若き日の孫正義が語った自らの原点

世界が注目する日本を代表する経営者で、ソフトバンクグループ創業者の孫正義さん。一代で世界的企業を築き上げながらも、いまなお飽くなき挑戦を続ける孫さんの原点には何があったのでしょうか。若き日の貴重なインタビューをご紹介させていただきます。

両親からの「英才教育」

――お父さんもたしか経営者だそうですね。お父さんの影響もありますか。

(孫)
父は、福岡で、パチンコ屋とかレストランのチェーンをやっているわけですが、僕が小さいころから、私によく仕事の相談をしたんですよ。

――と、いいますと?

(孫)
僕が小学生ぐらいのときからでしたが、親父にしてみれば、恐らく教育の一環としてやっていたんでしょうね。例えば、レストランを開くときでも、店の名前やメニューについて僕の意見を聴いてくるわけですよ。それに対して僕が何かいうと、「ああ、それはいい。よし、それでいこう」とか言ってね、本当にやるんです(笑)

そんな調子ですから、親父もお袋も、一度も「勉強しろ」なんて言ったことがないんです。ただ、いつも言われたことは、「お前は天才だ」「お前は日本一の男になる」ということなんですよ。それも、4つ、5つの小さい子供のときからですからね。

――ほう、一種の英才教育ですね。

(孫)
そうかもしれませんが、怒られたという記憶もないんです。とにかく、「お前は天才だ」「お前はすごい」というようなことばかり、繰り返しいうわけです。試験の成績がいいと、「やっぱりすごい」と。成績が悪いときには、「お前はやりさえすれば日本で1番だ」と言って、とにかく何をやっても褒めてくれるわけです。

「ああ、そうか。おれはやりさえすれば1番なんだな。たまたまやっていなかったから、成績が悪かったんだ。これは仮の姿なんだ」と思っちゃう(笑)

――お父さんは素晴らしい教育者ですね。

(孫)
ええ、僕が言うのもあれですが、小さいときは、本当にそう信じてましたよ、僕は。最近になってからですね、ああ、あれは親父の手だったんだなということがわかったのはね。

そういうことで、僕自身は、小さいときから事業家になるか、政治家になるか、どっちかだと思っていました。

――夢としてはね。

(孫)
しかし、政治家といっても、日本では政治家として能力を発揮するというのは、若者にはあまりチャンスがありませんし、また、自分の一存でなれるわけじゃなくて、相手が決めるわけですからね。経営者だったら、自分がなりたいと思えば、ある程度、夢はかなえられますからね。

脳みそがちぎれるまで考えよ

——リーダシップについては、どう考えておられますか。

(孫)
非常に難しいことですね。

とにかく、会社が100人ぐらいまでのときは、自分が何でも先頭に立って、とにかくやってみせる、そしてみんな付いてこいというスタイルですよね。

これが数百名、あるいは1,000名ぐらいになりますと、自分が全部やってみせるというわけにはいきませんから、うまく指示をして、その通りやってるかどうかチェックするかたちになると思うんです。

これが1,000名をすぎて数千名になると、今度は自分1人ではチェックできませんから、組織でもってチェックアンドバランスの体系を作っていかなければならない。

——たしかに。

(孫)
これが10,000名を超えてくると、もう、人為的にチェックしたり組織でやるといっても、なかなか自分の思い通りには動かない。

そうなると、もう、ただひたすら、自分の思いを込めて両手を合わせて祈りながら、その祈りがじわーっと幹部に伝わり、その幹部から末端の社員まで浸透していくというようなかたちになるんじゃないんでしょうか。

――ああ、10,000名を超えると祈りの経営ですか。

(孫)
怒って言って聞かせても、なかなか目が行き届かなくなってくる。そのときに自分の心底の真心からの思いがじわーっと染み込んでいくような、そういう真心の経営みたいなものをやっていかないと、人心を集めるということはできないだろうなと僕は思います。

私どもの会社が、果たしてそこまでの規模の会社になれるのかどうか、やってみないとわかりませんけれども、少なくとも男として会社を経営する以上は、そのぐらいの企業になりたいというふうには思っているんですけどね。

――現在のところは、幹部に対して、何をいつも強調しておられますか。

(孫)
現在のところ、我が社は、どんどん開拓していかなきゃいけない時期ですからね、できあがったものを守ればいいというスタイルでは時代の波に流されてしまう。だから、いろんな意味で攻めていかなければいけないわけです。

攻めていくということは、かなり難しい局面でも、それをクリエーティブに打開していかなければならない。

そのためには、脳みそがちぎれるほど考えろ、と。ちぎれるほど考えてもなかなかちぎれはせん。本当に心底、ちぎれるほど考えてみよ、そうするとおのずから新しいひらめきなり問題解決策が出てくる、というんです。

――ああ、とことん考え抜け、と。

(孫)
それと、ストレス解消は、問題事から逃げることによって解決してはならんというんです。

僕のストレス解消法というのは、何か問題があったらそれを忘れるために酒を飲むとかゴルフをやるとかいうんじゃなくて、それをとことん考え抜いて、考え抜いて、解決策を見いだして実行に移す、そうすると、もやもやがスカッと晴れるわけですね。

やはり、問題から逃げてはならないよということをいいます。

――大事なことですね。

(孫)
それからもう一つ、世の中、困難なことだらけだ、困難なことはたくさんある、しかし、不可能なことはそうたくさんはないよ、と。

まあ、そういうことで、とにかく私どもは役員にしても、みんな部長兼務役員ばかりで、しかもみんな若い。30代、40代ですから、まさに、自らが、どんどん攻撃に突っ込んでいってやらなければいけないということです。

そういうことを心掛けていませんと、まだまだ小さな組織で、しかも、自らをどんどん革新していかなきゃならない組織でね、幹部が社員から担がれるみこしに、ただじっと座っているというようなスタイルでは我が社は持たないですからね、社長自ら先頭に立って、どんどんアイデアを考え、指揮していくという気持ちでやっております。

(※本記事は『致知』1989年11月号 特集「想いを込める」より一部を抜粋・編集したものです。『致知』には人間力・仕事力を高める記事が満載!詳しくはこちら

孫正義(そん・まさよし)

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昭和32年佐賀県鳥栖市生まれ。久留米大学付属高校に入学後、同49年9月米国サラモンテ・ハイスクールへ。同50年9月ホーリーネームズ大学に入学。同52年カリフォルニア大学バークレー校に編入。在学中に「音声装置付き多国語翻訳機」を発明し、㈱シャープとライセンス契約する。同55年同大学卒業。同56年9月㈱日本ソフトバンクを創立。

(※プロフィールは『致知』掲載当時のものです)

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