王貞治×荒川博——生涯唯一の師弟対談【後編】

荒川博さん24歳、王貞治さん14歳。往年の野球ファンなら誰もが知る、球史に燦然と輝く868本のホームラン世界記録は、この二人の出会いから始まりました。両氏はどのような出会いを果たし、どのような特訓を経て、「世界の王」をつくり上げたのか。運命的な出逢いから55年の時を経て、初めて実現した荒川さんと王さんの貴重な師弟対談をご紹介します。

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本人のやる気を引き出す

〔王〕
僕も長年監督を務めてきましたが、荒川さんが最初に僕をご覧になった時と同じように、ぱっと見た時に、伸びるか伸びないかというのは分かるものです。

伸びる選手は能力が高くて体が頑丈な人。それからやはり、向上心が強い人ですね。もし能力がありそうな選手であれば、向上心を目覚めさせることが先決です。

だから荒川さんの言葉のように、

「おまえの力はこんなものじゃない。タイトル争いができるような能力があるんだぞ」

と言って、目覚めさせたりすることが必要なのだと思います。

荒川さんからは、「言葉を使う」という指導の方法を教えていただいたから、僕も選手たちの心を鼓舞するような言葉を伝えてきました。

そうやって本人のやる気を引き出すことが、指導者にとっての大切な役割だと思います。

奇人変人でなければ教える名人になれない

〔荒川〕
やる気を引き出すという点では、私がジャイアンツのコーチに着任して21歳の王を指導することになった時にこんな条件を出した。

「きょうから酒と煙草をやめろ。彼女がいりゃ、彼女も捨てて、バカ一筋になって3年間打ち込め」

プロの世界だから様々な誘惑があるだろう。でも若いんだから、3年や5年の間は我慢しろ、と言ったんだ。

私ができるか?と尋ねたら、王は迷いもせず、「はい」と答えた。そこでまた「はい」って言ったところが凄いんだよ。

14歳の時とおんなじだった。7年後の、21歳の時に。だから珍しいんだよ、王みたいなのは。これはやっぱり、お父さんのおかげ、お母さんのおかげだと思うよ。

〔王〕
荒川さんは、うまく鞭を使ったり、飴を使ったりしながら僕の心を奮起させてくださった。

まさに、「感奮興起」という言葉のとおり、何かに深く感じ入って奮い立ったり、自分自身が物凄く興に乗ったりすることによって、物事は動いていくものだと思うのです。

荒川さんは、教えるということに関しては、本当に奇人、変人といわれる範疇に入る人だと思います。でもそれぐらいでなきゃ、教える側の名人にはなれないでしょう。

そういう人に出会えたことは、僕にとっては本当に、ラッキーなんてものじゃなくて、人生のすべて、といってもいいくらいのありがたいものでした。


(本記事は月刊『致知』2009年8月号 特集「感奮興起」より一部抜粋・再編集したものです)

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『致知』と出逢ってもう二十年になる。

現状に満足せず、人の生き方に学びながら、自分を高める――。これは私が野球選手として、また監督として、常に心懸け実践に努めてきた姿勢であり、『致知』を読み続ける中で、毎月教えられていることでもある。

人は時代の波に振り回されやすいものだが、『致知』は一貫して「人間とはかくあるべきだ」ということを説き諭してくれる。本当に世の中に必要な本だと思う。

◇王 貞治(おう・さだはる)
昭和15年東京都生まれ。34年早稲田実業高等学校卒業後、読売ジャイアンツに入団。48、49年三冠王。52年通算本塁打756本の世界記録を達成し、初の国民栄誉賞を受賞。55年通算本塁打868本の世界記録を最後に現役生活を終える。59~63年読売巨人軍監督。平成7年福岡ダイエーホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)監督就任。20年退任。令和2年現在、福岡ソフトバンクホークス会長。

◇荒川 博(あらかわ・ひろし)
昭和5年東京都生まれ。早稲田実業高等学校から早稲田大学商学部へ進学。28年毎日オリオンズ(現・千葉ロッテマリーンズ)入団。現役時代は左の巧打者として活躍する。36年引退後、翌年から45年まで読売ジャイアンツ打撃コーチ。王貞治、長嶋茂雄、広岡達朗、榎本喜八などに打撃指導を行ったことで知られる。49年ヤクルト監督就任。51年退任。平成11年日本ティーボール協会副会長。荒川野球塾塾長などを務める。著書に『生まれ変わるバッティング』(新星出版社)がある。平成28年死去。

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