2025年12月14日
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
〝モンスター〟井上尚弥選手をはじめ、これまで5人の世界王者を輩出してきた大橋ボクシングジム。日本ボクシング界きっての名門ジムを率いるのは、会長の大橋秀行氏です。現役時代は「150年に1人の逸材」と呼ばれるほどの名ボクサーであった大橋氏ですが、大事な試合に限って、負けることが多かったと言います。負ける原因はどこにあったのか。ご自身の体験談も踏まえ、語っていただきました。対談のお相手は、大橋ジム所属で前WBO世界バンタム級王者の武居由樹氏です。
(本記事は『致知』2025年9月号 対談「どん底から2つの世界一へ」より一部を抜粋・編集したものです)
1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください
負けた原因は周囲ではなく、自分にある
<武居>
古川会長が捜しに来てくれたことや怖い母親のいる自宅に帰らなくてよくなったのは嬉しかったんですけど、その時もまだ格闘技は嫌々やっていました。中学高校とやらされ感覚のままで、大学でアマチュアを続けるか、K-1クラッシュというK-1の下部組織のプロでやっていくか、進路の選択を迫られたんです。
住み込みで兄弟みたいに一緒に練習してきたジムの後輩が先にプロデビューして、すごく華やかに見えたんですよね。何となく格好いいなと思って、軽い気持ちで選んだのが正直なところでした。
<大橋>
プロデビューしたのが2014年11月、18歳の時だね。
<武居>
デビュー戦こそKO勝ちをしたものの、その後2連敗してしまって。自分には向いていないのかなと思って、引退を考えたこともありました。ただ一方で、悔しい気持ちもあったのと、ここまで育ててもらった古川会長に「辞めます」とは言い出せなくて、流されながらやっていたんです。
<大橋>
いま2連敗という話が出ましたけど、私は現役時代、ここぞという時に限って負けてしまうことが多かったんです。
高校2年でインターハイ優勝したのに、連覇がかかった3年は勝てなかったし、大学の時もいつも勝っている相手にオリンピック最終選考会で負けて代表になれなかった。プロでもこの試合に勝てば世界戦っていう時に負けてしまう。
やっぱり負けた時、いかに練習に取り組むかが勝負所なんです。負けるとショックだし悔しいじゃないですか。でも、負けを原動力や肥やしにできるか、いじけてダメになっちゃうか。この心の持ち方でその後の展開は全然違ってきます。負けた時こそ大事です。
<武居>
負けた時にその人の真価が問われる。
<大橋>
あの井上だってプロ30戦無敗で、何の負けもなく来ていると思われるじゃないですか。でも実は原点に屈辱の敗北があって、高校1年のインターハイで優勝したにも拘らず、2年の時に負けているんですよ。で、それを跳躍台にして3年でまた優勝した。武居もやっぱりK-1時代のその二連敗が糧になっていると思います。
思い返すと、私が大事な試合で負けていた時は天狗になっていた。監督やジムの会長に対して不平不満を言って、人のせいにしていたんです。
油断大敵ならぬ不満大敵。
ここが問題だと気づいてからは、負けた原因は周囲ではなく、自分にある。周りに感謝を持って接する。苦手な人や嫌いな人を、嘘でもいいから好きになる。そうすると本当に好きになって、結果も爆上がりしていきました。
<武居>
いま会長が言ったように、僕が中途半端な状態からこの道で生きると覚悟を決めたのは、周りへの感謝だったかなと思います。2連敗した後、階級を1つ下げたらまた勝てるようになり、2016年6月、19歳の時にクラッシュのトーナメントで優勝し、チャンピオンベルトを獲得したんです。
(本記事は『致知』2025年9月号 対談「どん底から2つの世界一へ」より一部を抜粋・編集したものです)
↓ 対談内容はこちら!
◆2度目の王座防衛は自分の心との闘いだった
◆ギリギリの状況で勝ち切れた2つの要因
◆世界チャンピオンが欠かさない日々の習慣
◆単親家庭、育児放棄、虐待……育ての父との運命的な出逢い
◆負けた時にどう練習に取り組むかが勝負所
◆心を入れ替え20歳でK-1世界チャンピオンに
◆大橋ジムの修学旅行で知覧を訪れる理由
◆親即恩――産んでくれただけで感謝
◆ボクシング転向の機縁になった大橋会長との邂逅
◆世界戦初勝利を掴んだ知られざる感動の舞台裏
◆井上尚弥選手が最強たる所以ここにあり
◆世界のトップに立つ条件~才能よりも心の持ち方~
◆人生とは決断と挑戦の連続である
◇大橋秀行(おおはし・ひでゆき)
昭和40年神奈川県生まれ。小学生の時、兄からボクシングの手ほどきを受け、中学生からジムに通う。高校時代にアマチュアの全日本タイトルを獲得。大学時代、ロサンゼルス五輪の代表選考試合に決勝で敗れ、プロに転向。アマ通算44勝(27KO)3敗。60年プロデビュー。その後世界タイトルに2度挑戦するも敗退。平成2年3度目の挑戦で世界チャンピオンとなり、日本人の世界挑戦連続失敗を21で止めた。6年引退。プロ戦績は24戦19勝(12KO)5敗。同年大橋ボクシングジムを開設。これまで輩出した世界チャンピオンは最多タイとなる5人に及ぶ。
◇武居由樹(たけい・よしき)
平成8年東京都足立区生まれ。10歳でキックボクシングを始め、足立東高校時代はボクシング部でも活躍。26年11月にKrushでキックボクシングデビューし、29年4月に第2代K-1 WORLD GPスーパーバンタム級王座を獲得。23勝(16KO)2敗の戦績を残し、令和2年12月に王座返上とボクシング転向を発表。3年3月のデビュー戦を1回TKO勝利で飾る。6年5月6日、WBO世界バンタム級王者ジェーソン・モロニーに3-0で判定勝ちし、日本ボクシングコミッション公認の日本ジム所属100人目の世界王者となる。ここまでの戦績は11戦11勝(9KO)。
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください











