼ばれていた世代が日本の活力を担う新しい時代に入っているんですよ。

ですから高齢者が頑張らないと日本の将来はないわけで、そういう人たちの支えになる幸福論というのがクローズアップされてきているのではないかと思います。

――まさに大人の幸福論が求められているわけですね。

〈五木〉
まず、大人という言葉の意味が変わってきていることを理解しなければなりません。いまは50代までは青年。60代からやっと大人だと考えたほうがいいと思いますね。古代インドでは人生を「学生期」「家住期」「林住期」「遊行期」の4つに分けて捉えていました。

これを現代に当てはめると、人生の最後に家を捨て放浪の旅に出る遊行期はもう100歳以上でしょう。50代までは勉強をする学生期。60代、70代が仕事をし家庭を維持する家住期。そして80代、90代が林の中に籠もり自己を見つめて暮らす林住期です。

――昔の年齢とは随分違ってきているわけですね。

〈五木〉
昔は70、80ともなると俳句やお寺巡りをして悠々自適で暮らすのが定番でした。しかしこれからはそういう趣味の世界だけではなく、世のため人のために働かなければいけない。企業で定年を延ばそうという動きもありますが、いまの65歳なんてまだ青年ですよ。体力も知力も充実しているし、自分は若者だという意識でおやりになったほうがいいと私は思いますね。

だからいまアンチエイジングとか盛んにいわれていますけど、私はアンチという言葉を使うのは反対。ナチュラルエイジングというふうに言ってほしいんですが。

健康が一番の資産

〈五木〉
ここへ来る前にラジオ番組の収録をしてきたんですが、そこで日本文化というのはどうしてこんなに子供っぽいのかという話が出たんです。それはやはり、60~90の人が横へスライドして、何か自分たちは観客席から社会を見ているような感じでいたからですね。

そうではなく、自分たちの感覚が世の中の主流なんだという意識が共有されるようになれば、文化も成長していくと思います。

そういう新しい時代の幸福の条件というものを考えていくと、心の平安とか、自信を持って生きるとか、経済的な安心とか、いろいろあるでしょう。だけど、そこへ物凄いハイパーインフレが来たり、大災害に見舞われたり、世界恐慌が起きたり、ファシズムが訪れたりしたらどうなるか。どの可能性だって決してゼロではないと思いますけど。

――不測の事態にはすべてが役に立たなくなってしまうと。

〈五木〉
よくユダヤ人は苦難の歴史を生きてきた民族だから、子供たちに乱世になっても価値の落ちない教育をする。音楽の才能を育てたり、弁護士や医者にするという話を聞きますね。けれどそういう肩書とか資格とかいうのは、本当の乱世にはほとんど意味がないです。

そういう時、最後に頼りになるのは、裸一貫の自分のこの体なんです。国が破産しようがどうなろうが、頼りになるものはそこですし、価値が変わらないものはやっぱり年相応にコンディションのいい体を持っていることですね。
 
――健康が一番の資産だと。

〈五木〉
実際、いまは空前の健康ブームといってもいいくらい、マスコミや書店にはいろんな健康法が氾濫しているし、そういうものに踊らされてしまいがちです。けれども本当は健康法の問題じゃない。大事なのは養生だと私は思います。

――健康法ではなく、大事なのは養生だと。

〈五木〉
養生というのは、ただ体を維持するというだけでなく、生を養うことです。自分の可能性を十二分に発揮して、人生をしっかりエンジョイするために、自分で自分の体をケアすることなんです。なんとなく古臭いイメージがあるので、健康法とかアンチエイジングとかいうことのほうが新鮮に感じるんだろうけど、私はいま大事なのは養生だと思いますね。

――自らの生を養う。養生には心を養うというニュアンスも感じられて、いい言葉です。

〈五木〉
いまはなんでも専門職に委託する時代で、ちょっと体の具合が悪いと病院に行ったりしますでしょう。早期発見、早期治療は結構なことだけれども、その前に、自分の健康は自分で面倒を見る覚悟というものが必要です。日頃暴飲暴食をしておいて、自分の体についてなんの信念もなく、何かあればすぐ医者に頼ろうという考えでは、絶対うまくいかないと思います。

健康の基本は、自分の体としっかり向き合って、自分の体が発している身体語、サインをきちんと読み取ることです。体は常に主体に向かって信号を発しています。どうもこの辺りが苦しいとか、ちょっと無理が続いているとか、体は絶えずいろんなことを語りかけているものです。

外国語を勉強するのも大事ですが、身体語を読み取って理解することが一番大事だと思うんです。


(本記事は月刊『致知』2012年12月号 特集「大人の幸福論」より一部を抜粋・編集したものです)

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◇五木寛之(いつき・ひろゆき)
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昭和7年福岡県生まれ。生後まもなく朝鮮にわたり、22年に引き揚げる。27年早稲田大学露文科入学。32年中退後、PR誌編集者、作詞家、ルポライターなどを経て、41年『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、42年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞、51年『青春の門 筑豊篇』ほかで吉川英治文学賞を受賞。また英文版『TARIKI』は平成13年度 「BOOK OF THE YEAR」(スピリチュアル部門)に選ばれた。14年菊池寛賞を受賞。22年に刊行された『親鸞』で毎日出版文化賞を受賞。

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