どんなに酷い親でも、子どもはお母さんが大好き。日本最高齢の助産師が贈る、大切な愛の話

和歌山県田辺市の閑静な住宅街に開かれた坂本助産所。ここで、4,000人を超える赤ちゃんを取り上げてきたのが94歳(掲載当時)の現役助産師・坂本フジヱさんです。約70年に及ぶご体験を踏まえて、よい子が育つ秘訣を伺いました。

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「盲目の愛」でいい

――(よい子育てのために)具体的にはお母さんはどうすればいいのでしょうか。

〈坂本〉
何も難しく考える必要はなくて、赤ちゃんを抱いて抱いて、ひたすら抱きしめて、徹底的に可愛がってあげる。与えて与えて、与えきって構わないんです。そうすれば、素直ないい子に育ちますよ。特に最初の3か月までは盲目の愛でいいんです。

ところが最近のお母さん方は昔に比べて大学とか短大まで進んで教育を受けるようになったでしょう。そういう人たちが赤ちゃんを育てると、物言わぬゼロ歳児は何も分からないと思って、自分の考え方や価値観というものを押しつける。実はそれが赤ちゃんに理不尽に堪えているんですよ。

――最近はゼロ歳児を対象にした教材もかなりありますね。

〈坂本〉
ゼロ歳児には道徳の観念や躾は無用だし、親の欲目で早くから教育しようなんていう考えは1つもいらないんです。それよりも1年間は徹底的に大事に大事に育ててあげる。

そうして1年経ったら、いろんなことに耐えられるようになるから、教えるのはそれからでいい。逆にゼロ歳児のうちにあやふやな養い方をすると、その後遺症が一生続いていくんです。どうなるかというと、自己を肯定する感情が育たなくなる。だから母親とゼロ歳児の赤ちゃんとの間には、他の人に首を突っ込ませるなということなんです。

――自分のことが好きではない子供が増えているといいますね。

〈坂本〉
本当の愛情をもらった子供たちは、母親との間に原信頼関係というのができてくるんです。そして次に自尊、つまり自分を尊ぶ感情が生まれてくる。「自分はお母さんが思ってくれているような大切な人間なんだ」と自覚できるようになると、今度は自分を大切にするだけではなく、人も大切だということを自然に学んでいくというわけです。

つまり母親との原信頼関係が強固に構築されれば、それをベースに父親も見る、おじいちゃんおばあちゃんも見る、周囲の人たちも見る、というように社会に広がっていく心というものが育まれていくんですよ。

赤ちゃんをみくびったらあかん

〈坂本〉
もっとも、私が昭和22年に開業した当時のことを思ったら、この頃の赤ちゃんって随分進化したと思うんですね。

――赤ちゃんが進化しているんですか!?

〈坂本〉
やっぱり半世紀も経つと、どこかに進化の後が出てくるんですよ。どの部分かというと、私は智恵ではないかと思うんです。

――智恵、ですか。

〈坂本〉
昔から「三つ子の魂百まで」と言われていますが、私は1年間母親が愛情を注げば大丈夫だという考え方でした。ところが最近の赤ちゃんは半年でマスターしているんじゃないかなと思うんですね。赤ちゃんに寄り添って観察していると、どうしてもそんな気持ちがするんですよ。

だから子供が生まれて半年くらいして、お母さんから復職したいという相談を受けたら、この頃は「行きなさい、行きなさい」と言っているんです。家でお守りをしてくれる人がいて全面的に引き受けてくれるんだったら、絶対に心配ないと勧めているくらいなんですよ。

もちろんそのためには、最初の6か月間徹底して「あんたはお母さんが全部引き受ける」というくらいの根性を母親が持つことが大事。そうすれば赤ちゃんも納得すると思うんです。

――そこに人間の赤ちゃんの進化があると。

〈坂本〉
ただし、お母さんが仕事から帰ってきて、「ただいま」と言って抱き上げる、その瞬間がものすごく大事ですね。

「あんたがこうして遊んでくれたから、お母さん安心してお仕事できたよ」っていう気持ちを体全体で表現することで子供に分からせる。それも一日だけじゃなくて毎日やるんです。

子供はね、どんなにずっこけた人であってもお母さんが大好きです。だから、お母さんが喜んで仕事をしていると、だったら僕はお母さんがいなくても遊んであげよう、という高揚感を持つんですよ。

――お互いの信頼関係があってこそのものですね。

〈坂本〉
だから私はゼロ歳児の赤ちゃんをみくびったらあかんということを、あちこちで強調して喋っているんです。ゼロ歳児の1年間の養い方を間違ったら、その人は一生そのキズを引きずって生きることになる。

例えば自分の恋人を殺すストーカーっていうのがいるでしょう。あれは幼少期にお母さんとの接触がうまくいってないから、大人になって自分の恋人にお母さんを重ね合わせて考えているんですよ。とても純粋な気持ちで母親の愛情に飢えていて、それを形を変えてでも取り戻そうと、もう本当に必死なんです。

――とても根の深い問題ですね。

〈坂本〉
私が生まれた頃と比べたら、いまの子供を育てる環境というのはものすごく恵まれています。ところが実際は、昔よりも何かが足りないという思いで暮らしている人が多いでしょう。私はその「何か」というのは物質的なものではなしに、心の底に奥深く潜んでいるものだと思えてなりません。

ですから、いまここで私たちの生活というものを、もう一度考え直す時期にきているのではないかと私は思っているんです。


(本記事は月刊『致知』2014年12月号 連載「生涯現役」より一部抜粋したものです)

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