2024年11月29日
私たちはともすれば、日常生活で周りの目ばかり気にしてしまうもの。そんな時に、他人の何気ない行動を見てハッとされられることがあります。そして場合によっては、それが人生を大きく変えるきっかけにもなります。シスターの鈴木秀子さん(国際コミュニオン学会名誉会長)に、そういう弱い自分を克服するヒントを示してくださいました。
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真剣で一途な生き方が人を感化する
〈鈴木〉
私がいつも申し上げているように、人間という存在は魂の根底の部分で一つに繋がっています。人知れず一所懸命に生きていると、たとえそのことで大事は成し得なかったとしても、その生き方がまるで太陽や月の光のように周囲を照らし、心に染み通って相手を深いところから変えていく力になるのです。
私たちはその典型的な例をマザー・テレサに見ることができます。誰もが知っているように、マザーはインドのカルカッタの地において、いまにも道端で死んでいきそうな貧しい人たちに寄り添い、その救済に生涯を捧げたカトリックの修道女です。
その大いなる功績は社会的にも称えられ、ノーベル平和賞などいくつもの大きな賞を受賞しています。しかし、マザーは決して社会的に認められよう、注目を浴びようという思いから献身的な努力を重ねたわけではありません。むしろ彼女は自らの活動が社会的な評価や名声が高まることを好ましくは思わず、避けようとすらしていました。
彼女はひとえに神やキリスト、貧民街の人々のことだけを思い、奉仕していました。その一心不乱、無私ともいえる生き方が、世界中の人々を感動させ、信仰や人生に目覚めさせたのです。
時代が混迷の様相を深めるほど、真剣で無我夢中に生きる人々の姿は輝いて見えるものなのかもしれません。
大切なのは中心軸を持つ自分であること
マザー・テレサは特別な例だとしても、私たちの周囲には人知れず社会をよくしよう、正しく生きようと思っている人たちがたくさんいます。
例えば、電車に乗っていて座席の前にお年寄りが立ち、席を譲ろうか、でも少し気恥ずかしいな、という思いでいる時、隣の席でスマートフォンに熱中していた若者がすっくと立って席を譲る、といった様子を目にしたことはありませんか。
また、誰もが見て見ぬ振りをする道端の空き缶やペットボトルをさりげなく拾って、近くのゴミ箱に入れる人がいます。
考えてみたら、どちらも些細な善行にすぎません。人として当然の行いです。しかし、いざやろうと思って、なかなか行動に移せないということもまた確かだろうと思うのです。それを目にした人たちは、誰しもハッとさせられるはずです。そして自分たちの普段の生き方を反省させられるに違いありません。
私たちは生きる中で、いろいろな欲望に振り回されたり、利害関係、周囲の評判にとらわれたりすることがあります。正しいと思う簡単なことでも、周囲の目を気にしていてはなかなか実践できません。私たちの本心はそれがいけないことだと知っていますから、そこに「自分は何という駄目な人間なのだろうか」という自責の念が生まれます。
〔中略〕
そういう弱い部分を持ち合わせた私たちですが、自分の中心軸をしっかりと定めることによって、正しい考えや行動をすることができるようになります。
中心軸を定めた生き方とは、自分が神様から命や役割を与えられた存在であると信じ、他人や環境、自分自身を責め裁くのをやめ、いま、目の前の出来事に精魂を込めて打ち込み、目の前にいる人たちに心を込めて対応していく生き方です。
そういう姿勢を貫いていけば、いつの間にか欲得や利害から解放され、周囲の人々をも感化できる存在になることでしょう。
(本記事は月刊『致知』2016年9月号 連載「人生を照らす言葉」より一部を抜粋・編集したものです)
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◇鈴木秀子(すずき・ひでこ)
東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。聖心女子大学教授を経て、現在国際文学療法学会会長、聖心会会員。日本で初めてエニアグラムを紹介し、各地でワークショップなどを行う。著書に『幸せになるキーワード』(致知出版社)『9つの性格』(PHP研究所)『逆風のときこそ高く飛べる』(青春出版社)などがある。