【取材手記】いま、なぜ明治なのか? 日本人が明治に学ばなくてはいけない理由 (藤原正彦&中西輝政)

~本記事は月刊誌『致知』2026年2月号 特集「先達に学ぶ」に掲載の対談(明治を創ったリーダーたち)の取材手記です~

著名な数学者が国語の重要性を語る

「一に国語、二に国語、三四がなくて五に算数。あとは十以下」

これは大ベストセラー『国家の品格』の著者で、お茶の水女子大学名誉教授・藤原正彦先生が30年間、繰り返し伝えられてきた言葉です。ユニークなのは著名な数学者である藤原先生が、一貫して国語教育の重要性を伝えられていることです。

藤原先生が国語や読書の大切さを強調される理由の一つは、それが人間として大切な情緒を育む力を持つからです。

先生はお茶の水女子大学を退官する前の約10年間、文系、理系の学生約20名を対象に読書ゼミを開かれていました。新渡戸稲造の『武士道』、内村鑑三の『余は如何にして基督教徒となりし乎』、山川菊栄の『武家の女性』など明治の名著を中心に先人の書物を味読し、感想を発表し合うというものです。すると、驚いたことに18~19歳の学生たちの意識が僅か1、2か月でどんどん変わっていくというのです。

最新号『致知』2026年2月号にて、その変化を藤原先生は次のように表現されています。

彼女たちが口を揃えて言うのには、「日本は恥ずかしい歴史を持つ国だ。そうなったのは昔の人が無知だったからだと学校で教えられたけれども、本を読むことでそれが誤りだと気がついた。むしろ自分たちよりずっと教養が豊かで素晴らしい人たちだった」と。(中略)学生たちは、逆に自分たちの無知を恥じ、自分たちは史上最低の若者ではないのか、とコンプレックスさえ抱くようになるんです。学生たちのあまりの変化に私は洗脳教育をしているのではないかと心配したくらいです(笑)。

先人の名著に触れることがいかに大きな価値を持つかが伝わってきます。

日本人が立ち返るべき原点

さて、2月号にて藤原先生が対談されたのは、『致知』の人気連載「時流を読む」でお馴染みの京都大学名誉教授・中西輝政先生です。対談のテーマは「明治を創ったリーダーたち」。

お二人に共通するのは、明治という時代に対する並々ならぬ思いです。漂流を続ける日本がいま手本として立ち返るべき原点は明治人の生き方にこそある。その共通認識のもと、私たち現代人が明治に何を学べばよいかを語り合っていただきました。

明治への熱い思いが伝わってくる両先生の言葉を紹介しましょう。

〈藤原氏〉
明治初年、欧米使節団がニューヨークのブロードウェイを羽織袴、丁髷(ちょんまげ)姿で威儀正しく行進していると、道行く人たちは皆感動しました。これを見ていた詩人のホイットマンは「日本の貴公子」と詩に書いています。惻隠、誠実、正直、勇気といったものは縄文時代から連綿と続く日本人の美徳であり、それが江戸時代にすべての人たちに浸透して明治になって開花していったんです。

〈中西氏〉
日本が名実共に西洋列強に伍するほどの力をつけ、その頂点を画したのが日露戦争だった、と私は思います。これは単に大国ロシアに勝ったということではありません。江戸時代に日本人の精神の陶冶によって育まれた、全国民が全く自発的な愛国心に燃え、一体となって維新以来の目覚ましい近代化を成し遂げ、その結果として、あの世界史に残る戦いを繰り広げたということに意味があると思います。

ところが、日露戦争を境にして日本は次第に武士道精神を失い、世界の荒波に翻弄されるようになります。そのきっかけは何だったのか。その結果、日本がどうなっていったのかはぜひ本誌でお読みいただければと思います。

我が国が甦るための道

では、混迷を極める日本が甦るための道があるのでしょうか。両先生の結論は明確です。それはひと言で「読書による文芸復興」。お二人の主張を聞いてみましょう。

〈藤原氏〉
やはり、世界に出て活躍しようと思ったら、西洋の学問だけをやっていてはダメですね。祖国に対する自信が絶対に必要なんです。『自助論』を著したスマイルズも「国家や国民は、自分が輝かしい民族に属しているという感情によって強く支えられる」と言っています。いま教育の現場では、国際人の育成などといって小学校から英語教育ばかりやっているでしょう?むしろ、抒情小説や美しい詩など先人たちの本を読ませて教養を積み、祖国に対する誇りを持たせないと世界に出て活躍できないし、国際人にもなれません。

〈中西氏〉
それには明治にまず範を求めて、再生の手掛かりを得ることです。明治の人が書いた本を読む、それに関わる話を聞く。そのことによって戦後、GHQや日教組、大メディアによってつくられたこの「大きな闇」の中から抜け出していく。そういう正しい学びの時にいま来ているように思います。この80年間、戦後教育によって植え込まれた「日本は悪い国」というコンプレックスがあって、なかなかそこに踏み込むことができなかったのです。

中西先生はまた次のようにもおっしゃっています。

戦後日本で私たちは、完全な「しらけた時代」を生きています。しかし、本当にギリギリのところまで来たら、多くの国民の心に火がつく瞬間が果たしてあるのか、ないのか。そこで、「我々はあの明治日本人の子孫なのだ」、そう考えると、いまの日本も絶望するにはまだ少し早いのかも、という思いもします。

まさに、日本をよくするのも悪くするのも、いまを生きる私たちの意識、行動いかんということです。思わず姿勢を正される言葉です。

明治天皇、福澤諭吉、内村鑑三、新渡戸稲造、桂太郎、児島源太郎、小村寿太郎……、本対談では一読胸が熱くなる明治人の崇高な生き方や知られざる逸話も数多く紹介されています。明治の先人の生き方に学ぶことで、我が国のあり方を見つめるよすがとしていただけたら幸いです。

 本記事の内容 ~全10ページ~
 ◇父親に躾けられた武士道精神
 ◇江戸の文化が明治人の気骨を育んだ
 ◇日本人はなぜ根無し草になったのか
 ◇惻隠の方だった明治天皇
 ◇明治の基礎を築いた〝三太郎〟
 ◇武士道精神を体現した福澤諭吉
 ◇国家と民との一体感
 ◇学生たちの意識はなぜ変わったのか
 ◇いまこそ日本で文芸復興を
 ◇明治人に倣い祖国への誇りを取り戻す

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