2021年03月05日
戦後最大2兆3,000億円余の負債を抱えて倒産したJAL。マスコミ各社がこぞって“不可能”と断じた同社の再建に際し、会長に就任した稲盛和夫氏はたった2人の部下を京セラから連れていきました。
そのうちの1人が大田嘉仁氏。長年、稲盛氏の秘書を務め、「稲盛和夫から最も信頼される男」「稲盛和夫の側近中の側近」と称された人物です。大田氏初の著書『JALの奇跡』は、2010年に経営破綻に陥ったJALが、いかにして再生の道筋を辿り、奇跡の復活を果たすかまでの一部始終を綿密に描いた渾身のノンフィクション。なぜ、不可能といわれたJAL再生は、わずか1年で可能になったのか? 大田氏が初の著書刊行に込めた思いを「まえがき」に綴っておられます。
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『JALの奇跡』まえがき
航空業界という花形産業の中にあり、日本を代表する国際企業としてその名声を謳歌してきた日本航空が、いつしか赤字に苦しむようになり、ついには事業会社としては戦後最大の2兆3000億円余りの負債を抱え倒産し、世界を驚かせた。
2010年1月のことである。
「驕る平家は久しからず」と言われるように、そこに驕りがあったことは間違いない。驕る日本航空に対する国民の視線は厳しく、再建は不可能だと多くの識者は断じていた。その日本航空は1年後には、過去最高の1800億円を、2年後には2000億円を超える営業利益を上げ、世界で最も高収益な航空会社の一つとなった。
2012年9月には、再上場を果たし、その結果、再建にあたり3500億円を出資した企業再生支援機構は3000億円を超えるキャピタルゲインを得ることになり、国家財政にも大きく貢献した。
そして日本航空は現在も高収益を維持している。
再建のスピードがあまりにも速く、何か裏で特別な優遇措置が取られたのではないかとの疑いも出てきたほどである。しかし、法治国家である日本で、しかも会社更生法が適用され、裁判所管轄のもとで再建が進められた日本航空で、そのようなことができるはずはない。倒産したことによって、社員の危機感が高まり、それをバネにして、再建が進んだという見方もある。
しかし、危機感があれば、倒産しないはずである。これまでの歴史が証明しているのは、会社更生法が適用された多くの企業では、倒産したことにより社員の心が荒み、さらに経営が悪化してしまうということであり、実際に多くの企業が再建に失敗している。
では何が起きたのか。
本書では、私見を述べさせていただいている。私は、大変幸運にも、稲盛和夫さんという無私の経営者の近くで25年ほど仕事をしてきた。特に、日本航空の再建では、主に意識改革担当として、3年間、ご一緒させていただいた。
そこで、私が感じたことは、痛み傷ついていたJALの社員の心が、見る見るうちに健全な心へと甦っていったということである。倒産という極限の状況に置かれながらも、一致団結し、明るく前向きに再建に取り組んだ。人間という集団が善き思いをもち、心を一つにして取り組めば、想像を超えるような力を発揮できるということを私は実感することができた。
なぜそれができたのか。
それはリーダーである稲盛さんに、誰から見ても納得できる、全く疑いようもない純粋な善き思い、途方もないほどの大きな愛があったからとしか説明はできない。世界中に企業を再建した経営者は数多くいる。
しかし、初めから無報酬を条件とし、高齢であるにもかかわらず、誰よりも誠実に真剣に再建に取り組み、成功しても、1円の対価も求めず、しかも、成功すると自らすぐにその地位を退いた経営者はいないのではないだろうか。そのようなリーダーの姿を見て、その善き思い、愛に触れて、当事者である全社員が奮い立ったのである。
本書では、稲盛さんの経営哲学の根幹となる「成功方程式」を縦軸に、稲盛さんのエピソードや私自身の意識改革の取り組みも紹介しながら、稲盛さんの純粋な善き思いが、如何にJALを変え、再生が進められたのかをできるだけ詳しく述べてきたつもりである。奇跡的と形容される日本航空の再建の背景をご理解いただき、読者の方々の生き方に何がしかのヒントになるものがあれば、望外の幸せである。
大田嘉仁
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目 次
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第1章 縁に導かれて
第2章 稲盛経営哲学 成功方程式とは何か
第3章 なぜJALは経営破綻したのか
第4章 意識改革
第5章 リーダーから変える
第6章 全社員の意識を高め、一体感を醸成する
第7章 フィロソフィと正しい数字で全員参加経営を実現する
第8章 JALで生まれた社員の変化
第9章 愛情と真剣さ――稲盛さんのリーダーシップ
第10章 甦った心
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内容(一部)
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・より良い生き方を教える成功方程式
・正しい「考え方」を哲学へ昇華させる
・「能力」は進化する
・成功方程式で組織も変わる
・旧JALに受け継がれていた不思議な文化
・たった5人で3万2千人を変える大仕事
・リーダーとマネージャーの違い
・幹部たちを感激させた稲盛さんの鬼気迫る講義
・数字で経営するという意識をもたせる
・幹部の一体感が一気に高まった「伝説の合宿」
・スピード感を大切にする
・フィロソフィと数字で経営する
・全員参加経営のためのフォーマット作り
・数字と現場に強いリーダーを育てる
・会議は教育の場
・機内販売も一つの事業
・コンサルタント会社の売り込みをすべて断る
・稲盛さんから全社員へ出された手紙
・パイロットの卵たちを感激させた稲盛さんの本気
・無償の愛が社員の心に火をつける
・なぜJALフィロソフィを学ぶと心を変えられるのか
・再建が早く進んだ理由
・盛和塾生の善意
・善意が善意を呼ぶ
・JAL再建の価値
……ほか
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なぜ、不可能といわれたJAL再生は、
わずか1年で可能になったのか?
◇大田嘉仁(おおた・よしひと)
昭和29年鹿児島県生まれ。53年立命館大学卒業後、