2018年06月05日
資源の枯渇が叫ばれる中、紙やプラスチックの代替となる画期的な新素材・ライメックス。その原料は何と、「石」でした。事業を手掛けるのはTBM社長・山﨑敦義氏、45歳。ゼロから立ち上げたライメックス事業は、現在世界を大きく変えつつあります。その足跡を伺いました。
一度しかない人生、大きなことをやりたい
通常の紙は、1トンつくるのに約20本の木と100トンの水が必要ですが、ライメックスは世界中に無尽蔵にある安価な石灰石を主原料につくることができるので、資源の枯渇が深刻化する世界に大きく貢献できる点が大きな魅力です。
現在サウジアラビアにライメックスの製造プラントを建設するプロジェクトが進行するほか、石油の使用を大幅に抑えた環境に優しいプラスチックの代替製品をつくることもできるため、将来を非常に期待されています。ライメックス開発に至るまでの山﨑さんの歩みを伺いました。
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僕は田舎生まれのやんちゃ育ちでしてね。中学校を出て最初は大工の見習いをしていたんですが、20歳の時に仲間と一緒に中古車屋さんを始めたのが起業人生のスタートでした。
田舎だったので車がなくては生活できませんし、僕自身も車が好きだったので、先輩の中古車屋さんを少し手伝った後、自分でやってみたくなって友達や後輩と一緒に始めたんです。
大きな会社に勤めることは、僕のバックボーンでは無理だろうけど、大きな会社をつくる可能性なら1%くらいはあるかもしれない。だったらそっちに懸けてみようと。当時は仲間と、「一度しかない人生、大きなことをやりたいな」とよく語り合ったものです。
しかし、そうこうしているうちに、30歳になってしまって、自分が20歳の時に思い描いていた30歳と、あまりにもギャップが大きいことに愕然としました。本当は漫画に出てくるような、もっととんでもなく大きなことをやり遂げているはずだったんです(笑)。
こんな実りのない10年をあと3、4回繰り返せば、もうお爺ちゃんといわれるような年になるんだなと、残りの人生の身の振り方についてものすごく考えました。
ちょうどそんな時に、親しい先輩に誘われて初めてヨーロッパに行きましてね。それが人生観を変える大きな転機になったんです。
大工をやっていたこともあって、向こうの有名な建造物が何百年もかけてつくられているのが衝撃で、それをいま、自分のこの目で直接見られることに感動しました。
そんなに勉強もしてこなかったので、歴史を振り返ることなんてなかったんですが、こんなに平和で恵まれた時代に生かされている自分の立場を大事にしなければとつくづく思いましたし、自分がいなくなった後も、その志を継いで何百年も挑戦を続けていくような会社を残したい。そういう会社を人生を懸けてつくりたいということを、あの旅行をきっかけに思うようになりました。
僕はいま、分かりやすく世の中の役に立つこと、グローバルに挑戦できること、1兆円規模まで展開していけることを事業の基準にしているんですが、その志を抱くきっかけになったのが、このヨーロッパ旅行でした。
挑戦して本当によかった
世の中の役に立つこと、グローバルに挑戦できること、そして一兆円規模まで可能性の広がる事業を模索するようになって、そういう中で、いま手掛けているライメックスのもとになる、台湾製のストーンペーパーに出合ったわけです。
知り合いの社長さんから、「こんなものがあるんだけど、知っているか?」と紹介されて、台湾に飛んで輸入商社として契約を結んだんです。
ところが、その台湾のメーカーがつくるものは品質が悪くて、興味を持ったけど諦めたという商社が多かったんです。もっと低コストでいいものがつくれるはずだと言っても、関心を示さない。最後はのるかそるかで説得をしに行ったんですが、結局決裂してしまって、自分でつくることを決意しました。
大変な苦労をするだろうことは分かっていました。でもそれ以上に、自分たちでスタートできるワクワク感とか、いまに見てろっていう気持ちのほうが強かったですね。いま振り返っても、挑戦して本当によかったですよ。
ただ、コンセプトには多くの方が興味を持ってくださるんですが、なかなか収益に結びつかなくて、実情は大赤字でした。20歳に起業して以来、そこそこ貯まっていたお金も全部使い果たして、もう本当にダメだというところまで追い詰められていました。
実は、ライメックスの開発に取り組むまで、僕は他人にお金を出してもらう経験をしたことがありませんでした。実際に資金を募ってみて、ここまで苦労するのかというような辛い体験をたくさんしたものですから、経産省がリスクを取って僕らの将来に期待してくださったのは本当にありがたかった。
出資が決まった日は、人間これくらい泣けるのかなっていうくらい泣きました。たくさんの方に心配をおかけしていたので、よい報告ができるのが本当に嬉しかったですね。
(本記事は『致知』2018年1月号 特集「仕事と人生」より一部抜粋したものです)
◇山﨑敦義(やまざき・のぶよし)
昭和48年大阪府生まれ。中学卒業後に大工となる。平成5年中古車販売業を始める。23年TBMを設立し、社長に就任。従来のストーンペーパーと異なる、紙やプラスチックの代替となる石灰石を主成分にした新素材ライメックスを開発。日経スペシャル「カンブリア宮殿」10周年500回記念番組に登場。資源の枯渇や環境問題の克服に貢献すべく尽力している。