指先一本で起業した“寝たきり社長”が大事にしていること

感動する話

(写真/松原豊)

筋肉がどんどん動かなくなる10万人に1人と言われる難病・脊髄性筋萎縮症を持って生まれた佐藤仙務さん。以来、寝たきりの生活を送る佐藤さんですが、数々の困難にも屈することなく、会社を起業。自らを「寝たきり社長」と呼び、移動式ベッドに横たわったまま、わずかに動く親指の指先だけでパソコンを操作し、新たな事業を生み出してこられました。最近では大学の非常勤講師も務めるなど、多方面で精力的な活動をする佐藤さんが語る、困難を乗り越える心の持ち方とは?

大事なことは完全に座り込んでしまわないこと

僕の人生って、結構アップダウンがあって、先ほどのように「軟弱障碍者!」って言われてどーんと落ち込み、会社を立ち上げることができてどーんと上がってとか、そういう感じなんです。

1年ほど前にも、インフルエンザで体を壊して入院し、どーんと落ち込んだんですけど、その中で学んだのは、仕事もプライベートも、本当にだめな時には、変に焦って何かをするのではなく、逆に何もせず、逆境が過ぎ去るのを待つほうがいいということですね。

やっぱり、何事にも風向きってあると思っていて、追い風の時もあるし、何をやっても進めない向かい風の時もある。ただ、大事なのは、向かい風の時に完全に座り込んでしまわないということ。お尻さえついていなければ、追い風が来た時にいつでも立ち上がれます。

追い風のタイミングが来たら、しゃがんでいた分まで前に進もう。僕はそういう思いでこれまで逆境と向き合ってきました。

社長として大事にしてきた2つのこと

いま仙拓の社長でいるために大事にしていることが2つあります。1つは人に喜んでもらえることをする、ということです。

なぜかというと、いろんなことをやっていきたいと思っても、僕はそのほとんどが自分の力でできないんですよ。だから、いつも誰かにお願いをしないといけません。

でも僕は、それは当たり前のことだと思っていなくて、人にお願いをするには、自分もそのお願いを聞いてもらえるだけの、相手が喜ぶことをしないといけないと思っているんですね。自分が相手を喜ばせることで初めて、自分のお願いも聞いてもらえるんだと。

2つ目はもっと難しくて、僕は会社を立ち上げた当初から自分が輝きたい、スポットライトに当たりたいと思って努力、行動してきたんです。でも、これからはそのスポットライトの向きを別の誰かのほうに変えていくことを大事にしていきたいと思っています。

障碍を持った方で、いろんな可能性を持った方はいっぱいいるんですけど、自分をどう表現していいか分からない場合があったりします。そういう人にもっと輝いてほしいなって思うんです。

ただ、それってめちゃくちゃ難しくて、人を輝かせようと頑張るほど、周りから見ると、「やっぱり、あいつは自分が目立ちたい、輝きたいだけじゃないか」となってしまう。それで、なぜ人を輝かせたいと思っているのに、自分が輝いてしまうのだろうかと考えた時、僕の中で出た答えが、「人は誰かを輝かせようと思った瞬間に、一番輝く」ということでした。

輝いてほしいと思った人が、僕と出逢ったことで、誰かのために頑張ろうっていう気持ちになってくれれば、もっと多くの人を輝かせることができるはずです。

なので、その2つのことを大事にして、障碍者も健常者と同じように働ける社会の実現という使命に、これからも邁進してきたいと思っています。

(本記事は『致知』2018年3月号に掲載された記事を抜粋したものです)

◇佐藤仙務(さとう・ひさむ)

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平成3年愛知県生まれ。4年SMA(脊髄性筋萎縮症)と診断される。22年愛知県立港特別支援学校商業科卒業。当時障碍者の就職が困難であることに挫折を感じ、ほぼ寝たきりでありながら、23年ホームページや名刺の制作を請け負う合同会社「仙拓」を立ち上げ、社長に就任。著書に『寝たきりだけど社長やってます』(彩図社)、恩田氏との共著に『絶望への処方箋』(左右社)がある。

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