「だからキミは駄目なんだ」——忘れ得ぬ〝岡本太郎さん〟とのやりとり〈五木寛之〉


希代のベストセラー作家・五木寛之さんが半生を振り返り、忘れ難い人々との交流、生前の言葉を綴った連載「忘れ得ぬ人 忘れ得ぬ言葉」。2019年7月号では、芸術家・岡本太郎さんとのエピソードが語られています。(本記事は『致知』2019年7月号 連載「忘れ得ぬ人 忘れ得ぬ言葉」より一部を抜粋・編集したものです)

※五木寛之さんの連載「忘れ得ぬ人 忘れ得ぬ言葉」は2024年2月号で終了し、2024年4月号より新たに「千年の名言 今を生きる言葉」で連載をしていただいています。

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本気で腹を立てた岡本太郎さん

<五木>
岡本太郎さんについては、毀誉褒貶、さまざまな見方がある。天才という人もいるし、イカサマ師のように罵倒する人もいる。

しかし、そのこと自体が岡本太郎という表現者の本質ではないかと私は思っている。棺を覆ってなお評価が定まらない。そのダイナミックな存在のしかたこそ、岡本太郎という人の眞骨頂なのだ。

むかし渋谷にジァンジァンという小さなホールがあった。百人もはいれば満席というホールである。しかし、そこはかつての熱い季節をになう舞台でもあった。

一夜、岡本太郎さんをゲストに迎えて、ステージでディスカッションをやった。私がキュビスムの時代のピカソより、初期の作品のほうが好きだ、と言ったとたん、岡本太郎さんは私を指さして大声を発した。

「だからキミは駄目なんだ!」と。

芸術は心地よいものであってはいけない、と岡本さんは主張していた。「芸術は爆発だ!」というのは、有名なフレーズである。

岡本さんの著作集が刊行されたとき、私にその一巻の解説を書くようにと依頼があった。

折悪しく私は外にいくつもの仕事を抱えていて、とてもそれに応じる余裕がなかった。

後日、岡本さんに出くわしたときに、岡本さんは私を指さして大声で言った。

「キミはぼくの解説を書くことを断った。それはキミにとって生涯の恥辱になるんだぞ」

岡本さんは本気で腹を立てていたように見えた。

「キミは偉大な仕事をするチャンスを、みずから放棄したのだ」

その非難のしかたには、一点の迷いもなかった。岡本さんは本気でそう感じていたのだ。

岡本太郎という画家は、その本人の存在自体が一つの作品であったように感じられる。描き手と作品とが一体となって社会に対決している気配なのだ。


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◇五木寛之(いつき・ひろゆき)
昭和7年福岡県生まれ。22年に朝鮮から引き揚げる。早稲田大学露文科中退後、PR誌編集者、作詞家、ルポライターなどを経て、41年『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、42年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞。以降、受賞歴多数。日本藝術院会員。

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