あなたの飲み込む力は大丈夫? 誤嚥性肺炎を防ぐ(西山耕一郎)

食事の最中に「むせる」「咳き込む」なんてことはありませんか? もしかしたらそれは、喉の衰えによる老化のサインかもしれません。近年増加している「誤嚥性肺炎」を防ぐにはどうすればよいのかを、耳鼻咽喉科・気管食道科専門医である西山耕一郎さんに伺いました。

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健康長寿に欠かせない「飲み込む力」

日本人の死因のトップ3をご存じでしょうか?

1位がん、2位心臓疾患(主に心筋梗塞)、3位脳血管性疾患(主に脳卒中)というのが、長年の定番でした。

ところが、平成23年に異変が起こりました。肺炎による死亡者数が、脳血管性疾患に替わり第3位に躍り出て、いまもなおその座をキープしているのです。

なぜ、肺炎による死亡者がこんなに増えているのでしょうか。それは「誤嚥性肺炎」によって命を落とす高齢者が多くなっているからです。

誤嚥とは、食べた物が食道ではなく気管や肺へ入って炎症を起こすことです。加齢とともに飲み込む力が衰えて誤嚥が起こり、肺炎をこじらせて亡くなるケースが非常に増えているのです。

自分はまだ若いから関係ないという方も、安心はできません。飲み込む力は、実は40代、50代から徐々に低下しています。中には30代から誤嚥が始まっているという報告もあり、嚥下機能は高齢になってから急に衰えるわけではないのです。

以下の項目に心当たりはありませんか?

・最近、食事中によくむせるようになった
・食後、ガラガラ声になることがある
・薬やサプリメントなど、大きな錠剤を飲みづらくなった
・時々、自分の唾液で咳き込むことがある
・以前よりも食事に時間がかかるようになった
・食後に痰が増える

少しでも心当たりのある方は、飲み込む力が衰えつつある可能性があります。

しかしご安心ください。飲み込む力は、鍛えることができます。

私は、耳鼻咽喉科・頭頸部外科の医師として30年にわたり診療を続け、約1万人の嚥下障害の患者さんを診てきました。

嚥下のトラブルを抱えて訪れる患者さんは、だいたい70代、80代のお年寄りが中心で、中には飲み込む力がかなり低下し、食べられなくなる寸前に至っている方もいらっしゃいます。

しかしそういう方々も、必要な治療を施し、トレーニングを実践していただければ、飲み込む力を回復することができることもあります。以前とは見違えるように元気になり、寿命が延びた方もたくさんいらっしゃるのです。

健康長寿を実現するためには、足腰の筋力や血管の健康を保つことももちろん大切です。しかしそれ以上に大事なのは、食べ物を飲み込む力、嚥下機能だと私は考えます。

飲み込み力をどれだけキープできるかが、あなたの寿命を大きく左右するのです。

風船、吹き矢、カラオケが効く?

それでは、飲み込み力を鍛えるトレーニングをご紹介しましょう。

●嚥下おでこ体操 ※杉浦、藤本:2008
①おでこに、掌の下の手首に近い部分、手根部を当てる
②臍をのぞき込むように頭を前に傾け、おでこと手根部に力を込めて5秒間押し合う
③②を毎食前5~10回繰り返す

顎持ち上げ体操 ※岩田:2010
①顎先に両手の親指を当てる
②顎を引いて顔を下方向へ向け、顎と親指に力を込めて5秒間押し合う
③ ②を毎食前5~10回繰り返す

いずれも、力を入れて押し合った時にのど仏のあたりに力が入るようにするのがポイントです。暇を見つけては実践し、継続することでのど仏回りの筋肉が鍛えられていきます。

のどE体操
①アルファベットのEを「イイ~ッ」と長く発音する要領で、口を横に伸ばす
②奥歯を食いしばり力を入れ、5秒間喉の筋肉を緊張させる
③のど仏を上げることを意識しながら②を毎食前5~10回繰り返す

声は出しても出さなくてもかまいません。「顎持ち上げ体操」と同時に行えば、効率的に喉を鍛えられます。以上に加え、呼吸機能や発声を鍛えることで、さらに効果が高まります。

他にも、風船、お祭りでよく見かける吹き戻し、吹き矢なども呼吸機能の強化には効果的です。

発声トレーニングでお勧めなのは、カラオケです。カラオケはのど仏の筋肉をとても効率よく鍛えることができるのです。効果を高めるコツは、高い声で歌うことです。のど仏は、高い声を出すと上がり、低い声を出すと下がります。ハイトーンボイスで歌う曲を選べば、のど仏がしっかり上がり、また盛んに上下して喉の筋肉が十分鍛えられるのです。

ただし歌い過ぎは禁物。喉を痛めたり、カラオケポリープをつくっては元も子もありませんから、あくまで適度に歌いましょう。


(本記事は『致知』2018年2月号 連載「大自然と体心」より一部を抜粋・編集したものです)

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◇西山耕一郎(にしやま・こういちろう)
昭和32年福島県生まれ。北里大学医学部卒業。医学博士。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医師として北里大学病院や国立相模原病院、横浜日赤病院、国立横浜病院などで研鑽を積む。嚥下治療を専門分野にし、30年で約1万人の嚥下治療患者の診療を行う。現在、西山耳鼻咽喉科医院院長。東海大学客員教授、藤田保健衛生大学客員教授。著書に『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』(飛鳥新社)など。

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