「焼け野原から立ち上がった歴史を忘れるな」——コロナ禍を戦い抜いた築地玉寿司の歩み

1924年(大正13年)に創業し、昨年100周年を迎えた築地玉寿司。若くして老舗の暖簾を受け継いだのが、4代目社長の中野里陽平氏です。入社時の会社存亡の危機を見事に乗り越え、回転寿司チェーン店や高級寿司店の台頭にも負けず、コロナ禍でも堅調な業績を維持してきた歩みの裏にあった、先代の父からの言葉をご紹介します。
(本記事は月刊『致知』2021年9月号 特集「言葉は力」より一部を抜粋・編集したものです)

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焼け野原から立ち上がった歴史を忘れるな

——築地玉寿司は、2021年で創業97年を迎えられるそうですね。

<中野里>
1924(大正13)年に祖父が東京の築地で立ち上げたお店の暖簾を、祖母、父が引き継ぎ、2005年から私が4代目社長として経営しています。

団塊の世代が社会に出た1970年代には、若い方に気軽に寄っていただけるお寿司屋さんを銀座1丁目でやろうということで、一貫40円均一でお寿司を提供したり、日本で初めて手巻き寿司を提供したりして、大繁盛したこともあるんですよ。

最近は安価な回転寿司のお店が増えていますが、当社は駅前などの日常的な場所で、ちょっとした贅沢を味わっていただけるようなお店づくりにこだわっています。

——このコロナ禍で飲食業は苦戦を強いられていますが。

<中野里>
はっきり申し上げて大変です。当社は現在37店営業していますが、昨春初めて緊急事態宣言が発出された時には、29店を2か月休止せざるを得なくなって9割も売り上げが減りました。

しかしその時、先代の父からかけられたのが「大丈夫だ。焼け野原から立ち上がってきた歴史を忘れるな」という言葉でした。

——とても力強い言葉ですね。

<中野里>
当社は、創業者の祖父が終戦前に病気で亡くなり、直後に東京大空襲で自宅もお店もすべて失いました。しかし、祖母が焼け野原から立ち上がって女手一つで再生させてきたのです。

確かにいまは大変ですが、当時と違って着る物も住む家もあるじゃないかと。

ただ、社員はやっぱり不安でしょうから、一人もリストラはしないと。そしてこの状況は長く続くだろうから、匍匐前進で行こうとずっと言ってきました。

——厳しい現状を受け止めつつ、着実に前進し続けようと。

<中野里>
そうですね。こういう時、経営者がどんな言葉を皆に発信するかはとても重要です。ですから、当社は毎週Zoomを使って全店と繋がる朝礼を行い、私も直接メッセージを発信しているんです。

そこでいつも繰り返すのが、「寿司は永遠なり」という言葉です。

美味しいお寿司は、これから50年経っても、百年経っても愛され続ける。いまは一時的に厳しくても、やり方次第で必ずお客様は来てくださると。

当社は、このコロナ禍に衛生管理を徹底して、従業員の間に一人の感染者も出していません。安心してお食事していただける場をご提供すると共に、例えばお店では、お客様に「もじにぎり」という手書きのメッセージカードを差し上げています。

次回提示していただくと割引をさせていただくんですが、これは単なるクーポン券ではなく、人間同士の繋がりが希薄になりがちなこのご時世に、温かみのある、人の繋がりを取り戻せる場をご提供したい、そんな思いを形にしたものなんです。


(本記事は月刊『致知』2021年9月号 特集「言葉は力」より一部を抜粋・編集したものです

↓ インタビュー内容はこちら!
◆焼け野原から立ち上がった歴史を忘れるな
◆ここで歴史を終えるわけにはいかない
◆再建の矢先に突き付けられた撤退要請
◆「運命自招」道は必ず開ける
◆世界中から愛される食文化の担い手として


 ▼詳細・お申し込みはこちら

◇中野里陽平(なかのり・ようへい)
昭和47年東京都生まれ。学習院大学法学部政治学科卒業。デンバー大学ホテルレストラン学科修了。飲食のMBAともいわれるHRTM取得。平成12年玉寿司入社。17年社長に就任。

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