アシックス創業者・鬼塚喜八郎が語った、経営者の備えるべき〝5つの徳〟


アシックス創業者の鬼塚喜八郎氏。若年期に重度の肺結核にかかり、死の一歩手前をさまよいながらも、あえて入院せず、自ら創業した会社の経営に没頭。いまやアシックスは、世界的なスポーツ用品ブランドとなっています。そんな鬼塚氏が語る、経営者の備えるべき〝5つの徳〟とは——。お相手は、販売開発研究所の名倉康修氏です。
(本文は1992年掲載当時のものです)

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経営者の備えるべき5つの徳

〈鬼塚〉
1つが「謙」。

これは腰が低い。自分の地位や自分の能力 を鼻にかけたりして、人を見下さない。地位が上がれば上がるほど、この謙虚ということは大変、大切な徳になる。

で、2番目は「寛」。寛容ということ。

目くじらを立てて人をいさめたり しないで、その人のことを立てながら、よく話に耳を傾けるという寛大さ、心の広さがないと人はついて来ない。

しかし、その寛容が過きると、なれ合いになって緊張感がなくなるから、 寛と厳とのバランスが大変、大切だ、 そうでないと人のよさということだけで終わってしまう、と実にいいことを言っています。

〈名倉〉
人がよくて倒産するというのは最近多いです。

〈鬼塚〉
で、3番目は「仁」。仁とは思いやり。

これは私、難しいことだなあと感じます。人と接するときにとげとげしい雰囲気を持たないで、何でも言えよと心を許して話せるような仁でないといけないですからね。

ただ、仁が過ぎてくると決断が鈍ってくる。だから、これもその辺をうまく兼ね合っていかないといけない、と言うてますな。

〈名倉〉
第4番目は何ですか。

〈鬼塚〉
「信」です。信とはうそをつかん。約束したことは守る。とくに経営者に絶対に必要な徳は何かといったら、信を持つことだと思いますね。

〈名倉〉
おっしゃる通りです。徳の中で信が一番重要でしょうね。私は、約束を守るという一つだけで、その男は付き合いする価値ありと思う。

〈鬼塚〉
で、最後はね、「勤」です。一 所懸命に、まじめにやる。

同時に率先垂範して、人の先頭に立って引っ張っていくという姿勢がなかったらいかん。 とくに困難なときなど、自らが先頭に立って引っ張っていかないと。

「謙」「寛」「仁」「信」「勤」。今日の テーマの下座心というのは、まさにこの5つの他の中に含まれていると思います。下座心というのは自ら偉そうにしないで相手の下に立って相手をちゃんと遇してやるということですから。

〈名倉〉
私はこの下座心という心は、 わかりやすく言うと、相手に対して一歩下がって花を持たせる、と。

〈鬼塚〉
うん、それも一つのわかりやすい表現ですな。

そういう下座心とい うのは経営者は持たないかんと思う。 この5つの徳を備えれば、自から下座心の気持ちそのものであると思います。 そういう心のある人に人はついて来るんだということでしょうね。

そして、修羅場の中で、人はそういう下座心とか5つの徳の大事さというものに気づき、目覚めていくものだと思います。


(本記事は月刊『致知』1992年1月号 特集「下座心」より記事の一部を抜粋・編集したものです)


◉生前、鬼塚さんから『致知』に寄せられたメッセージをご紹介します◉

復員後、徒手空拳で「若者の健全な育成に大切なスポーツに必要なシューズの製造に残りの人生を捧げる」という信念だけで、スポーツシューズメーカーを創業した。企業経営の経験も知識もなく、又それを学ぶ方法も限られていた。その後、十数年間は文字通り七転び八起きの迷いの連続であった。そのような中で松下幸之助氏の「企業は公器なり」との言葉を知り深く感銘し、自ら実践すべく持ち株を従業員に配布し同族経営から脱皮するとともにガラス張り経営と人材育成に力を注いだ。その後シューズ以外を扱う2社との対等合併により総合スポーツ用品会社となり、今や「世界のスポーツ文化に貢献する」ことが現実になった。思えば私と『致知』の出会いはこの合併直後のことであるが、『致知』により多くの先達者の体験や経営理念を学べる事は、自分の歩んだ道との違いはあっても松下幸之助氏が言われた「企業の成否はその経営者の経営理念の良否による」とのことも再認識させてくれるし、次代を託す若い人たちに私の考えを語る際の力強い後ろ盾ともなっている。と同時に私の歩んだ道も『致知』が身近にあれば違ったものになったに違いないとの思いも持っている。

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◇鬼塚喜八郎(おにつか・きはちろう)
大正7年鳥取市生まれ。満7か年大東亜戦争に参加。昭和20年暮復員。戦後サラリーマン生活を経て、スポーツシューズ専門メーカーオニツカ㈱を創立。社長に就任。49年一部上場企業となり、世界のスポーツシューズ三大メーカーに成長。52年「株式会社アシックス」と改名。

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