マザー・テレサに学ぶ最高の「精神の自由」

松下政経塾の塾頭として、経営の神様・松下幸之助の謦咳に接し、現在は自ら主宰する「青年塾」で日本の若者の教育に尽力している上甲晃さん。人生の大きな示唆を受けたというマザー・テレサとの出会いから学んだことをお話しいただきました。

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マザーにどうしても聞いてみたかったこと

〈上甲〉
松下政経塾で14年間塾生を育ててきた中で、やる気のない人を教育するのも難しいが、自分に自信のある人を教育するのも難しいことを痛感しました。

自分は偉いと思い込んでいる人は、素直に言うことを聞かない。松下政経塾には当初、エリートを自認して偉そうにしている塾生がたくさんいました。人の言うことを聞かず、理屈が多く、指導には大変苦労をしました。
 
そんな私に大きな示唆を与えてくださったのがマザー・テレサでした。

マザー・テレサの言葉に常々深い感銘を受けていた私は、この人に会いたいという思いを募らせ、ついに後先考えずにインドのカルカッタ(現・コルカタ)へ渡りました。彼女に直接、どうしても聞いてみたいことがあったからです。
 
当時のカルカッタは人口1000万人のうち200万人が路上生活者で、至るところに生死も分からない行き倒れの人が転がっていました。全身から膿を出している人、ウジ虫の湧いている人、とても側に寄れたものではありません。

しかしマザー・テレサと仲間のシスターたちは、一番死に近い人から順番に抱きかかえて、死を待つ人の家に連れて行き、体を綺麗に洗ってあげ、温かいスープを与えて見送るのです。せめて最期の瞬間くらいは人間らしくと願ってのことでした。
 
運よく、カルカッタの礼拝堂でマザーに面会することのできた私は、「どうしてあなた方は、あの汚い、怖い乞食を抱きかかえられるのですか?」と尋ねました。

マザーは即座に、「あの人たちは乞食ではありません」とおっしゃるので、私は驚いて「えっ、あの人たちが乞食でなくていったい何ですか?」と聞くと、

「イエス・キリストです」
 
とお答えになったのです。私の人生を変えるひと言でした。

自分の人生を変えるのは自分自身

マザーはさらにこうおっしゃいました。

「イエス・キリストは、この仕事をしているあなたが本物かどうか、そしてこの仕事をしているあなたが本気かどうかを確かめるために、あなたの一番受け入れがたい姿であなたの前に現れるのです」
 
目から鱗が落ちる思いでした。マザーの言葉を伺った瞬間、私が松下政経塾で、あんな人は辞めてほしいと思っていた塾生が、実はイエス・キリストであったことに思い至ったのです。
 
自分はこれまで、他人を変えようとするあまりどれほど人を責めてきたことだろうか。しかし、いくらそれを続けたところで人を変えることはできない。

人生でただ一つ、自分の責任において変えられるのは自分しかない。常に問われているのは、自分から変わる勇気を持てるかどうかだ。このことに気づいた途端、心が晴れ晴れとしてきたのです。
 
最高の精神の自由とは、自ら気づき、自分で自分を変えていくことだと私は思います。人は物事が上手くいかないと、あいつが悪い、世の中が悪い、環境が悪いと、その原因を外に求めてしまいがちです。しかしよくよく考えてみると、本当に悪いのは自分自身ではないでしょうか? 

自らを省みて、自らを変える勇気を持つ。このことが、自分の人生を力強いものにしていく一番の要訣であることに、私は思い至ったのです。


(本記事の全文は書籍『生き方入門』(致知出版社刊)に収録されています)

◇上甲晃(じょうこう・あきら)
昭和16年大阪府生まれ。40年京都大学卒業と同時に松下電器産業(現・パナソニック)入社。広報、電子レンジ販売などを担当し、56年松下政経塾に出向。理事・塾頭、常務理事・副塾長を歴任。平成8年松下電器産業を退職、志ネットワーク社を設立。翌年、「青年塾」を創設。著書に『志のみ持参』『志を教える』『志を継ぐ』など多数(いずれも致知出版社)。

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