圧倒的な「量」と圧倒的な「質」──世界一を掴む土台となった心がけ〈元女子レスリング選手・登坂絵莉〉


2022年に現役を退くまで、全日本選手権・世界選手権・オリンピックをそれぞれ制覇し、無類の強さを誇ってきた元女子レスリング選手の登坂絵莉氏。そんな華々しい経歴の裏には、幾度もの挫折、血の滲むような努力がありました。本記事では、その一つであり、のちに世界一を掴む土台となった大学生時代について語っていただきました。
(本記事は月刊『致知』2025年7月号 連載:第一線で活躍する女性「人生は一日一日の積み重ね」より一部抜粋・編集したものです)

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夢が目標に変わった日

〈登坂〉
2、3年時には全国高校女子選手権で2連覇をするほど力をつけましたが、高校でレスリングを辞めるという考えは変わりませんでした。

ところが進路選択を控えた3年時のある日、担当教諭を通じて私の意思を知った父から1通のメールが届きました。

「進路は絵莉の好きなようにしてください。怪我に注意して、毎日誰よりも努力して絵莉が一番をとれる日を願っています」と書かれていました。

矛盾していますよね。好きにしていいと言いながら、一番を願っている(笑)。それを目にした時に、これまでの日々が思い起こされたんです。「この選手と練習したい」と言ったら、いつでも連れて行ってくれた父。交通費や宿泊費が高いので、当時はどこへ行くにも車を走らせて、夜は車内で寝ていました。

そういういろんな光景が甦ってきて、これはまだ辞められないなと思い直し、大学進学を決めました。

──大学では全日本選手権で見事4連覇を果たしましたね。

〈登坂〉
本当に運がよかったというか、大学に入って最初に行われた6月の全日本選手権が、10月の世界選手権の代表選考となりました。しかし、当時日本で1番目、2番目に強かった選手が欠場となる偶然が重なって、世界選手権代表に選ばれたのです。

さらに、世界選手権でもミラクルが起きました。格上の選手5人が全員、トーナメントの反対ブロックにいたお陰で準優勝することができたのです。決勝ではさすがに負けてしまいましたが、この試合が選手生活において大きな分岐点となりました。

敗れはしたものの、終了間際の逆転負けで内容的には互角の戦いでした。力の差が歴然だと思っていた相手とそれほど差がないことに気がついて、「死ぬ気で取り組んだら世界チャンピオンになれる」という確信を得ました。ずれていたカメラのピントがパチッと合って、世界一という夢が目標に変わりましたね。

それからは世界一だけを目指して、狂ったようにレスリング漬けの日々を送りました。

──具体的にどのような意識の変化がありましたか。

〈登坂〉
トレーニングへの向き合い方が変わりましたね。7時の朝練開始前に、6時過ぎから1人で練習を始め、授業の合間にも学外で個人トレーニング。その後部活に参加し、部活後も自主練をして、門限の22時寸前に寮舎に滑り込む。休日も返上して練習をするという生活を繰り返しました。

腕立て伏せ一つとっても、30度しか曲げずにやる人もいますが、床に顎をつけるところまで曲げ切る。試合に負けたら必ず振り返りを行い、悔しさが残っているその日のうちに反省点を補うトレーニングを行う。考えてみると、4年間のうち、私服で大学に行ったことが一度しかなかったんです。週に一度オフはありましたが、私だけ練習着です。それくらいレスリングしか頭にありませんでした。

よく「質より量」とか「量より質」と言いますが、私は両方だと思います。事を成すには、とにかく圧倒的な量と圧倒的な質が必要だというのが実感です。

──量と質共に他を圧倒する練習を積み重ねられたのですね。

〈登坂〉
やはり世界選手権決勝での敗戦がスイッチを入れてくれたと思います。とはいえ、時間と共に悔しさを忘れてしまうのが人間ですよね。だから私はあの悔しさを絶対忘れないように、決勝で勝負が決まった時に相手選手が拳を突き上げて喜んでいる写真を携帯電話の待ち受け画面にしていました。とにかく、あの光景が常に目に入ってくる状況をつくったんです。

毎朝起きて画面を見る度に本当に気分が悪くなりますよ。でもそのお陰で「練習したくないな」と思う日も、これを見ると、絶対に行かなきゃいけないという闘志が湧き上がってくる。たとえ調子がよくない日も、その日に持ち得る100%を出し切ることを意識して一日一日を積み重ねていきました。


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◇勝敗以上に成長する喜びを
◇日本一から一転して挫折を味わう
◇夢が目標に変わった日
◇残り13秒からの逆転劇で金メダルを掴む
◇人生で大切なのは一日一日の積み重ね

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◇登坂絵莉(とうさか・えり)
平成5年富山県生まれ。8歳でレスリングを始め、中学3年時に全国中学生選手権で優勝。21年愛知県の強豪・至学館高校に入学し、2年、3年時に全国高校女子選手権を2連覇。24年に至学館大学へ進学。同年から27年まで全日本選手権で4連覇、うち25年、26年は世界選手権で2連覇を果たす。28年初出場となったリオデジャネイロ五輪で優勝。その後は怪我に苦しみながらも現役を続け、令和4年引退を発表。5年一般社団法人「スマイルコンパス」を設立し、子供たちにスポーツの楽しさを伝えている。

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