【追悼】「セブン-イレブン」の生みの親・鈴木敏文氏が残した後から来る世代へのメッセージ

日本最大のコンビニチェーン「セブン‐イレブン」をゼロから立ち上げた鈴木敏文氏が、2026年5月18日に逝去されました。93歳でした。弊誌『致知』を長年ご愛読いただき、誌面で何度も対談をしていただくなど、多大なるご恩顧を賜りました。生前のご厚情に感謝を表し、2021年4月号連載「二十代をどう生きるか」より、ご自身の体験から掴んだ成功の要諦、後から来る世代への熱いメッセージをお届けします。(本記事は月刊『致知』2021年4月号 連載「20代をどう生きるか」より一部抜粋・編集したものです)

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モットーは「変化対応」

我が家には地元の政治家が出入りしていたこともあり、私はいつしか政治家に憧れを抱くようになっていた。ところが、中央大学に入学し、代議士や県議会議員の秘書を務める卒業生と関わる中で、調整役や様々な雑用に奔走する実際の業務を目の当たりにし、自分には務まらないと考えを改めた。

その代わりに頭に浮かんだのが新聞や雑誌などマスコミ関係の仕事である。当時発行されていた雑誌の中で最高部数の115万部を誇っていた農村向けの月刊誌『家の光』に着目し、父親の縁もあり採用の内諾を取りつけた。しかし、一転して昭和31年は大卒者の募集がなくなり、仕方なくその出版社の紹介で東京出版販売(現・トーハン)の採用試験を受け、何とか合格。想定外の形で社会人生活を始めることになったのだ。

トーハンに所属していると、どんな大御所の作家でも出版社の方に掛け合えばすぐにご縁を繋いでもらえた。当時一流作家と言われていた方々とはほとんどお会いできたと思う。しかし、それは自分の努力の結果では全くない。トーハンという大手取次の広報課に所属していたからこそである。

マラソンに譬えれば、皆は一所懸命走っているのに、自分だけ自転車に乗っているようなものではないか。仕事は充実していたものの、取材を通じて各分野で己の信念を持って活躍される方たちにお会いする度に、自分の小ささや仕事への物足りなさ、焦燥感が募っていった。そして昭和38年、30歳の時にヨーカ堂(現・イトーヨーカ堂)に転職したのである。

全く門外漢の流通業界に転職したことは私にとって大きな挑戦であった。正直なところ「スーパー」という言葉すら知らなかった。隆々たる出版業界から黎明期のスーパーマーケット業界へ移ることは親からも反対された。そんな中で流通業界を学ぶうちに、時代の流れと共に昔ながらの業態である個人商店がどんどん潰れていくのではないかと危機感を抱くようになる。

小売店も時代の変化に対応していかなければ生き残れない。そう考えていた折、流通先進国であるアメリカへ何人かの社員と共に研修に行く機会があり、そこで出合ったのがコンビニエンスストアという新しい事業モデルだった。ちょうど40歳の時のことである。

日本でもコンビニ事業を始めようと志を立てたものの、当時社長だった伊藤雅俊(現・セブン&アイ・ホールディングス名誉会長)をはじめ、ダイエーの中内㓛さんや西武の堤清二さんなど、誰からも賛同を得られなかった。それどころか日本では絶対に成功しないと、四面楚歌の状況だったのである。

しかし、その意見をよくよく聞くと「大は小に勝つ」という過去の経験に基づいた規模の大小論ばかりで、コンビニという小売業に対する明確な反論はなかった。世の中が変化している時、常識という過去の経験の蓄積に囚われることほど恐いものはない。生意気にもそう考え、自分の信念を曲げずに情熱を持って挑んだことで、日本でコンビニ事業を確立することができたのである。

この経験から20代を含め若者の皆さんに伝えたいのは、「挑戦」のひと言に尽きる。時代は常に変化しているため、過去の成功事例に縋りついているだけでは成功は掴めない。「変化対応」が昔から私のモットーだ。

挑戦こそ未来をひらく

コンビニ事業の成功の根底には、常にお客様の立場で考えるという変わらない視点があった。「日々の仕事は与えられるものだから、挑戦はできない」と考える人もいるかもしれないが、そうではない。仕事は皆に同じように与えられるからこそ、自分から一歩踏み出す挑戦が必要なのである。

自発的に挑戦していると、必然的に仕事は面白味を帯びてくる。言われたことだけをやっていたら仕事がつまらないのは当然だ。だからどんな仕事であれ、挑戦することが不可欠だ。「こんな仕事は面白くない」、そうぼやく声をよく聞くが、それは挑戦意欲がないからであり、「自分は駄目だ」と公言しているのと同等である。

繰り返しになるが、世の中は常に変化していく。故にその時代、その年齢に相応しい挑戦をしていくことが大切だ。例えば私は88歳になったけれど、「もう歳だから駄目」なんてことはなく、「その歳なりに挑戦することがある」と思っている。

中でも20代というのは、何にでも挑戦できる最高の駆け出しの時期である。責任ある立場でないからこそ、失敗を恐れず挑戦してほしい。勉強にしろ読書にしろ、恋愛事だってすべて挑戦だ。だからこそ、20代はいろいろなことに興味を持ってほしい。

セブンイレブンはいまでこそ当たり前のようにお弁当やおにぎりを売っているが、当初は反対の嵐だった。家庭でつくるものであるお弁当やおにぎりをわざわざ店で買う人がいるのかと。

それでもコンビニ事業をスタートした時と同様、信念を貫き通して1976年に開発を始めたところ、確かに最初は一日に一店舗で2個か3個しか売れなかったが、いまではおにぎりは年間22億個も売れるようになっている。常識を覆すことができたのである。

おでんの販売やプライベートブランドの開始、セブン銀行の立ち上げなども同様だ。周囲から「無理だ」と猛反対を受けながらも常に挑戦し続けることで、道を切り拓いてきた。

皆が一様に賛成することは挑戦する価値のないことであり、皆が反対することにこそ、未来を切り拓く宝が眠っている。つまり、困難の中にこそ挑戦する価値があるのである。信念を持って挑戦し続けていると、世の中の常識のほうが変わっていくものだ。それがビジネスの第一線を走り続けてきた私の実感である。 

ぜひとも、これからの未来を担う若者には積極的に一歩踏み出す挑戦をしてほしいと心から願っている。


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月刊『致知』創刊45周年、誠におめでとうございます。

気が付けば『致知』とは創刊当時からの長いお付き合いとなります。

何気ない言葉が珠玉の輝きとなり私の魂を揺さぶり、五臓六腑にしみわたる湧き水がごとく私の心を潤し、日常を満たし、そして人生を豊かにしてくれている『致知』に心より敬意を表し感謝申し上げます。

学びは、暗闇の中に一筋の光を見出すようなもの。『致知』は未来を担う次世代のリーダーの方々にも、人生に新たな光明をもたらしてくれるでしょう。

今後ますますのご発展を祈念致します。

◇鈴木敏文(すずき・としふみ)
昭和7年長野県生まれ。31年中央大学経済学部卒業後、東京出版販売(現・トーハン)に入社。38年ヨーカ堂(現・イトーヨーカ堂)に転職。48年セブンイレブン・ジャパンを設立し、コンビニエンスストアを全国に広め、日本一の流通グループとして今日まで流通業界を牽引する。平成285月より現職。著書に『わがセブン秘録』(プレジデント社)など多数。

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