2024年11月15日
巨人軍の監督としてリーグ優勝、日本シリーズ優勝各11回を数え、不滅のV9(9連覇)を達成した川上哲治元監督にもスランプはあった。苦境に陥ったこともあった。その時に川上元監督は、いかに対処したのか。いかにして常勝への道を切り拓いたのか。 ◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
(本文は1986年掲載当時のものです)
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勝ちに徹する
──不滅のV9(日本シリーズ9連覇)を達成し、「野球の神様」あるいは「巨人軍の鬼」といわれたほど野球に徹してこられた川上さんですが、今日はその体験を通して、勝つためには何が必要かということを伺いたいと思います。
私は何をするにも、それが正しい道かどうかということを常に頭において行動してきたわけです。道に則って進むということが私の生き方であり、やり方です。巨人軍の監督だった時には常に勝ち続けることが宿命づけられていたから、勝ちに徹することが私にとっては道に則って進むことでした。
だから何が勝利への近道かを考え、勝つためにはこの方法しかないと思えば、誰がなんといおうと、それを実行してきましたね。
──「石橋を叩いても渡らない」とか「オーソドックスすぎて面白くない」とかいわれましたが。
それは外の人間が勝手に決めつけとっただけですよ。私はいつもチームの戦力を計算しながら、この戦法の方が勝つ確率は高いだろうと考えて作戦を立てていったわけです。
窮して通ず
──川上さんが監督になって4年目でしたか、奥様がご病気になられて大変な時期もありましたね。
一番苦しかった時期ですね。弱いチームを引き受けて1年目は優勝したんですが、2年目に負けて、3年目は勝ったが、4年目にまた負けたんです。この敗北は本当にしんどかったね。もともと私は監督1年目から評判の悪い男でしたから(笑)、このときもあることないことを随分書かれました。
それで家内が心労から直腸潰瘍になってしまったわけです。
──ご家族の方もいろいろと非難の声を受けたそうですね。
ええ。でも、家内の病気というのが、うちの家庭にとっては大きな節目になりましたね。そこで私自身、自分の気持ちのふんぎりといいますか、ともかくやるだけのことをやろう、その代わり一生懸命やろうという気持ちがより一層強くなりました。
それと、家族みんなが「親父、家のことは心配するな、もう野球に賭けてくれ」というような空気が出てきた。病気を境にして一家がまとまったようなもんです。
──ご家族にとっても忍の時期でしたね。
人間、順風満帆で来た人生なんて、まったく弱いもんですよ。竹に節のないのと同じですから。やはり竹に節があるように、人生におけるスランプといいますかね、そのスランプを耐え忍んで、そこで力を蓄積しながら大きな力になっていくわけでしょう。
こういうスランプを何回も何回も経験しながらそれを一つ一つ克服していった人が本当に頼りになる。いざというときに頼りになるんじゃないでしょうかね。
──スランプのときに耐えた人間だけが強くなれるわけですね。
そうです。そのスランプのときに力をつけるんです。そこであきらめたら終わりなんですよ。あきらめず、なんとかするんだ、なんとかしようとやってるうちにそこで力がつくんです。だからそこを突破できるんですね。
『易経』の言葉に、「窮じて変じ、変じて通ず」という言葉があります。そのあと「通じて久し」と続くんですが、何事においても成功するためには、早く大きな壁に突き当たらないかん。
壁に突き当たったら、今度はそこであきらめないで「なんとかしよう」とやってるうちに、パッとそこに通じる道を発見し、あるいはヒントを得ていくんです。
こういうことを経験した人こそ、一芸に秀でる者、百芸に通ずで、立派な仕事のできる人になる、強い人になっていく。これも忍の別の表現でしょう。
──なるほど。
だから、大事なことは、やはり逃げないことですよ。あきらめないことですよ。〝為せば成る〟でね。