【取材手記】76歳現役・世界的美容師の終わりなき情熱


~本記事は月刊誌『致知』2025年4月号 連載「致知随想」に掲載の「才能より情熱」の取材手記です~

目指すは〝生涯美容師〟 いまも1日20人のカットを担当

美容師と言えば、いまや男女の性を問わず活躍する光景を思い浮かべる方も多いと思います。しかしかつてはそうではありませんでした。

男性美容師が少なかったおよそ半世紀前、ロンドンから帰国して以来、日本人男性美容師の草分けとして美容師界を切り拓いていったのが、PEEK-A-BOO代表の川島文夫さんです。

川島さんは若くして渡英。当時世界最高峰の美容室と言われた「ヴィダル・サスーン」で巨匠・ヴィダルサスーンらと共にサロンを牽引し、美容史に残る「BOX BOB(ボックスボブ)」というヘアスタイルを発表するなど、現在に至るまで常に業界の最前線で活躍してきました。

美容師としての実績はさることながら、筆者が何よりも感動したのは、衰えを知らない仕事への情熱です。

聞けば76歳のいまも週に4日はお店に立ち、なんと1日平均20人のカットを担当するのだとか。サロンに立たない日も日本全国、時に世界各地を飛び回って技術指導やヘアショーに勤しんでおられます。

超人的な体力と「僕の先生はお客様とZ世代」と語るほどの仕事への探求心。その源泉は一体どこにあるのか——。

組織のトップになるとサロンに立たない方も多い中で、僕は「ハサミ1本で国境を乗り越えられる」を信条に生きてきた人間です。幾つになっても現場に立ち、髪を切り続ける。サロンワークこそ自分自身の原点なのです。

「ヴィダル・サスーン」で生み出したデザインが、いまも世界のスタンダードであり続けていることは現役を続ける一つのモチベーションになっていますが、それも遠い過去の話。あくまでも僕は、若者と同じ目線で時代を切り拓いていきたいと思っています。

先生っていうのは「先に生まれた」から先生って言うの。僕は代表という名前はありますが、一社員だと思ってやってますから。

川島文夫(かわしま・ふみお)
昭和23年東京都生まれ。高山美容専門学校卒業。カナダの美容室勤務を経て、46年ロンドンの「ヴィダル・サスーン」に参加。48年東洋人初となるアーティスティックディレクターに就任。50年27歳で、美容史に残るヘアスタイル「BOX BOB」を発表。52年「PEEK-A-BOO 川島文夫美容室」を表参道に開店。現在もサロン勤務を行いつつ、日本全国・世界各地を行脚して技術指導に励む。

エネルギー全開の60分

取材に先立って、筆者は川島さんの思想・店づくりを体感すべく、表参道にあるPEEK-A-BOOの本店「PEEK-A-BOO ONE」へ。あいにく川島さんは不在でしたが、DNAを継ぐスタッフの方々のサービスを受ける中で、そのこだわりを十分に感じることができました。

初訪問で抱いたのは、「こんなにも丁寧なお店があるのか」という思い。ともするとカットの技術、カラーの技術に着目してしまいがちですが、お客様誘導、シャンプー、ドライヤー……。一挙手一投足に気配り・心配りを感じます。一見些末に思える事柄にも「超一流」があることを肌で感じるひとときでした。

待ちに待った取材は、年明けの1月9日(木)、表参道の本店に併設された事務所にて行われました。

早朝の営業前にもかかわらず、川島さんは開始からエネルギー全開。開口一番、「僕、あんまり昔の話はしたくないの」と語るなど、いまなお最前線で闘うお立場ゆえの強烈なエネルギーを感じさせます。

取材では、「76歳のいまもサロンに立ち続ける理由」「師・ヴィダルサスーンについて」「若い世代へのメッセージ」など、多岐にわたり話が展開されていきました。


            師・ヴィダル・サスーン氏と(提供:川島氏)

「才能なんて10%あればいい」

川島さんの人生を語る上で欠かせないのが「情熱」という言葉です。実際に取材の中でも折々にこの2文字が用いられました。川島さんはこの言葉にどんな実感を込めるのか。その原点は、「ヴィダル・サスーン」時代の経験にあったといいます。

70年代って世界中から美容師になりたいという凄い人が(ロンドンに)集まっていたんです。みんな才能があるわけじゃないですか。その中で認めてもらうにはいっぱい働かないと駄目ですよね。

(「ヴィダル・サスーン」で)僕は何を学んだかと言うと、お昼ご飯を食べないで一日働けること(笑)。

向こうの人たちって掃除もしないで「see you tomorrow」って帰っちゃうんです。でも僕は、他のスタッフの道具までピカピカにしました。

結局大事なのはそういう泥臭いことです。才能なんて10%あればいい。最後に勝負を分けるのは情熱でしょう。

才能だけでは通用しない厳しい世界を生き抜いてきた川島さんならではの含蓄ある言葉です。同時に、川島さんの持つ何とも言えない人間的魅力は、仕事を通じて技術だけでなく、人格を磨いてきた日々の蓄積にあったのだと合点がいきました。

そんな下積み時代の心掛けをもとに、川島さんはその後ヴィダル・サスーンで頭角を現し、世界的美容師への道を開いていきます。

人格陶冶と仕事力。双方が密接不可分の関係にあることを川島さんは人生を通して示してくださっています。

本誌では、「不器用こそ財産」「仕事とは旅」など、川島さんの掴んできた仕事哲学がふんだんに盛り込まれています。若手からベテランまで、仕事に真剣に向き合うあらゆる世代にヒントとなること間違いないでしょう。

▼『致知』2025年4月号 特集「人間における運の研究」
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