〝生涯現役アナウンサー〟実現へ——独自の道を切り開くトークナビ社長・樋田かおりを支えた父の言葉

〝生涯現役アナウンサー〟実現を志し、トークナビを創業した樋田かおりさん。アナウンサーが講師を務めるコミュニケーション研修や企業の広報活動をサポートする「女子アナ広報室」など、多様な事業展開でアナウンサーのセカンドキャリアを切り開いてきました。独自の道を創ってきた樋田さんの足跡を交え、決断を支えた父の言葉、夢を形にするヒントを語っていただきました。

掴み取ったアナウンサーの夢

〈樋田〉
人前で話すことが苦手だった私がアナウンサーに憧れを抱いたのは、高校生の時でした。『めざましテレビ』のお天気お姉さんを務めていた高樹千佳子さんの輝く姿を目にし、格好いいなとたちまち魅了されてしまったのです。

その憧れが目標へと変わったのは、先輩に誘われて入部した放送部での体験でした。甲子園岐阜県予選でウグイス嬢を務めたりする中で、一つの原稿でも表現によって伝わり方が変わる「声」の力に大きな感動を味わったのです。

そして、高校3年生時NHK主催の放送コンテストで優勝したことをきっかけに、アナウンサーの道に進む決意をしました。

高校卒業後は、名古屋で最もアナウンサーを輩出している金城学院大学へ進学。在学中は、キャラクターショーの司会や一般投票で選ばれたウェザーニューズのお天気キャスターなど、年間300を超える実践を積み重ねました。

ところが、就職活動で30社以上の放送局に応募したものの、書類審査の段階で悉く不採用に……。現実の厳しさを思い知りました。それでも決して夢を諦めず、就職活動を続けた結果、青森放送に採用していただけたのです。

決まったことをするのは作業 自分から創り出すのが仕事

入社後は好きを仕事にする楽しさを味わう一方、アナウンサーの陰の努力も教えられました。

例えば、数々の賞に輝いた名アナウンサーの秋山博子さんが毎朝毎晩、誰よりも熱心に練習しているのを目にした時は衝撃を受けました。その姿勢に触発され、私も1日4時間の発声練習を自らに課したのです。若くして一流に触れられたことは、その後の大きな財産となりました。

そうした大変ながらも充実した日々の中、年齢を重ねた先輩の多くが結婚を理由に退職や部署異動になる現実に直面し、女性アナウンサーを続ける難しさを痛感。このままでは大好きな仕事を続けられないとの危機感を強くしていきました。思い悩んだ末、ならば20代のうちに挑戦しようと、東京でフリーアナウンサーになる決断をしました。

しかし、いざ上京してみるとフリーの女子アナは飽和状態で、高倍率のオーディションを突破しなければ仕事はありません。再び壁にぶつかり、自信を失った私の背中を押してくれたのが、幼い頃、父に何度も言われた言葉でした。

「決まったことをするのは作業。自分から創り出すのが仕事だよ」

そうだ、道がないなら自分の手で切り拓けばいい。アナウンサーを続けていく場所は自分で創ろう。その一心で、たった一人で立ち上げたのがトークナビです。2015年、29歳の時でした。

諦めなければいつか花は咲く

ただ、明確な事業内容も決めずに想いだけで走り出したため、まずはご縁のあった経営者の方々にお会いし、ニーズを探ることから始めました。すると、社員とのコミュニケーションに悩みを抱える方が多いと分かったのです。そこから、伝え方のプロである女子アナが講師となり、相手に自分の考えや思いを伝える話し方、ヒアリング方法などを磨く研修事業を開始しました。

とはいえ、最初の1年は全く仕事がいただけず、貯金を取り崩して暮らす苦しい日々が続きました。挫けそうになる私に仕事を紹介してくださったのが、先に触れたご縁のあった経営者の方々でした。応援してくださる方々の期待を裏切らないためにも、改めて一人ひとりのお客様のニーズに合った研修づくりを徹底することで少しずつ仕事のご依頼が増え、高いリピート率にも繋がっていったのです。

この体験を通じて「すべての答えを知っているのはお客様」であり、常にお客様目線に立ったサービスを提供することが当社の信条となりました。そして2年目には5人の女子アナが新たな仲間として加わり、会社としての根、土台が育まれていきました。

また、2019年には、メディアとの繋がりが強い女子アナが、企業の広報活動をサポートする「女子アナ広報室」のサービスを開始。僅か3年で1,100を超えるメディア実績を挙げるなど、当社の柱となる事業に成長しています。

一方、2020年に始まった新型コロナウイルス危機は当社にとって大きな転機となりました。社員の命を第一にテレワーク化を進めたものの、社員同士の関わりが薄れ、皆からみるみる活力が失われていったのです。そこで改めて原点に返り、皆の思いを一つにするべく行動指針を刷新。一人ひとりが思い描く未来、実現のために必要な行動を「クレド」として共通言語化したことで、再び全社で一枚岩になることができたのです。

現在は東京に加えて、大阪と福岡に支社を構え、総勢57名の女子アナが新たなキャリアを切り拓いています。

これまでの道のりには紆余曲折があり、何度も挫けそうになりました。その度に多くの方々に支えられ、歩んで来ることができました。

いま心に思うのは、「何も咲かない寒い日は、下へ下へと根を伸ばせ。やがて大きな花が咲く」という元マラソン選手・高橋尚子さんを育てた恩師の言葉です。

成果がすぐに目に見えなくても、夢を諦めず、積み重ねた努力は大きな根を育み、いつかきっと花が咲く。そして根がぶれなければ、たとえ葉が枯れても再び立ち上がることができるのです。

これからも生涯現役アナウンサーとして、言葉が持つ魅力を伝えることで、一人でも多くの人を笑顔にしていければと思います。


(本記事は月刊『致知』2023年1月号「致知随想」より抜粋・編集したものです)

◇樋田かおり(といだ・かおり)
昭和60年岐阜県生まれ。平成20年金城学院大学卒業後、日本テレビ系列局青森放送入社。テレビのお天気キャスターや7時間生放送のラジオパーソナリティなどアナウンサーとして様々な放送現場を経験。28歳で独立し、27年株式会社トークナビ設立。各地のアナウンサー経験者をネットワークし、話し方講師に育成。話すことの大切さを伝えるためアナウンサー講師を増やし、コミュニケーション研修を展開中。著書に『社長の伝え方には会社を変える力がある』(青春出版)、『人見知りアナウンサーに学ぶ ドキドキに負けない話し方』(文響社)がある。

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