強い組織は全員が〝オーナー経営者意識〟――侍ジャパンを世界一に導いた「組織づくり」を明かす〈栗山英樹〉

2023年3月に開催されたWBC(ワールドベースボールクラシック)で、3大会ぶり3度目となる世界一に輝いた侍ジャパン。その快挙は日本中に歓喜の渦を巻き起こし、勇気と感動を与えてくれました。悲願達成から早くも2年半が経過し、次なる2026年大会を目前に控え、2連覇に大きな期待が懸かっています。2023年大会でチームを率いた名将・栗山英樹監督に、世界一を成し遂げる上での大きなポイントとなった、組織づくりの方法について語っていただきました。対談のお相手は、栗山氏がかねてお会いしたかったという臨済宗円覚寺派管長の横田南嶺師です。
(本記事は月刊『致知』2023年10月号 特集「出逢いの人間学」より一部抜粋・編集したものです)

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侍ジャパンが勝ち切った要因

〈横田〉
チームづくりにおいて監督が大切にされたことは何ですか?

〈栗山〉
強い組織というのは、全員が自分の都合よりもチームの都合を優先し、全員がチームの目標を自分の目標だと捉えていることだと思っています。

そういうことを伝えるために、今回は長くミーティングをする時間がなかったものですから、30人の選手全員に手紙を書きました。僕はあまり字がうまくないんですけど、墨筆で。それを代表合宿がスタートする日に、各人の部屋に置かせてもらったんです。

〈横田〉
ああ、手紙を墨筆で。しかも30人に。

〈栗山〉
真心ってそういうものでしか伝わらないような気がしたものですから。

〈横田〉
それは恐れ入りました。

〈栗山〉
手紙に書いたことは、あなたは日本代表チームの一員なのではなく、あなたが日本代表チーム。要するに、自分のチームだと思ってほしいと。会社でもサラリーマン意識で勤めているのか、自分がオーナー経営者だと思って働いているのかでは感覚が全く違いますよね。全員に「このチームは俺のチームだ」と思ってやってほしかったんです。

そのため、普通はキャプテンを一人指名するわけですが、今回は全員がキャプテンだと。正直言って僕が相手できるような選手たちじゃなくて、本当にトップクラスが揃っていたので、一人にプレッシャーをかけるよりも、そのほうが勝ちやすいと判断したんです。 そうしたら、初日の練習が終わった後、ダルビッシュが僕の部屋に来て、「監督、全員キャプテンOKです。あれ、いいですね。しっかりやります」みたいなことを言ってくれました。

〈横田〉
それでキャプテンを置かなかったのですね。ベンチにいる控え選手も含め、チームの一体感が画面からも伝わってきました。

〈栗山〉
野球の試合は9人しか出場できません。例えば、ベンチに座っている選手がふんぞり返るようにして傍観しているチームなのか、それとも前のめりになって声を出しながら、いつ出番が来てもいいように準備しているチームなのか。要するに、他人事にするチームはやっぱり勝ち切らないと思うんですよ。僕はそれをファイターズの監督をしていた時に実感したので、「自分のチーム」「全員がキャプテン」なんだと伝えました。

今回はそれを見事に発揮してくれましたね。先ほど話した準決勝で村上が決勝打を放った場面も、代走で出場した1塁ランナーの周東(佑京)は、村上が打った瞬間にスタートを切り、驚異的な速さでホームに帰ってきたんですよ。

僕としては打った瞬間に打球が外野を抜けるかどうか分からなかったんですが、試合後に周りのスタッフからこう聞きました。「監督、周東はちゃんと準備していました」と。周東曰く、「試合に出場する機会は少ないながらも、全員のバッティング練習をちゃんと見ていました。村上は確かに調子悪かったけど、左中間の打球だけは伸びていたんですよ。だからあの瞬間、抜けると確信しました」と。

〈横田〉
一人ひとりが勝つために自分の役割、チームへの貢献に徹していた。素晴らしいですね。

〈栗山〉
その日の試合前、翔平が周東に「きょうは必ずおまえの足で勝利が決まる。だから、準備してくれ、頼むな」と言っていたらしいんですよ。そういうふうに勝負の瞬間への準備を全員がしてくれていた。監督の指示を待つのではなく、信頼関係の中で自らが責任を取ろうとし、勝つために仕事をしてくれていた。それが結果的に勝ち切った要因だと思います。


~本記事の内容~
◇「憧れるのをやめましょう」
◆大谷翔平選手に見る 「浩然の気」
◇仲間を燃え上がらせた 源田壮亮選手の魂
◆歴代最強ドリームチーム 誕生の舞台裏
◇侍ジャパンが勝ち切った要因
◆いかに野球の神様に応援してもらえるか
◇先師との邂逅 仏縁に導かれて
◆10歳の時から禅だけを考えて生きる
◇人間学の書物に傾倒していった機縁
◆どんな大波でも真っ直ぐ突っ込めば沈まない
◇「ここを離れない」 修行時代の最大の転機
◆リーダーとして大切な 心懸けと自戒
◇一流と二流の差 令和の時代の育成法
◆王貞治さんへの2つの質問

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◇栗山英樹(くりやま・ひでき)
昭和36年東京都生まれ。59年東京学芸大学卒業後、ヤクルトスワローズに入団。平成元年ゴールデン・グラブ賞受賞。翌年現役を引退し野球解説者として活動。16年白鷗大学助教授に就任。24年から北海道日本ハムファイターズ監督を務め、同年チームをリーグ優勝に導き、28年には日本一に導く。同年正力松太郎賞などを受賞。令和3年侍ジャパントップチーム監督に就任。5年3月第5回WBC優勝、3大会ぶり3度目の世界一に導く。同年5月監督退任。著書に『栗山ノート』『栗山ノート2』(共に光文社)など多数。

◇横田南嶺(よこた・なんれい)
昭和39年和歌山県新宮市生まれ。62年筑波大学卒業。在学中に出家得度し、卒業と同時に京都建仁寺僧堂で修行。平成3年円覚寺僧堂で修行。11年円覚寺僧堂師家。22年臨済宗円覚寺派管長に就任。29年12月花園大学総長に就任。著書に『禅の名僧に学ぶ生き方の知恵』『人生を照らす禅の言葉』『禅が教える人生の大道』『命ある限り歩き続ける』(五木寛之氏との共著)『十牛図に学ぶ』『臨済録に学ぶ』(いずれも致知出版社)など多数。

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