「生きた鬼」と化した死刑囚〝S〟はなぜ、仏の様な悟りに至ったのか——元刑務官・亀井史巠の体験的教育論

広島市に居住する元刑務官の亀井史巠氏、御年85歳。38年間の矯正人生を通して多くの犯罪者を更生へと導いてきました。ここで紹介する死刑囚〝S〟もその一人です。処遇に携わった亀井氏自身が「生きた鬼」と形容し、「生きた鬼に出会ったのは後にも先にもない」と語るほど狂暴だったSは、亀井氏との出会いによって驚くほどの変化を遂げていきました。亀井氏はどのような思いでSに向き合ったのか。その歩みを一部ご紹介します。
(本記事は『致知』2026年5月号 「体験的教育論「我が矯正人生」――Sとの出会いが教えてくれたこと」より一部を抜粋・編集したものです)

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人として生きる上で大切なことを教える毎日

ちょうどSが運動に参加を許されるようになったばかりの頃のことです。私が大きな声で「S、おはよう」と挨拶したところ「おはようございます」と返事が来ました。「よい返事をしたな」と話すと、「そりゃ、先生が大きな声でおはよう言うてくれたけんよ」と照れ臭そうに答えます。

私は彼の挨拶を褒めながら地面に「挨拶」という文字を書き、「これは心を開いて相手に近づくという意味だ」と説明しました。その上で「何かしてもらったら、必ずありがとうございますと感謝の気持ちを表すのだよ」と伝えました。

興味を示して聞き入るSに「私の話についてこれるか」と質問すると「お願いします」の力強い返事。心を開いた、との感触を得た私は、部下の刑務官と一緒に文盲のSに読み書きを教えるようになりました。せめて本や新聞が普通に読めるようにしてあげたいと、毎日の運動時間中、地面に漢字を書き示しながら読み方や意味を教える毎日がスタートしたのです。

特に、「人」や「命」という字を教える時は、命の尊さや人間の生きる意味を理解させ、人としての道を外さないように生きることが大事だと考えました。

「人という字は、2人の人間がお互いに寄り添い、支え合っている形を表している。また、人の間と書いて人間という。これは人は人々の間でしか生きられないことを意味している。人間は人を幸せにするために、尊い命を授かってこの世に生まれているのだから、どんな人とでも仲よくし、支え合って生き抜くことが大切なのだよ」

私がSに話した言葉の多くは、私が幼少期に両親に教えられたものでしたが、Sの表情は日に日に明るくなり、運動時間に私の姿を見つけると、まるで小犬が飼い主にじゃれつくように喜んで寄ってくるのです。

ある時、S自らの戒めと被害者の供養のために「般若心経」の写経と読経を勧め、それを日課とするようになったこと、さらに自分の罪深さを自覚し被害者の命日には必ず教誨師の読経を願い出るようになったのも、忘れ得ぬ出来事です。その頃のSの行状は模範囚のように落ちついていました。

このように運動の時間を利用してはSに人として生きる上で大切なことを教える毎日は、広島刑務所への転勤によって私が広島拘置所を離れる昭和44年4月まで続きました。

刑務官として第一線で活躍していた頃(前列中央)

(本記事は『致知』2026年5月号 「体験的教育論「我が矯正人生」――Sとの出会いが教えてくれたこと」より一部を抜粋・編集したものです)

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◆人生の道標となった「三勤」の教え
◆困難な人を温かく見送る母の姿
◆常識が通用しない広島拘置所の実態
◆自分の躬行実践以外方法はない
◆心を開きかけた瞬間
◆凄絶を極めるSの養育環境
◆Sの遺書に書かれていたこと
◆人間には皆果たすべき使命がある

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取材手記
電子版

◇亀井史巠(かめい・ふみひろ)
昭和15年広島県生まれ。37年刑務官を拝命。佐世保刑務所長、横浜刑務所総務部長、福岡矯正管区第二部長、横浜刑務所長などを歴任し平成12年に退職。現在広島県安佐北警察署協議会会長。30年瑞宝小綬章受章。

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