【3分で読める感動実話】愛する母はなぜ鬼になったのか(西村滋)

1万本以上に及ぶ月刊『致知』の人物インタビューと、弊社書籍の中から、仕事力・人間力が身につく記事を精選した『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(藤尾秀昭・監修)。致知出版社が熱い想いを込めて贈る渾身の一書です。本書の中から掲載当時大きな反響を呼んだ西村滋氏の記事をご紹介します。

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6歳で亡くした母との思い出

僕は幼少期に両親を結核で亡くしているんですが、まず母が6歳の時に亡くなりました。物心がついた時から、なぜか僕を邪険にして邪険にして、嫌なお母さんだったんですよ。散々いじめ抜かれて、憎まざるを得ないような母親でした。これは後で知ったことですが、母は僕に菌をうつしちゃいけない、そばへ寄せつけちゃいけない、という思いでいたようです。本当は入院しなきゃいけない身なんですが、そうなれば面会にも来させられないだろう。そこで母は、どうせ自分は死ぬのだから、せめてこの家のどこかに置いてほしいと父に頼み込み、離れを建ててもらったそうです。

僕はそこに母がいることを知っているものですから、喜んで会いにいく。するとありっ
たけの罵声を浴びせられ、物を投げつけられる。本当に悲しい思いをして、だんだんと母を憎むようになりました。母としては非常に辛い思いをしたんだと思いますよ。それと、家には家政婦がいましてね。僕が幼稚園から帰ってくると、なぜか裏庭に連れていかれて歌を歌わされるんです。

「きょうはどんな歌を習ってきたの?」と聞かれ、いくつか歌っていると「もっと大きな声で歌いなさい」なんてうるさく言うから嫌になったんですがね。これも母が僕の歌を聞きながら、成長していく様子を毎日楽しみにしていたのだと後になって知りました。

僕はそんなことを知る由もありませんから、母と死に別れた時もちっとも悲しくないわけね。でも母はわざとそうしていた。病気をうつさないためだけじゃない。幼い子が母親に死なれて泣くのは、優しく愛された記憶があるからだ。憎らしい母なら死んでも悲しまないだろう。また、父も若かったため、新しい母親が来るはずだと考えたんでしょうね。継母に愛されるためには、実の母親のことなど憎ませておいたほうがいい、と。それを聞かされた時は非常にびっくりしましたね。

孤児院を転々としながら非行を繰り返し、愛知の少年院に入っていた13歳の時でした。ある時、家政婦だったおばさんが、僕がグレたという噂うわさを聞いて駆けつけてくれたんです。母からは20歳になるまではと口止めされていたそうですが、そのおばさんも胃がんを患い、生きているうちに本当のことを伝えておきたいと、この話をしてくれたんですね。僕はこの13歳の時にようやく立ち直った、と言っていいかな。あぁ、俺は母に愛されていた子なんだ、そういう形で愛されていたんだということが分かって、とめどなく涙が溢れてきました。

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(本記事は『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』より一部を抜粋・編集したものです)

◇西村滋(にしむら・しげる)
1925年名古屋市生まれ。6歳で母と、9歳で父と死別し、以後放浪生活をする。1952年、処女作『青春廃業』を発表。『雨にも負けて風にも負けて』で第2回日本ノンフィクション賞、『母恋い放浪記』で第7回路傍の石文学賞を受賞。

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