パナソニックのビューティ家電、大ヒット連発の裏側を覗く

パナソニックの美容家電「パナソニック ビューティ」シリーズ。その高級感や使用感に憧れを抱いている女性は多いことでしょう。清藤美里さんは、代表商品であるナノケアドライヤーの販促の他、男性顧客の開拓に繋がった頭皮エステなどを開発。同じく生み出した衣料スチーマーは、販売開始から僅か3年で120万台を超える大ヒット商品となりました。入社当初は悩んでばかりだったと語る清藤さんは、どのように仕事へ取り組んでこられたのでしょうか。(内容は2018年当時のものです)

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泥臭い仕事に就きたかった若手時代

清藤さんは人一倍成長意欲が強く、就職活動は組織におけるすべての仕事を早く学びたいと、泥臭い営業職を自ら志望したと言います。

その頃の日々をこう振り返られています。

いまは絶対にNGでしょうが(笑)、当時は普通に夜中に呼び出されるなど大変なこともたくさんありました。納入トラブルが発生するとお客様の生産ラインに迷惑がかかり、すぐに損害賠償の話になってしまうので、工場内の製品を自ら運んで急場を凌いだりもしました

しかし、清藤さんは心の持ち方が違いました。

そんな環境で交渉術や調整能力を学び、ちょっとやそっとのことではへこたれないストレス耐性を身につけられたことは、大変プラスだったと思います

普通の人が挫けてしまいそうな環境の中でも、常にポジティブに自分を成長させようと取り組んでいたのです。 

成長の鍵となった小さな心掛け

常にパワフルな清藤さんですが、取材をさせていただいた私が一番感動したのが、若手時代から行っていた「たった一つの心掛け」でした。

「上司や先輩からダメだと指摘を受けたことはすべてメモして覚えていて、その指摘が腑に落ちるまで何度も何度もメモを見返していました。叱られた時は納得がいかないことでも、後から振り返ると愛情を持って育ててくださっていたのだと気づくことができ、後日叱っていただいた方にお礼に行くようにしていました」

悔しいこと、腑に落ちないことでもすべてメモをし、理解できるまで見返し、考え続けた。それを続けたことが、清藤さんを成長させたのでしょう。

*  *  *

入社4年目には、自ら社内公募で、現在の部署であるパナソニックビューティの商品企画部に異動。自ら挑戦するために移動したのに、そこでの仕事はまるで社内リストラ状態だったといいます。

「電器産業から電工に移ったのは私が第一陣で、同期も知り合いもいない上に社風も全く異なり、そこからが本当に逆境の連続でした。
 (中略)
 お客様から見たらどちらも「松下」だと思いますが、電工の社員からしたら「電器産業という親会社から来た人」という、お手並み拝見のムードでした。

 加えて、それまでの数字にシビアな営業の世界とは一転、部課長だけが慌ただしく奔走し、現場は呑気に仕事をしていているような生ぬるさを当時の私は生意気にも感じてしまいました。しかも部署異動から二週間後に上司が体を壊し、新しい上司が来るまでの間仕事がなくなり、本を読んでおくよう指示されたこともあります。

 挑戦がしたくて異動したのに、まるで社内リストラ状態。一番会社に行くのが辛い時期でした」

爆発的ヒット誕生前夜

しかし、そこで腐らないのが清藤さんのすごいところです。

「そんな中、私は帰国子女で英語を話せたので、体調不良の上司に代わって、異動後二週目で、目的も分からぬ海外出張に行くことになりました。
 現地でいろいろ教えてもらいながら、何とか市場調査を終えて帰国し、事業部長に報告に行くと、どういうわけか、話も聞いてもらえないくらいに激怒されたんです。でも、

『現状認識ができ課題が見えただけでも、私は大きな成果だと思います』

と淡々と答えたところ、その対応を気に入ってくださり、以来、事業部長から直接仕事をいただけるようになりました。後日談ですが、事業部長は人材の本質を見極めるためにわざと圧迫面談のような形をとっていたことが分かりました」

 清藤さんはその〝試験〟に見事合格されたのです。ここから、爆発的ヒット商品が生まれていきました――

「様々な会議にも呼んでいただき、そこから着想を得て空いた時間を使っては企画書をつくり、提案するようになりました。

 その一つが中国向けの低温ドライヤーで、これが爆発的にヒットし、中国市場で一位を獲得することができたんです。中国にはまだ熱が髪にはよくないという認識があって、日本と同じ高温風や目に見えないイオン搭載商品を持っていっても売れない。

 逆に低温風で、誰もが髪によいことを説明せずにわかるドライヤーなら確実に売れると見込んでつくった商品です。ヒットの勝因は徹底的な市場調査によって顧客の特性、顧客の髪に対しての知識レベル、潜在ニーズを掴んでいたことにありました。 

 配属後に訳も分からぬまま海外出張に行き、市場調査の大切さを学んだことが原点になったと思います。以降、自分の全予算を調査に費やすほど徹底して行うようになり、誰よりもお客様の声を聞いているという自信が商品企画部員としての強みになりました」

腐らず、目の前の現実を見つめ、仕事に結びつける。仕事の大切な要諦を教えられるお話でした。


(本記事は月刊『致知』2018年3月号 連載「第一線で活躍する女性」より一部を抜粋・編集したものです)

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清藤美里(きよふじ・みさと)
昭和52年神奈川県生まれ。平成12年慶應大学総合政策学部卒業後、松下電器産業入社。携帯電話用デバイスのBtoB営業を経験した後、16年モノづくりに携わりたいと、社内公募で旧松下電工に異動。以来、ビューティ家電の代表商品であるナノケアドライヤー、頭皮エステなど様々な商品企画を担当。現在は美容商品、衣類ケアの全世界向けの商品企画と戦略立案を行う。25年APEC若手女性イノベーター賞受賞。

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