経営に一つの答えはない――いまこそ学びたい、松下幸之助の経営哲学

いまなお人々をひきつけてやまない松下電器産業(現・パナソニック)創業者・松下幸之助。いま日本では、企業の不祥事の頻発や技術革新の遅れなど、経営と取り巻く環境は厳しさを増しています。そんな変革の時代だからこそ、我が国が誇る稀代の経営者、松下幸之助の教えに真摯に学ばなければなりません。作家の北康利さんに、その教えを語っていただきました。

環境によって経営の最適解は変わる

幸之助はある時、天理教本部を訪問し、信仰というものがいかに人の心を一つにするかを目の当たりにした。そして自分の仕事にも、信仰に似た大義はないかと考えた結果、〝水道哲学〟と後に呼ばれることになる考え方に辿り着く。
 
それは、

(我が社の使命は、電気製品を水道の水のように大量に、そして安価に供給することなんやないか!)
 
というものであった。
 
昭和7(1932)年5月5日、全社員の前でこのことを発表。以来、この日がパナソニックの創業記念日(命知元年)となる。彼は社員が仕事に誇りを持って取り組めるものを見出したのだ。
 
昭和8(1933)年5月、彼は社内組織の抜本的改革に取り組む。
 
ラジオ部門を第一事業部、ランプ・乾電池部門を第二事業部、配線器具・合成樹脂・電熱部門を第三事業部に分割したのである。我が国経営史上画期的な組織体制とされる〝事業部制〟の誕生である。

〝独立採算制〟が採用された。すると、ほかの部門が儲かっているから自分たちは少しくらい赤字でもいいだろうという甘えがなくなる。自分が社長になったつもりでやってみたいという、やる気旺盛な幹部を事業部長にすることで、将来の社長候補に育てることも可能だ。幸之助はいくつもの効果を狙っていた。
 
同年7月には、現在パナソニック本社がある門真に本社を移転。すでに松下電器製作所は従業員1000人を超える大会社となっていた。
 
昭和10(1935)年12月、株式会社組織にするのを機に、社名をこれまでの「松下電器製作所」から「松下電器産業株式会社」へと改称する。その後、平成20(2008)年10月に現在のパナソニック株式会社になるまでの73年間、この社名が使われ続ける。
 
幸之助の画期的な試みの一つに経営理念の制定がある。
 
それは単純化すると、「お客様第一」「日に新た」「企業は社会の公器である」(私企業であっても、企業は社会のために存在しているのだ、という意味)の三つだった。
 
中でも注目するべきは、「日に新た」だ。
 
世の成功者の多くは、自分のやったようにやればいいと言いがちだ。しかし彼は、経営に一つの答えなどなく、環境によって最適解は変わり続けるのだと教えたのだ。

(※本記事は『致知』2011年12月号「孔子の人間学」に掲載された記事を抜粋・編集したものです。全文は本誌をご覧ください。各界のリーダーたちもご愛読、人生や経営のヒントが満載、人間力を高める月刊『致知』の詳細・ご購読はこちらから)

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