お金をかけずに赤字ローカル線をV字回復させた敏腕社長・鳥塚亮のアイデア術

近年、深刻な過疎化や少子高齢化により、地方の鉄道会社の多くが経営難に陥っています。千葉県のいすみ鉄道も、かつては毎年1億円の赤字を垂れ流し、廃線寸前に追い込まれていました。しかし、優れた経営トップを得たことで、奇跡的にV字回復を遂げます。資金に恵まれない中、創意工夫によって売り上げを3倍に伸ばし、会社と地域を甦らせた鳥塚亮社長(※)。その「アイデアを湧き立たせる秘訣」とは――
 ※肩書は取材当時のもの

加山雄三、黒木瞳ら大物芸能人も訪れる

〔写真提供/いすみ鉄道株式会社〕

いすみ鉄道は千葉県南東部にあるたった14駅を結ぶローカル線ですが、いま若いカップルや女性グループを中心に人気を集めており、テレビや雑誌、新聞などでもたくさん紹介されています。

加山雄三さんが「若大将のゆうゆう散歩」というテレビ番組で来たり、黒木瞳さんが監督を手掛けられた映画の舞台になったり、AKB48の岩佐美咲さんのシングル「無人駅」のコンサートイベントがいすみ鉄道の駅で行われたりと、芸能人も数多く訪れるといいます。

その人気の秘密は、菜の花畑と桜並木の中を走る黄色い可愛い列車、ムーミン列車にありました。

いすみ鉄道社長の鳥塚亮さんは、どのようにしてムーミン列車を生み出し、奇跡のV字回復を果たしたのでしょうか。

神様が手を差し伸べてくれる瞬間

そもそもいすみ鉄道は、経営が悪化していた旧国鉄の再建に際して、地域の自治体や民間企業が共同出資する形で1987年に設立され、翌年からいすみ線の運行をスタートしました。年々乗客は減少の一途を辿り、2006年には乗客数が開業当時の半分以下となる年間50万人に落ち込み、毎年1億円もの赤字を垂れ流していました。

そういう状況の中で、いすみ鉄道は社長を公募することになり、123名の応募者の中から選ばれたのが鳥塚さんです。

根っからの鉄道ファンだった鳥塚さんは、2009年、48歳の時に大手外資系航空会社のキャリアを捨て、赤字ローカル線の社長に転身。早速、改革に着手しました。

当時のことをこう振り返ります。

「まず沿線にお客様を呼び込んでこなければいけない。しかし、お金はないわけです。さあ、どうするか。毎日一所懸命考え続けていると、ある日突然、神様が手を差し伸べてくれるというか、気づきを与えられる瞬間があるんですね。『あっなるほどそうか。こうやったらいいんだ』と。常に常にそのことを思って、常に常に一所懸命やっていれば、霧が晴れて必ず道は開けるんです。で、その時に閃いたのが『ムーミン列車』でした」

毎日寝ても覚めても一所懸命考え続けていると、アイデアの神様が閃きを与えてくれる。これが良いアイデアを生み出す秘訣といえるでしょう。

着ぐるみのムーミンを借りるには莫大な費用がかかるものの、キャラクターのシールだけなら、さほど版権料はかからない。そこで、鳥塚さんは車両にムーミンのシールを貼り、駅にムーミンのスタンプを置くことにします。

たったそれだけの仕掛けにもかかわらず、30代、40代の女性客が土日に訪れるようになり、SNSやメディアを通じて、口コミで広がっていきました。その結果、乗客数は前年の1・6倍、売店収入は4倍に達し、いすみ鉄道は廃線の危機を免れたのです。

忘れ難い鳥塚さんの言葉をもう1つ。

「ないものを嘆いたり願ったりしても仕方ないですし、つまるところ、いま目の前に与えられた環境の中で闘っていくしかありません」

現状を肯定もせず、否定もせず、ありのままを受け入れて、マイナスの条件も生かして、最善の手を打つ。ここに成功の条件を見る思いがします。


(本記事は月刊『致知』2018年4月号 対談「かくして会社と地域を甦らせた」を一部抜粋・再編集したものです)


鳥塚 亮(とりづか・あきら)
昭和35年東京都生まれ。大学卒業後、学習塾職員などを経て、27歳の時に大韓航空入社。30歳の時に英国航空に転職。副業として鉄道前面展望ビデオの販売を開始、シリーズ総計600本を超える。平成21年いすみ鉄道の社長公募に応募し、社長に就任。ムーミン列車の運行、物販の拡充、訓練費用自己負担運転士募集などの営業努力で収支を改善し、存続に筋道をつけた。著書に『ローカル線で地域を元気にする方法 いすみ鉄道公募社長の昭和流ビジネス論』(晶文社)。※文中の肩書は掲載当時ママ

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