2025年10月16日
~本記事は月刊誌『致知』2025年11月号 特集「名を成すは毎に窮苦の日にあり」に掲載の対談(名将の哲学)の取材手記です~
日本一17回&10回はかくして生まれた
高校女子サッカー界と高校男子バスケ界でその名を轟かせる名門校があります。
これまで高校女子サッカー界では全国最多となる17回の日本一に輝き、鮫島彩選手、田中明日菜選手、熊谷紗希選手をはじめとしたなでしこジャパンのメンバーを多数輩出してきた常盤木学園高校サッカー部。
世界最高のプロバスケットボールリーグNBAでめざましい活躍を見せている河村勇輝選手の母校として知られ、通算10回の頂に立つ福岡第一高校男子バスケットボール部。
それぞれのチームを創部から率いる阿部由晴さんと井手口孝さんは、部員が僅か数人の頃から「日本一」を掲げて一所懸命選手に向き合い、常勝軍団を築き上げました。
名将が初めて語り合う、窮苦の日々を乗り越えてきた足跡、そこから見えてくる勝利に導く指導者の条件とは――。
月刊『致知』最新号(2025年11月号)特集「名を成すは毎に窮苦の日にあり」では、阿部由晴さんと井手口孝さんの対談記事が掲載されています。対談のタイトルは「名将の哲学」です。
ご縁に紡がれて
企画の発端は今年2月、井手口さんが監督を務める福岡第一高校男子バスケットボール部の練習場に赴いたことがきっかけです。
井手口さんとのご縁は遡ること2年前、『致知』2023年4月号 特集「人生の四季をどう生きるか」のインタビュー欄でご登場いただきました。「私たちはまだまだ無印ですから」と、いまなお謙虚な姿勢で学び続ける井手口さんのお人柄にすっかり心を打たれました。ただ、当時はあいにくのコロナ禍でオンラインでの取材となり、直接お目にかかることはできませんでした。
かねて『致知』をご愛読くださっていたこともあり、いつか直接ご挨拶をしたい。その思いを募らせていた折、福岡出張が決まり、念願のご挨拶が叶いました。
井手口さんは満面の笑みを浮かべながら、なおかつ礼儀正しく丁重に迎えてくださいました。練習中の忙しい中でも時間を割いてくださり、『致知』掲載時の反響や河村勇輝選手の活躍についてお話を伺うことができました。そこで『致知』との出逢いについても尋ねたところ、常盤木学園サッカー部監督の阿部さんがきっかけだと知ったのです。
阿部さんは2014年6月号 特集「長の一念」のインタビュー欄にご登場いただき、10年以上にわたる弊誌の愛読者でもあります。
ゼロから日本一の常勝軍団へと育て上げてきた名将が語り合う人間学談義に、ぜひ耳を傾けたい。そう思い至り、本対談が実現する運びとなりました。
対談取材は9月上旬、致知出版社にて行われました。取材時間は2時間に及び、その内容を凝縮して誌面9ページの記事にまとめました。
↓対談内容はこちら!
◇言葉の持つ力 『致知』は聖書のようなもの
◇心の扉を開くにはとことん付き合うこと
◇出逢いによって導かれた指導者への道
◇強い人間というのは我慢のできる人間
◇心の支えとなった名伯楽の言葉
◇監督は観察者でなくてはならない
◇常勝チームの秘訣は当たり前を積み重ねること
◇苦難は神様が与えてくれた試練
◇負けを知っているから強くなれる
◇ピンチはチャンス 失敗は必然
毎月『致知』を学ぶ意義
先ほどもお伝えした通り、阿部さんと井手口さんは共に『致知』の愛読者です。お二人は『致知』の学びをどのように活かしてこられたのでしょうか。『致知』の魅力について語り合っていただいた記事の冒頭部分をご紹介します。
〈阿部〉
私も『致知』を10年以上愛読しています。日課として毎日感動したことを3つ書き残しているのですが、ノートには『致知』の言葉がびっしりですよ。
苦しい時だったり、嬉しい時だったり、自分の感情によってキャッチする言葉って全く違うじゃないですか。だから「その時その時の杖言葉」というように、いまの自分が感動した言葉を引き抜き、選手たちに発信しています。まだまだ自分自身の修業が足りないので、空回りしてばかりですけど。
〈井手口〉
阿部先生に修業が足りないと言われると、僕が喋ることはなくなってしまう(笑)。
僕は毎朝体育教官室の掃除から一日を始めます。その時に机にある『稲盛和夫日めくりカレンダー』(致知出版社)をめくるんです。監督をしていると様々な問題が降りかかってきますけど、『致知』や稲盛先生の言葉に触れると心がすっと落ち着く。おかげさまで、以前よりも前向きな状態で子供たちの前に立てていると思います。
言葉の持つ力ですよね。僕にとって『致知』は『聖書』のような感覚で読ませていただいています。
〈阿部〉
常盤木学園サッカー部では11年前から『致知』を活用した勉強会「木鶏会」を行い、選手の人間力の成長を追求してきました。
残念ながら、大学をはじめとした日本全体の教育水準は低下していると言わざるを得ません。人間性を育む教育が欠けてしまえば、人生の荒波に呑まれてしまう。彼女たちが大人になった時、道に迷わないようにしてやるのが本来の教育の役割であり、毎月『致知』を学ぶ意義だと自覚しています。
編集者冥利に尽きる思いです。お二人の言葉をさらなる原動力に換え、仕事に邁進していく決意を新たにしました。
失敗や挫折をどう受け止めるか
お二人の共通点は、『致知』の愛読者であることや実績だけでなく、部員が僅か数人しかいない創部時代を経て、常勝軍団を築き上げてきたということです。そんなお二人が対談の中で口を揃えていたのが、失敗や挫折を受け止め、前進し続ける重要性です。
例えば、阿部さんは創部7年目となる2002年の高校女子サッカー選手権で初優勝を掴んだものの、その後4年間は準優勝に甘んじました。指導者としての自分の無力さを痛いほど思い知らされたと語る阿部さんですが、挫折と向き合う中で新たな境地に辿り着いたといいます。
〈阿部〉
次第にこの苦難は神様が与えてくれた試練だと思うようになったんです。
神様が授けてくれた価値なのだから、逆らってはいけない。どうしようもない現実を受け入れようと覚悟を決め、サッカーの戦略のみならず、人となりを突き詰めていったんです。
苦難は神様が与えてくれた試練と受け止めた阿部さんは、いかにして延べ17回の全国制覇へと導かれたのでしょうか。その全貌は本対談で余すところなく紹介されています。
一方の井手口さんは学生の頃から指導者を志し、大学時代は女子高の学生コーチを経験。大学卒業後は地元福岡が誇る名門校・中村学園女子高校に赴任します。ところが、学校側の事情で最初の2年間は違う運動部の顧問を務めざるを得ませんでした。
大好きなバスケに携わることができなかった2年間たるや、いかばかりであったか。断腸の思いであったことは想像に難くありません。それでも、井手口さんは当時を振り返り、次のように述懐されています。
〈井手口〉
バスケに関われなかった時期は自暴自棄に陥りましたけど、そこで逃げずに踏ん張った経験が後の人生の糧になった。いまは主力の怪我や敗北などの窮苦が降りかかってきたとしても、「これは神様が与えてくれた試練だから、きっとチームは前進する」と受け止められるようになってきました。
思い通りにならない現実から逃げずに立ち向かう。後にゼロから福岡第一高校男子バスケットボール部を立ち上げ、10回の日本一に導くことができたのも、もがき苦しみながらも一所懸命目の前の現実に立ち向かった経験があったからでしょう。
最後に、お二人のお話の中でとりわけ心に響いた言葉を紹介します。
〈阿部〉
試練に直面した時こそ、日々真摯に努力し、人としての器を磨き高めること。
そうすれば、たとえ日本一を掴むことができなくても、選手のその後の人生に必ず生きてくる
〈井手口〉
ピンチはチャンス。失敗は必ずしも失敗ではなく、必然なのかもしれない。
大事なのは、決して諦めないこと。そして失敗を恐れずに思い切って行動することが、人生の突破口になる
阿部さんと井手口さんが窮苦を乗り越える過程で掴んだ「勝利に導く指導者の条件」には、スポーツに留まらず組織を率いる優れた指導者の秘訣が満載です。ぜひ本誌の対談記事をお読みください。
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