小宮一慶の心を鼓舞した『修身教授録』の言葉

経営課題を抱えた数多くの経営者たちの悩みに耳を傾け、正しい経営を行うために求められる原理原則を説いてきた経営コンサルタントの小宮一慶さん。小宮さんもまた、森信三先生の代表的著作『修身教授録』の愛読者の一人です。小宮さんの心に響いた森信三先生の言葉とはどんなものだったのでしょうか?

全力でぶつかっていくことが自分を高める

森信三先生は教える側の心得として「人を教えようとするよりも、まず自ら学ばねばならぬ」と言われていますが、まさにそのとおりだと思います。私もお教えする立場ですが、やっぱり自分自身が常に高まっていかないと、人にものを教えることなどできません。

また、読書は「心の食物」であると、実にうまい表現をしておられます。食事を欠けば肉体を養えないのと同じように、思索をする人にとって読書以上に優れた心の養分はないと。

その他にも勉強になる言葉がいろいろありましたが、私が(『修身教授録』の中で)よく引用させてもらうのは次の言葉です。

 「人生は、ただ一回のマラソン競走みたいなものです。勝敗の決は一生にただ一回人生の終わりにあるだけです。しかしマラソン競走と考えている間は、まだ心にゆるみが出ます。人生が、50メートルの短距離競走だと分かってくると、人間も凄味が加わってくるんですが」

人生は長丁場でマラソンと似たところがありますが、しかしマラソンだとばかり思っていては、ここぞという時に全力を出し損ねることがある。普段からこれ以上はできないというくらい全力でぶつかっていると、能力は僅かずつでも上がっていくもので、特に若いうちにその習慣を身につけた人は強いと私は思います。

口先だけではだめ。実践、行動が大事

また、『修身教授録』では「下坐行」ということも言われていて、本来は下位の人がやるべきことを指すのですが、特にいまの時代は常日頃からそれを心掛けておかないと、口先だけの人間になってしまいかねません。

いま世の中を見ていると、皆から偉いと言われている人の多くが「首から上があればできる仕事」しかしていないんですね。

私が日本福祉サービスに勤めていた時に、400人ほどの寝たきりの方をお風呂に入れる仕事を手伝ったんですね。その時に思い出したのが、鍵山さんに教えてもらった「頭は臆病だけど、手は臆病じゃない」という言葉でした。頭で考えていると、どうしてもできない理由を一杯考えてしまう。でも実際に手を動かしてみると、意外と簡単にできることが多いんです。

だからうちの会社では、毎朝9時から全員で必ず掃除をしているんです。私がやるのはトイレ掃除。「なんでそんなことするんですか、小宮さん。時間がもったいないじゃないですか」と言う人もおられるんですが、いや、そうじゃないと。やっぱり手を動かしていないと何も変わらないことを、体を通して知るのが大事だと思うんです。

私は曹洞宗の最高顧問でいらした藤本幸邦先生を人生の師と仰いでいるんですが、先生は「履き物を揃える」ということをうるさくおっしゃいました。先生は概念の遊びを凄く嫌われるんですよ。永平寺には「脚下照顧」という額が掛かっているそうですが、これって一つの概念じゃないですか。

一方、「履き物を揃える」というのは、それを具体的な行動に落とし込んだものじゃないかと。それを先生は子供たちにもやらせるわけです。「履き物を揃えると心が揃う」という考え方ですが、おそらくその延長線上に藤本先生は脚下照顧を思っておられたのではないかと。だから実践、行動が何よりも大事なんですね。

 ※(本記事は月刊『致知』2011年10月号に掲載された記事の一部を抜粋したものです)

【著者紹介】

小宮一慶(こみや・かずよし)

昭和32年大阪府生まれ。56年京都大学法学部を卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行。同行から派遣されてダートマス大学エイモスタック経営大学院でMBAを取得。本店でM&Aなどを担当した後、平成3年岡本アソシエイツに移籍し、同社取締役就任。8年小宮コンサルタンツを設立し、代表就任。著書多数。

 

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