遺骨収容に我が命を燃やし、英霊の大恩に報いる——齋藤宣明(千鳥ケ淵戦没者墓苑職員)

千鳥ケ淵戦没者墓苑の職員として働きながら、先の大戦で散華された英霊たちの遺骨収容や日本の文化伝統の保存活動に力を尽くしている齋藤宣明さん。当初は日本の歴者や伝統文化に全く関心はなく、料理人として働いていたという齋藤さんは、なぜ現在の活動に取り組むようになったのか、直面した人生の逆境、転機を交えてお話しいただきました。(本記事は月刊『致知』2024年12月号 連載「致知随想」より抜粋・編集したものです)

◉《6/17まで!期間限定の特典付きキャンペーン開催中》仕事に一所懸命勤しみ、家庭教育にも奮闘されているお父さんたちを応援したい――。そんな思いから、6/15(日)の父の日に合わせて、月刊『致知』の定期購読をお申し込みくださった方に、『父親のための人間学』(森信三・著)プレゼント!

▼詳しくはバナーから!


苦難の中から掴んだ使命

【齋藤】

大東亜戦争から今年で79年。しかし激戦地となった沖縄などには、散華(さんげ)された英霊たちの数多の御遺骨がいまだ発見されないまま静かに救いの手を待っているのです。

私は東京の千鳥ケ淵戦没者墓苑で働きながら、戦没者の遺骨調査・収容活動に取り組む特定非営利活動法人「空援隊」に参加し、何度も沖縄を訪れてきました。その度に込み上げてくるのは、日本のために尊い一命を捧げられた先人たちの御遺骨を、雨風に打たれるままにして、果たして誇りある豊かな国が実現できるのだろうか、否、できるはずがないという思いです。

ただ、かつては私も日本の歴史や政治について全く関心がなく、遺骨収容とも無縁な人生を歩んでいました。子供の頃から料理人に憧れていた私は、高校卒業後に地元・神奈川県のフランス料理店に入り、その後も10年ほど様々なお店で研鑽を重ねました。そして、縁あってハワイの料理店で働く幸運に恵まれました。

しかし、若くして何不自由なく働ける環境に「これでよいのだろうか」と次第に不安が募ってきました。結局1年8か月で日本に戻ることになったのですが、ここから苦難の人生が始まります。信頼する人に裏切られたり、いろいろ悪いことが重なってパニック障害を発症したのです。

何とか料理の仕事は続けていたものの、症状は重く、3度自殺未遂を試みるほど苦しみ抜きました。それでも心の病は心で治すと決めて、病院や薬に頼りませんでした。

病から立ち直る転機となったのは、食材の仕入れでお世話になっていた九州の有機農業家の方から「一緒に野菜をつくってみないか」とお声掛けいただいたことでした。

化学肥料を使わない有機野菜の成長は遅い。でも、それは栄養を取るために地中深くにぐっと根を張るからだ――。都会の喧騒(けんそう)を離れて土と野菜と向き合う中で、自分には確たる信念がなく、人生の根を張る生き方をしてこなかったことに気づかされたのです。

自分の生きる姿勢が変わると、体調だけでなく、不思議と身の回りの環境、巡り合う人も変わっていきました。

2010年、37歳の時に九州のローカル番組の生放送で、青山繁晴さん(現・参議院議員)が拉致問題の解決を泣きながら訴えている姿を見て心揺さぶられ、その後に福岡で開催された講演会に思い切って参加してみました。

すると、講演中に突然「そこのあなた、ちょっと上に来なさい」となぜか壇上に上がらされ、私との掛け合いで沖縄戦の譬(たと)え話をされたのです。

そして最後に「ぜひ沖縄に行って戦跡を回ってみてください」と言われたことをきっかけに、すぐさま休みをとり沖縄を訪問。そこで初めて多くの御遺骨がいまだ眠っていること、遺骨収容の取り組みがあることを知り、自分にも何かできることはないかとの思いを深めていきました。

その後、両親の介護のため地元に戻り、介護施設職員を経て千鳥ケ淵戦没者墓苑に就職。その間、私は学生が主宰する団体や冒頭の空援隊の活動に参加し、夏休みや年末年始を利用して実際に遺骨収容に携わっていったのです。

沖縄にて遺骨収容の活動に向き合う斎藤氏

英霊の大恩に報いる

【齋藤】

2018年の夏、初めて遺骨収容に行った時のことは忘れられません。沖縄に向かう機内で急に息苦しくなった私はトイレで嘔吐しました。まもなく症状は治まったのですが、不調の要因は遺骨収容の現場で明らかになります。

沖縄に入って2日目。ある狭い場所に潜り込んで作業をしたところ、まさに機内と全く同じ息苦しさを感じたのです。そして地中から歯が見つかったのですが、それを掌(てのひら)に載せた時、ああ、自分はこの人に呼ばれたんだと感じると共に、こんな狭いところに何十年も助けられないままで申し訳ありません……と涙が溢れて止まりませんでした。

それから毎年沖縄を訪れていったのですが、特に印象深かったのは、名前入りの万年筆が見つかり、無事ご遺族のもとに届けることができたことです。ご遺族は涙を流して喜ばれ、メディアでも取り上げていただきましたが、受け渡しの日が何とその方が戦死した日だったそうで、英霊の導きを改めて感じました。

そうした現場に立ち会うにつれ、いまこの時にも発見されるのを待っている御遺骨を一人でも多く救いたいとの使命感を強くすると共に、なぜもっと国全体として遺骨収容に全力を尽くさないのか憤りが込み上げてきました。例えば、既に調査は終わったと発表されていた場所を私たちが探してみると、段ボール9箱分にもなる御遺骨が見つかったこともありました。

現地から発見された遺品等。沖縄の地にはまだたくさんの御遺骨、遺品が眠っている

様々な事情はあるにせよ、国のために命を捧げた英霊たちを放っておいたままでは、誇りある豊かな国・日本の実現も、子供たちへの正しい歴史教育もできるはずがありません。

京セラ創業者の稲盛和夫さんは、世のため人のために尽くす「利他の心」の大切さを説かれましたが、利他の心の究極こそ日本のため、家族のため、まだ見ぬ子供たちのために自らの一命を捧げた英霊たちだと私は思います。そしてその英霊たちの利他の心を直に感じ、日本人としてどう生きればよいのか、自分の命を何に費やしていくのか、心の拠(よりどころ)を教えてくれるのが遺骨収容の現場なのです。

英霊の大恩に報い、よりよい日本を実現するため、これからも自らの命を遺骨収容の活動、先人の思いの伝承に燃やし続けていく覚悟です。

●齋藤宣明(さいとう・のぶあき)--千鳥ケ淵戦没者墓苑職員


◉《6/17まで!期間限定の特典付きキャンペーン開催中》仕事に一所懸命勤しみ、家庭教育にも奮闘されているお父さんたちを応援したい――。そんな思いから、6/15(日)の父の日に合わせて、月刊『致知』の定期購読をお申し込みくださった方に、『父親のための人間学』(森信三・著)プレゼント!

▼詳しくはバナーから!

1年間(全12冊)

定価14,400円

11,500

(税込/送料無料)

1冊あたり
約958円

(税込/送料無料)

人間力・仕事力を高める
記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 11,500円(1冊あたり958円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 31,000円(1冊あたり861円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

閉じる