2026年02月03日
令和8年(2026年)、昭和元年(1926年)から起算して満100年を迎えます。その節目を祝して、高度経済成長期を牽引した昭和の名経営者たちの考え方や生き様を、松下政経塾現役塾生の加藤みづなさんに語っていただく本連載。初回は、松下電器産業(現パナソニック)を一代で築いた〝経営の神様〟松下幸之助について伺いました。
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「すべての人に天分がある」
このシリーズは、昭和100周年を記念し、高度経済成長期を牽引した昭和の名経営者たちの考え方や生き様を、次世代を担う若者に発信し、未来への希望と共に心を燃やしてもらうための企画である。
記念すべき第一回目は、「経営の神様」と呼ばれた伝説の経営者、パナソニック(旧:松下電器産業)創業者 松下幸之助を取り上げる。
松下幸之助が「経営の神様」と称された理由は、単なる企業規模や業績の大きさにとどまらない。彼は経営者であると同時に、哲学者であり、教育者であり、著作家でもあった。彼の人生観や仕事観を綴った著書は50冊以上にのぼり、中でも『道をひらく』は累計500万部を超える大ベストセラーとして、今なお多くの人々の心を打ち続けている。
いわゆる「成功者」として語られる松下幸之助。
しかし、彼は決して恵まれた環境で育った人物ではなかった。
1.「ないない尽くし」が成功の鍵
松下幸之助は1894年(明治27年)、和歌山県に生まれ、裕福な旧家の末っ子として育った。しかし、父が米相場に失敗してから家計が傾き、10歳を迎える前に尋常小学校を中退して丁稚奉公に出ることになる。そのため最終学歴は「小卒」であり、生まれつき体も弱かった。
しかし、松下はそれを「自分は運が強い」と考えた。
「貧しかったから、必死に働くことができた。
学歴がなかったから、商売で出会うすべての人、すべての出来事から学ぼうと思えた。
体が弱かったから、無理をせず人に任せることができ、その結果、人を育てることができた。」
どんな逆境も肯定的に受け止め、それを力に変えていく。その姿勢こそが、松下幸之助の大きな特徴であった。
2. 「企業は公器である」という考え方
松下幸之助の経営観を語る上で欠かせないのが、「企業は公器である」という考え方である。
「事業経営というものは、本質的には私のことではなく公事であり、企業は社会の公器なのである。その仕事なり事業の内容というものは、すべて社会につながっているのであり、公のものなのである。だから、例え個人企業であろうと、その企業のあり方については、私の立場、私の都合でものごとを考えてはいけない。」
利益の追求だけでなく、社会全体の幸福を心から考える。この高い公益意識こそが、松下幸之助の経営の根幹であった。
さらに、その高い公益意識は、戦後の荒廃した社会への強い問題意識へとつながり、「繁栄による平和と幸福」の実現を掲げたPHP研究所を設立した。講演が得意ではなかったにもかかわらず、年間200回を超える講演活動を行ったというのだから、彼の使命感の強さは計り知れない。
さらに晩年には、私財70億円を投じて未来のリーダーを育成するため、松下政経塾を創設した。同塾から2人の内閣総理大臣が輩出されたことを思えば、天国の松下もさぞかし喜んでいることだろう。
3. 「すべての人に天分がある」
最後に松下幸之助の人間観についても触れておきたい。彼は「すべての人には天分がある」と考えた。天分とは、天から与えられたその人の固有の持ち味や特性のことを指す。それは天から分け与えられているため、自分で選べる類のものではない。ある人には音楽家や画家といった芸術の天分が、またある人には経営者としての天分が、さらに人によって政治家、技術者、教師、医者等の天分が、運命として与えられていると言うのだ。
この考え方を端的に表した有名な一節がある。
「鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス」
「鳴かぬなら 鳴かせてみよう ホトトギス」
「鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス」
戦国武将の性格を表したこの句に対して、松下幸之助はこう語った。
「鳴かぬなら それもなおよし ホトトギス」
与えられた天分を受け入れ、それを生かしていく。この人間観こそが、多くの人材を育て、松下電器を支える大きな力となっていったのである。
今回は、「経営の神様」と呼ばれ、多くの経営者が手本とした松下幸之助の哲学に触れた。彼は単なる成功者ではなく、あらゆる出来事を肯定的に受け止め、世のため人のために生き、人間の可能性を信じ続けた人物であった。
晩年、日本の未来を憂うあまり夜も眠れない日があったという松下幸之助。波瀾万丈の人生の中で掴んだ真理は、時代を超えて色褪せることのない、無形の財産である。本稿をきっかけに、ぜひ松下幸之助の哲学に触れ、その深みを味わってもらえたら幸いである。
パナソニックミュージアム 松下幸之助歴史館編『松下幸之助歴史館』凸版印刷株式会社,2019年3月7日,14頁。
松下幸之助『実践経営哲学』PHP研究所,2001年(PHP文庫),「使命を正しく認識すること」,384–384頁。
PHP研究所「天分に生きるところに幸福がある ― 松下幸之助の目指した幸せのかたち」,PHP研究所公式ホームページ,参照。
◇加藤みづな(かとう・みづな)
松下政経塾現役塾生(第44期)。企業家殿堂推進委員会 若手代表。愛知県春日井市生まれ。大阪大学外国語学部卒業。2023年、松下政経塾第44期生として入塾。「経済性と幸福を両立させる新日本的経営の探求と若手起業家の育成」をテーマに研究活動を行っている。株式会社PHP研究所普及推進部での活動や、パナソニック組織・人材開発センターにおける幹部研修担当・研修開発業務を通じて、松下幸之助哲学を実体験として学ぶ。偉大な企業家たちの理念・哲学・生き様に強い感銘を受け、その精神を次世代へ継承すべく「企業家殿堂推進委員会」を立ち上げ、若者への発信活動に尽力している。
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