2018年05月29日
少年の頃から剣の道一筋に歩んできた、日本居合道協会会長の髙田學道さん、78歳。髙田さんは、日本居合道協会範士十段、大日本武徳会居合道範士八段を有するなど、まさに居合の達人。そんな髙田さんに、剣の道を究めていく上で大切にしてきた言葉についてお話しいただきました。
剣の四病
剣道少年だった髙田さんが大日本帝国心剣館松尾剣風道場に入門し、居合を始めたのは1954年、15歳の時。居合を始めて最も感銘を受けたのは、居合道が礼儀作法、“心の修行”を非常に重んじていたことだったそうです。
「もちろん、苦しい練習をして勝ち負けを競い合うスポーツにも精神修行の面はありますが、居合道はたった一度でも負けてしまえば命が絶たれるという、まさに“真剣勝負”を想定しています。ですから、その真剣勝負に打ち勝つためには、常人を超えた厳しい技の鍛錬、特に心の修行が必要になるのです。」
そして髙田さんは、剣の道を究めていくには、厳しい鍛錬によって「剣の四病」という4つの心の病を克服することが大事だといいます
「剣の道を学ぶ上で重要なことに『驚懼疑惑』がありますが、これを『剣の四病』といいます。驚き、懼れ、疑い、迷い、この4つの心の病を克服しなければ、剣の道のより高く、より深い神髄を得ることはできないというのです。
例えば、オリンピックなどに出場する五段、六段のいかにも強そうな柔道選手であっても緊張で体が思うように動かせずに負けてしまうということがよくあるでしょう。また『自分は強い』などと蛮勇になってしまっても十分に力を出すことはできません。
剣の道も同じように、いくら技を鍛錬しても、その時の状況や相手によって心が揺れ動いてしまうようでは勝負に勝つことはできません。
自分の心を看破してこそ達人です。」
髙田さんの説く剣の道における4つの病は、ビジネスや人生の様々な場面においても通じる教えだと言えるでしょう。
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リーダーには「文武不岐」の実践が大事
髙田さんは、剣の道に生きる者は、厳しい身体の鍛錬とともに、「学問」を修め、教養を高めることが大切だと説きます。
剣と学問というと、意外に聞こえるかもしれませんが、その理由は日本の歴史とも深く関わっているのです。
「もう一つ剣の道を学ぶ上で大切なのは、学問を修め、教養を深めることです。
私が若い頃から大事にしてきた言葉に、武道と学問の道は分かつことができない、一体であるという『文武不岐』があります。
先にも触れたように、剣の技術が向上していくと、どうしても「自分は強い」と蛮勇、天狗になってしまいます。その天狗になる心を修めていくために必要なのが学問、教養に他なりません。
封建時代においては、武士階級は単なる闘う集団ではなく、国家、藩を治めていく支配階級でもありました。
そのためには剣が強いだけではなく、学問を修め、教養を深め、政治や経済などの運営もしていかなくてはならない。人材を育て、人々に温かい手を差し伸べられる心を持った人格者、指導者でなくてはなりませんでした。
そのような歴史的な背景もあり、学問と教養がなければ剣の道も成り立たないとされるようになったのです。」
髙田さんのお話から、居合道に込められた高い精神性、また、歴史を通じて自己修業を重んじてきた日本人のあり方が伝わってきます。
(本記事は『致知』2018年6月号 より一部抜粋したものです。全文は本誌をご覧ください)
◇髙田學道(たかだ・がくどう)
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昭和14年神奈川県生まれ。29年大日本帝国心剣館松尾剣風道場入門。38年居合道錬士六段、松尾剣風師匠より夢想神傳流居合相伝、横浜市教育委員会委嘱中学校剣道講師。58年金沢警察署少年剣道推進会会長・剣道師範。平成8年居合道範士。16年範士十段。13年より現職。