【第14回】佐藤勝人 快刀乱麻を断つ 仕事と人生に役立つ実践的問答 ——「二次情報が、経営者の目を曇らせる」

栃木県内に商圏を絞り、「地域一番化戦略」で圧倒的シェアを誇るサトーカメラ。同社副社長の佐藤勝人さんはビジネス書作家として12作目を出し、商業経営コンサルタント、Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」と情報発信を含め、全国各地の商工会議所で講演やセミナー、さらに企業や商店の現場へ出向いて個別支援をし、経営者育成塾「勝人塾」も主宰されています。

本連載ではそんな佐藤さんに、現代ビジネスマンから寄せられた悩みや胸の内の葛藤、さらには社会情勢までも「勝人節」でズバッと答えていただきます。

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真実は、一次情報の中にしか宿らない

経営者のもとに届く情報の大半は、二次情報である。専務、部長、店長を経由して上がってくる報告は、たとえ悪意がなくとも、その過程で必ず「編集」される。そこには、報告する側の感情、立場、忖度、期待が、無意識のうちに混ざり込む。その結果、経営者は「事実」は数字で把握できても、「真実」からは次第に遠ざかってしまう。

以前、とある支援先での出来事が、私にそのことを改めて教えてくれた。そして同時に、これは特定の会社の問題ではなく、どこにでも起きている構造だと痛感した。

ある日、Aという商品が「1日で100個売れた」という報告が上がってきた。社長は大いに喜び、会議室は朝から明るい空気に包まれた。すると部長が言う。「社長が選ばれた商品だからですよ。さすがです」。

人情としてそう言いたくなる気持ちは、私にもよく分かる。だが私は、コンサルタントとして、その事実を自分の足で確かめに行った。普段着のまま、メモも取らず、トイレ休憩のついでのように売場に立ち寄り、品出し中のパートさんに、作業の邪魔にならない程度に声をかけた。

「これが、1日で100個売れた商品ですか。すごいですね。どうして売れたんですか?」。すると彼女は、少し申し訳なさそうに笑いながらこう言った。「違うのよ。お昼までに10個くらいしか売れてなくて、ヤバいと思って友達に電話して買いに来てもらったの。社長には言わないでくださいね」。これが、現場の真実だった。
この話が店長の耳に入っていたかどうかは分からない。だが、仮に入っていたとしても、それが上に報告されることはないだろう。店長も薄々気づいていながら、あえて触れない。結果として、社長は「100個」という数字だけを見て、成功と判断する。

別のケースもあった。同じく100個売れた日、現場ではこんな声を聞いた。「夕方4時で売り切れたのよ。在庫があれば、120個はいけたのにね」。しかし、店長が報告したのは「100個達成という快挙」と「商品を選定いただいた社長に感謝します。それと現場のみんなのおかげです」という言葉だった。

機会損失という真実は、誰にも手当てされることなく、静かに消えていった。店長に悪気はない。単に自分も嬉しかっただけなのだ。ここに、組織の怖さがある。そして、同時に人間の姿がある。

人は、叱られることよりも、期待を裏切ることを恐れる。責められることよりも、場の空気を壊すことを避ける。そのやさしさが、結果として真実を遠ざけてしまうことがある。 もっとも、経営者自身が現場に頻繁に足を運べばよい、という話ではない。経営者が現場に出向けば、そこにあるのは往々にして「茶番劇」になる。事前予告、大名行列、その日のために完璧に整えられた現場。それでは真実が隠れてしまう。

だから私は思う。経営とは、判断の技術ではなく、省察の営みであると。「数字を見る前に、自分を見る」「成果を問う前に、過程を省みる」「語られた言葉より、語られなかった沈黙に耳を澄ます」。その姿勢がなければ、人は育たない。組織もまた、育たない。

現場を知るとは、情報を集めることではない。人の立場に立ち、人の心の揺れを感じ取ろうとすることだ。顧客の目線、現場で働く人の目線、管理する側の葛藤、経営者としての責任。それらを行き来できるかどうかは、人としての修養にかかっている。事実は、誰でも語れる。真実は、自らを省みる者にしか見えない。人を見る力を失った時、人は道を誤る。組織もまた、静かに崩れていく。だからこそ経営とは「数字を見る技術」ではなく、「人と現実を省察し続ける修養の道」なのだと、私は思う。Going my way.


◇佐藤勝人(さとう・かつひと)
サトーカメラ代表取締役副社長。日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント。想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント。作新学院大学客員教授。宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師。商業経営者育成「勝人塾」塾長。(公式サイト)
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に『地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法』(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。 

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