読書は人間を変え、人生を変える

一冊の本との出会いが人生を大きく左右することがあります。まるで導かれるようにして一冊の本と出会い、それが人生をひらく大きな道標となる――。そこで今回は、『呻吟語』や『菜根譚』などの中国古典を翻訳として活躍する祐木亜子さんの「本との出会い」をご紹介します。(本記事は『致知』2009年9月号「一書の恩徳、萬玉に勝る」に掲載された記事を抜粋・編集したものです)

各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

運命を変えた一冊の本『菜根譚』

私を中国古典の世界へ誘ってくれたのは、大学時代の恩師でした。

 双子の妹とともに同じ大学の同じ学部に進学した私は、自分とは何者だろう、というアイデンティティーの問題を人一倍意識していました。

 加えてその頃の私は、意見の異なる相手と心を通わせる術に長けていなかったため、しばしば人と衝突しては、自己嫌悪や人間不信に陥ることを繰り返していました。

 大学で中国語を教わっていた恩師の研究室を訪れた時、そういう自分の悩みを打ち明けたところ、

 「君は、自分がどう生きたらいいのか分からないのだろう」

 と言われ、一冊の古典を手渡されました。『菜根譚』でした。

    ・  ・  ・  ・

最初は、生身の人間とぶつかり、葛藤している自分の思いに、こんな古くさい書物が応えてくれるとは思えず、しばらく本棚の中で眠ったままになっていました。 

ところが、何かのきっかけでページをめくったところ、そこに書かれている言葉にグイグイ引き込まれていったのです。 

私は、自分の考えを相手に聞いてもらうことにばかり執着して、相手を受け入れること、受け入れられる自分を養うことをしていなかった。自分はまさに、ここに書かれている小人ではないか……一読して思わずため息が出ました。 

・    ・  ・  ・  ・

「忍激(にんげき)の二字は、これ禍福の関なり」

(じっとこらえて辛抱するか、一時の激情に駆られて爆発するか。どちらをとるかが幸福と不幸の分かれ道になる)

「人を責むるなきは、自ら修むるの第一の要道なり」

(人を責めない、これが自らを修める上で最も大切なことである)

例えばこうした『呻吟語』の言葉に繰り返し触れるうちに、友人たちから「丸くなったね」と言われるようになりました。

先達の叡智が私の中に浸透し、少しずつ表に現れるようになったのかもしれません。


 ◇祐木亜子(ゆうき・あこ)

山口県生まれ。東北大学経済学部卒業。中部電力を経て中国へ渡り、上海の弁護士事務所で通訳・翻訳業務に従事。帰国後独立し、祐木亜子事務所を設立。現在は早稲田大学大学院アジア太平洋研究科で現代中国について研究を続ける傍ら、中国古典の翻訳や講演・執筆活動を行う。

各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。

1年間(全12冊)

定価14,400円

11,500

(税込/送料無料)

1冊あたり
約958円

(税込/送料無料)

人間力・仕事力を高める
記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 11,500円(1冊あたり958円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 31,000円(1冊あたり861円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

人気ランキング

  1. 【WEB chichi限定記事】

    【取材手記】ふるさと納税受入額で5度の日本一! 宮崎県都城市市長・池田宜永が語った「組織を発展させる秘訣」

  2. 人生

    大谷翔平、菊池雄星を育てた花巻東高校・佐々木洋監督が語った「何をやってもツイてる人、空回りする人の4つの差」

  3. 【WEB chichi限定記事】

    【編集長取材手記】不思議と運命が好転する「一流の人が実践しているちょっとした心の習慣」——増田明美×浅見帆帆子

  4. 【WEB chichi限定記事】

    【取材手記】持って生まれた運命を変えるには!? 稀代の観相家・水野南北が説く〝陰徳〟のすすめ

  5. 子育て・教育

    赤ちゃんは母親を選んで生まれてくる ——「胎内記憶」が私たちに示すもの

  6. 仕事

    リアル“下町ロケット”! 植松電機社長・植松 努の宇宙への挑戦

  7. 注目の一冊

    なぜ若者たちは笑顔で飛び立っていったのか——ある特攻隊員の最期の言葉

  8. 人生

    卵を投げつけられた王貞治が放った驚きのひと言——福岡ソフトバンクホークス監督・小久保裕紀が振り返る

  9. 【WEB chichi限定記事】

    【取材手記】勝利の秘訣は日常にあり——世界チャンピオンが苦節を経て掴んだ勝負哲学〈登坂絵莉〉

  10. 仕事

    「勝負の神は細部に宿る」日本サッカー界を牽引してきた岡田武史監督の勝負哲学

人間力・仕事力を高める
記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

閉じる