【祝デビュー60周年】「歌うことは生きる手段だった」——〝ラスボス〟小林幸子が歌い続ける理由

本年芸能生活60周年を迎えた歌手・小林幸子さん。NHK「紅白歌合戦」への34回出場をはじめ、歌謡界に数多の功績を残してきた一方、近年はネット動画を介して若者からも絶大な支持を集めています。しかし、10歳のデビューから15年間は辛酸を嘗めた日々だったといいます。小林さんはなぜ辞めることなく歌い続けることができたのか。氏の波瀾万丈な下積み時代を通じて、運命を切り開く要諦を探ります。

各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

15歳で一家の生計の大黒柱に

つい1年前までどこにでもいる田舎娘だった私が、歌に演技にバラエティと、寝る暇もないほど慌ただしい毎日を過ごすことになったのです。しかし、2曲目からは嘘のように売れなくなりました。

子供でも、昨日まで遊んでくれた人々が皆そっぽを向いて去る異変には勘づきます。すると恐ろしいもので、人の顔色を窺い、態度を変える可愛げのない子に変貌していきました。何しろ現代では考えられませんが、10歳で都内のアパートに一人暮らし、頼れる大人はマネージャーのみ。生きるために選択肢はありませんでした。

試行錯誤で何とか食い繋いでいた私にさらなる不運が降り掛かります。実は、デビューの数日後に新潟大地震が発生。幸い家族と精肉店は無事だったものの、復興計画で新潟市内に大手スーパーが参入した煽りを受け、5年後には経営が立ちゆかなくなりました。

借金を抱えた両親は土地を売り払い、2人の姉を連れて上京したのです。一家団欒の嬉しさは束の間、両親は定職が見つからず、2人の姉もまだ学生であったことから、一家5人の生計を私が背負うことになりました。1969年、15歳の時でした。

当時は高度経済成長期の真っ只中、巷にはクラブやキャバレーが点在していました。ステージで歌えば日払いでお給料をいただけましたが、15歳では労働基準法により雇ってもらえません。そのため18歳と年上に誤魔化し、全国津々浦々を渡り歩いたのです。

たとえ歌ったことがないジャズを依頼されようとも、間髪を容れずに「歌えます!」と言い、その後何度も練習して本番に挑むなど、いただいたオファーはすべて受けました。

この下積み時代に民謡やシャンソン、ジャズなど多様な歌を実践を通して学んだことが、演歌に囚われず、若者に人気のボカロ曲やJ-Popにも臆することなく挑戦する度胸と表現力に繋がっていると実感します。だからこそ、私はいまも可能な限りオファーは断らないよう心掛けています。何事も挑戦することで、自分の成長の糧になっていくものです。

一所懸命過ごしていましたが、お客様からビールをかけられたり、レコードのキャンペーン活動では目の前で歌詞カードを捨てられるような屈辱を受けることも日常茶飯事でした。20歳を過ぎた頃には、「神様はレコード歌手としての私をもう見放したんだ」と思いたくなる日もありました。それでも決して口に出さず、反骨精神を抱き歌い続けたのです。

なぜ辞めずに歌い続けることができたのか。それは歌が生活であり、生きる手段だったからに他なりません。もちろん、歌が大好きな事実に変わりはありませんでしたが、私が一家を支えなきゃいけないという責任感が、私をステージに立たせていたように感じます。


(本記事は月刊『致知』2023年7月号連載「二十代をどう生きるか」より一部抜粋・編集したものです)

◉本記事には、「9歳で下した人生の決断」「恩師・古賀政男氏に学んだこと」「努力は必ず誰かが見ている」等、波瀾万丈の下積み時代を経て、レコード売り上げ200万枚を超える大ヒットになった『おもいで酒』に至るまでの足跡を詳細に語っていただきました。本記事の【詳細・購読は下記バナーをクリック↓】

 

〈致知電子版 〉でも全文お読みいただけます。

◉担当編集者が綴った取材秘話は下記バナーをクリック↓

◇小林幸子(こばやし・さちこ)
昭和28年新潟県生まれ。39年『ウソツキ鴎』で歌手デビュー。54年『おもいで酒』が200万枚突破の大ヒットを記録、日本レコード大賞「最優秀歌唱賞」をはじめとする数々の歌唱賞を受賞。同年NHK「紅白歌合戦」初出場。以降34回出場を果たす。舞台、テレビドラマ、声優、バラエティなど多方面で活躍し、来年芸能生活60周年を迎える。著書に『ラスボスの伝言 小林幸子の「幸」を招く20のルール』(小学館)など。

1年間(全12冊)

定価14,400円

11,500

(税込/送料無料)

1冊あたり
約958円

(税込/送料無料)

人間力・仕事力を高める
記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 11,500円(1冊あたり958円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 31,000円(1冊あたり861円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

人気ランキング

  1. 【WEB chichi限定記事】

    【取材手記】ふるさと納税受入額で5度の日本一! 宮崎県都城市市長・池田宜永が語った「組織を発展させる秘訣」

  2. 人生

    大谷翔平、菊池雄星を育てた花巻東高校・佐々木洋監督が語った「何をやってもツイてる人、空回りする人の4つの差」

  3. 【WEB chichi限定記事】

    【編集長取材手記】不思議と運命が好転する「一流の人が実践しているちょっとした心の習慣」——増田明美×浅見帆帆子

  4. 【WEB chichi限定記事】

    【取材手記】持って生まれた運命を変えるには!? 稀代の観相家・水野南北が説く〝陰徳〟のすすめ

  5. 子育て・教育

    赤ちゃんは母親を選んで生まれてくる ——「胎内記憶」が私たちに示すもの

  6. 仕事

    リアル“下町ロケット”! 植松電機社長・植松 努の宇宙への挑戦

  7. 注目の一冊

    なぜ若者たちは笑顔で飛び立っていったのか——ある特攻隊員の最期の言葉

  8. 人生

    卵を投げつけられた王貞治が放った驚きのひと言——福岡ソフトバンクホークス監督・小久保裕紀が振り返る

  9. 【WEB chichi限定記事】

    【取材手記】勝利の秘訣は日常にあり——世界チャンピオンが苦節を経て掴んだ勝負哲学〈登坂絵莉〉

  10. 仕事

    「勝負の神は細部に宿る」日本サッカー界を牽引してきた岡田武史監督の勝負哲学

人間力・仕事力を高める
記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

閉じる