人生の後半生を豊かに生きるための指南書 (『人生百年時代の生き方の教科書』)


〝人生100年時代〟という言葉を様々な場で耳にするようになりました。平均寿命が延び、人生は100年が当たり前、という意味を端的に表現した言葉ですが、長寿化にあたり、私たちはどのように生き方、働き方を変えていけばよいのでしょうか。8月末刊行予定の新刊『人生百年時代の生き方の教科書』では、後半生を豊かに生きる心得を各分野の人生の達人60名の叡智に学ばんと珠玉の逸話を集めました。本書の中から作家の佐藤愛子氏のお話をご紹介いたします。

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言葉が力杖になる瞬間

私の場合、言葉によって支えられたということはないですね。

言葉が先にあって、その言葉で力づけられ自分の人生が決まったというのではなく、自分の人生が先にあって、人生観なり自分の気質なりにぴったり合う言葉を見つけた時に、嬉しくなってそれが力杖になる、ということだと思うんですね。

そういう意味で気に入った言葉の一つに、

「人生は美しいことだけ覚えていればいい」

という沢田美喜さんの言葉があります。

沢田美喜さんはエリザベス・サンダース・ホームを創設し、たくさんの戦災混血孤児を育てた方ですが、私はテレビで沢田さんがこの言葉を言ってらっしゃるのを見て、非常に感動したんです。

ホームで育った黒人の混血孤児なんですが、成長して27、8歳の青年になって、アメリカへ自分のお父さんに会いに行く。

ところがお父さんは喧嘩か何かして監獄に入っているんですね。

胸が潰れるような思いでその青年は、沢田さんが来るのをニューヨークの公園のベンチに座って待っている。

沢田さんの姿が見えると青年は駆け寄って、抱きついて、思わず泣くんです。

その時に沢田さんが英語でね、

「泣いてはいけない、人生は美しいことだけ覚えていればいい」

と言って、青年を励ますという場面があるんです。

「上機嫌」を義務の第一義に置く

長いこと生きてくると、いろいろな経験をしてきますけど、楽しいことよりも、美しいことのほうが心に残るということが分かります。

美しい自然、人の美しい心。

そういう美しいことだけ覚えていれば、人生捨てたものじゃない、というふうに思えるわけでしてね。

さすがに沢田さんはいいことを言われるなあと、感銘を受けましたね。

また、アランの楽天主義というのは有名ですが、『幸福論』の中に「上機嫌」という章があります。

「たまたま道徳論を書かなければならないとすると、 私は上機嫌ということを義務の第一義に置くだろう」

とあるんですが、私はこの言葉が非常に気に入っています。

われわれは何かにつけて、取るに足りないことで愚痴をこぼしたり、泣いたりしがちですけどね、そういう時に「上機嫌」というのを義務の第一義に置くと、生きていく力が出るんじゃないかと思うんですよ。

私はすぐに怒る人間として知られているようですけど、怒る時も上機嫌に怒ってましたから、まあまあ元気にやってこられたんじゃないかと思いますよ。

上機嫌に怒るということは、つまり、あとに怒りの余燼(よじん)――憎しみや怨みを残さないということです。

今月末に発売開始となる『人生百年時代の生き方の教科書』。本書は、「1日1話、読めば心が熱くなる365人の教科書」シリーズの刊行後、「活字を大きくして、読みやすくしてほしい」といった声が、中高年層から数多く寄せられていたことから生まれました。運がよくなる秘訣、養生法、幸福論、長寿の極意、病気、老い、愛する人との別れ、若い人との付き合い方など、人生百年時代を生きるための知恵や心得が記されています。

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