前人未到の幕内1000勝!! 横綱白鵬の強さの秘訣

9月22日、横綱白鵬が千秋楽を待たずに5場所ぶり41度目の優勝を決めました。この記録は、2004年夏場所の新入幕以降の幕内勝ち星が1000勝に達し、前人未到の偉業だと言います。本日はそんな白鵬の強さの秘訣に迫ります。対談のお相手は大鵬親方です。

自分の中の相撲観が変わった瞬間

〈白鵬〉
親方に格別にご指導をいただくようになったのは、私が横綱に昇進した時からですね。横綱になったといっても、右も左も分からないじゃないですか。横綱とはどういう存在なのか、どうあらねばならないのか。そういうことを教えていただこうと、お訪ねしたのがきっかけでした。いまはうちの妻も、大鵬親方の奥様に「女将さん指導」をしていただいています。

〈大鵬〉
やっぱり横綱になった者しか分からないことがある。横綱になったことのない奴が、これはこうだ、と言ったところで真似事でしかないからね。あの時は、必ず稽古土俵に出て、下の者に稽古をつけてやってくれよといいましたね。

そうやって下の物を三役から大関、そして横綱に引き上げてやるのが横綱の立場、役目ですから。
 
〈白鵬〉
はい。また、私が印象に残ったのは、大鵬親方が21歳で横綱に昇進した時にまず考えたのは引退することだったと。

大関なら15番あるうち八番を勝ち越せばやっていけますが、横綱は負けたら引退だというお話を聞きまして、あの大横綱が昇進した時に辞めることを考えたのか。

自分はどうなるんだと悩みました。しかし、それだけの覚悟が必要なのだと感じました。

〈大鵬〉
プレッシャーが全然違いますよ。これはなった者でなければ分からない。

〈白鵬〉
私も大関の頃は1つ位が違うだけだと思っていましたが、やっぱりなってみると全然違う。ですから、昇進してすぐに迎えた場所中にお電話をいただき、横綱になるということは君の宿命だから頑張ってほしい」と言っていただいたことも、すごく心に残っています。

〈大鵬〉
ここ数年、相撲界はいろいろな事件あったけれども、昨年白鵬が双葉山関の持つ連勝記録69連勝を更新するかと注目されたのは、久しぶりに明るい話題だったと私も嬉しく思っています。

〈白鵬〉
ありがとうございます。でも逆に記録よりも、大相撲がそういう大変な時だからこそ、横綱としての責任を果さなければという思いで一番一番取り組んできました。だから、変に記録を意識しなかったから、63連勝まで伸ばせたのかもしれません。

〈大鵬〉
やっぱり、一日ずつ近づいていくと、もう気持ち次第ですよね。己との闘い。私も45連勝までいったことがあるけれども、苦手な相手でもないのに、なんでこんなに力が出ないのって自分でも驚くようなこともある。

たぶん私より白鵬のほうが精神的に強いですよ。私は毎晩酒を飲まないと熟睡できなかった。

〈白鵬〉
あの時期は不祥事の後だっただけに「こんな時に力士は夜に外を出歩くな」という雰囲気で、それもよかったんだと思います。 一人で過ごし、自分を内省する時間がありました。

5月に賭博問題が発覚して、続く7月の名古屋場所は開催するかどうかも直前まで分からない状態で、稽古にも集中できず、なんというか、心と体が一つにすることが難しかった。これでは満足な相撲が取れないから休場しようかとさえ考えたんです。
 
しかし、こういう時こそファンの皆様にいい相撲を見せることが横綱の務めではないかという思いもありました。そうして迎えた初日、皆さんから本当に大きな声援をいただいて……。

東京の国技館は地下が駐車場になっていて、会場の出入りの時はお客様に会わないのですが、名古屋は平置きの駐車場だったので、ファンの人たちが待っていてくださった。

そして「横綱、待っていたぞ!」「頑張れ!」「いい相撲をありがとう!」って。ああ、こういう方々がいるから我々は相撲が取れるんだなぁと感動しました。あの名古屋場所で自分の中の相撲観のようなものが変わったように感じています。

相撲はスポーツではなく、「道」である

〈白鵬〉
私は、相撲はスポーツではなく「相撲道」という「道」だと思っています。だから単に強くなるだけでなく、心を高めていかなければと思っているんです。
 
双葉山関は稽古場にも安岡正篤先生に書いていただいた「木鶏」という額を掲げて いらっしゃったといいますが、本当に「木の鶏」のように動じない心を目指して相撲道に精進されたと思いますので、私も同じ境地を目指したいと思っています。
 
同時に、日本には数あるスポーツと並んで伝統的な武道がありますから、武道を通じて日本国民の子供たちに精神を鍛えて、頑張ってもらいたいなと、そういうメッセージを送りたいと思っています。それがいまの自分の夢です。

双葉山関の69連勝に迫りつつあった時、いろんな意見がありました。
 
双葉山関の頃は一年に2場所しかなく、約3年間負けなしで69連勝した。現在は6場所制ですから、1年足らずでその記録を超えてしまうのはどうなのか、とか。あるいは、私が日本人でないのに大相撲の大切な記録を破ることに批判的な意見もありました。
その時、大鵬親方にお電話してご意見を求めました。

親方は「我われもその記録に挑戦してできなかったんだから、チャンスがあるならぜひ超えてほしい。記録は破られるためにある」とおっしゃってくださって、気持ちが晴れたんですね。
 
まあ、その2日後に負けちゃいましたけど(笑)。

〈本記事は2011年11月号 特集「人生は心一つの置きどころ」より一部抜粋したものです。人間力・仕事力を高める記事が満載の『致知』、詳しくはこちら

◇白鵬翔(はくほう・しょう)
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本名ムンフバト・ダヴァジャルガル。1985年モンゴル国ウランバートル市生まれ。2000年来日し、宮城野部屋入門。2001年初土俵を踏む。2004年1月新十両昇進、同年5月には初入幕。2006年大関、2007年横綱昇進。2010年は63連勝(史上2位)、年間86勝4敗(史上最高)を達成。著書に『相撲よ!』(角川書店)などがある。

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