【取材手記】純国産OS「トロン」開発者・坂村健氏と月尾嘉男氏が語り合う、日本復活の処方箋

~本記事は月刊誌『致知』2025年2月号 特集「2050年の日本を考える」に掲載の対談(「日本の技術に未来はあるか」)の取材手記です~

世界に認められた純国産OSトロン

皆さんは、世界の産業機械を動かす上で欠かせない組み込み型OS(オペレーションシステム)「トロン」をご存じでしょうか。トロンは世界シェア6割を誇り、小惑星探査機「はやぶさ」やH2Aロケット、自動車のエンジン制御、プリンタやカーナビ、スマートフォンなどに組み込まれ、様々な重要な働きをしており、いまや私たちの生活とは切っても切れない存在になっています。
 
そのトロンを開発したのが、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所所長の坂村健さんです。‶純国産OS〟であるトロンは、2023年と2024年の2年連続で、電気・情報工学分野における世界最大の学術研究団体であるIEEE(米国電気電子学会)より、「IEEEマイルストーン」に認定されるという快挙を成し遂げました。

IEEEマイルストーンは、電気・電子分野の画期的なイノベーションの中でも、特に技術公開から少なくとも25年以上経過し、社会や産業に大きな貢献を果たした技術に対して、その歴史的業績を認定する権威ある制度です。日本発のトロンが、世界で認められたのです。

『致知』2025年2月号「2050年の日本を考える」では、坂村健さんと共に、科学技術をはじめ幅広い分野に深い知見を持つ東京大学名誉教授の月尾嘉男さんに、現代日本が抱える様々な問題点とその解決策、日本を再び豊かな国にするための要諦を縦横に語り合っていただきました。

お二人の知性は、いったい現在の日本をどのように分析し、どのような解決策を提示されるのでしょうか。2050年の日本、技術の未来を考える上で知的刺激に溢れた必読の対談です。

利他の精神が道を開く

対談取材は2024年12月3日に都内ホテルにて開催されました。お二人が東京大学教授時代の先輩・後輩の間柄だという情報を得て取材依頼、今回の対談が実現しました。最先端技術に知見を持つ、冷静なイメージのあるお二人ですが、実際の対談は、終始、冗談や笑いが絶えないとても和やかで熱を帯びた雰囲気で進行していきました。

しかし、対談が進むにつれて、その自由闊達な、オープンな雰囲気にこそ、これまで誰も考えもしなかったアイデアを生む秘訣があることが次第に明らかになっていきます。

坂村さんは、トロンの開発・普及がうまくいった大きな要因として、開発した技術を特許などでクローズにせず、ソースコードも含めてすべてオープンにしたことを挙げています。技術をオープンにしたことにより、いろいろな方の協力やアドバイスを得ることができ、多くの人に利用され、トロンが世界に広がっていく原動力となったのです。

普通は、多くの人が自分の技術を囲い込み、そこからできる限りの利益を得ようとするものです。ところが、坂村さんは自分の利益よりも、技術によって世界をよいものにしようという利他の精神で開発を進めていかれた。ここに坂村さんの素晴らしさ、成功の要諦があるように思います。坂村さんは次のように語っています。

〈坂村〉
誰かがつくった技術に、別の誰かが感化されて新しいものをつくり、それがさらに広がり発展していくというように、誰に対してもオープンであることがその技術を発展普及させ、世界をよりよいものにしていく原動力になると私は信じているのです。

日本の大学も企業も技術も、もっと外にオープンになっていかなければ、世界の変化にはとても追いついていけないと思います。


日本は既に一流国ではない

一方、月尾さんは、トロンの存在は日本の希望であると称賛しつつ、様々なデータを駆使して、現在の日本は非常に危機的な状況にあると警鐘を鳴らします。最も衝撃的だったのは、スイスのIMD(国際経営開発研究所)が多数の指数を総合して算出している客観性の高い世界競争力ランキングの推移です。
 
1990年代、日本は3年連続世界1位でしたが、その後、急速に順位が下がっていき、2024年には38位と過去最低を記録しました。ちなみに、隣国の中国は14位、韓国は20位ですから、かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた日本の凋落ぶりが非常によく伝わってくるデータです。
 
月尾さんは、凋落を食い止め、日本が再び豊かな国になっていくためには、まず一人ひとりが「既に日本は世界の一流国ではない」という現実を直視し、ではどうすればいいのかを真剣に考えることが重要だと言います。そして日本は、先人たちが明治維新や奇跡の戦後復興を果たしたように、いまこそ「第三の開国」を断行して、全く新しい国づくりを行うべきだと説きます。

〈月尾〉
……いまの日本は世界に対して国を開いていく〝第三の開国〟が必要です。なぜ第三の開国かというと、日本は西洋列強の脅威に対抗するため明治維新を行い、鎖国から開国へと大転換し、近代国家として生まれ変わりました。

その後、発展し過ぎたために最終的にはアメリカと衝突し、1945年に敗戦を迎えますが、そこからソニー、ホンダなどの企業が出てきて一から日本経済をつくり直し、世界の経済大国にまで発展を遂げました。明治維新から敗戦まで約80年、奇しくも2025年は敗戦からちょうど80年の節目です。

幕末、敗戦時と同じくらいの国家存亡の機にある日本は、この80年周期を機に、全く新しい国づくりに取り組むべきだと私は考えています。


日本は具体的にどのような‶第三の開国〟を行っていけばよいのでしょうか。本対談記事では、坂村さんと月尾さんに縦横に語り合っていただいています。日本がなぜこんなにも凋落してきたのか、いま何が最大の問題でなり、何をすべきなのか、その確かな道筋がお二人の議論から見えてくることでしょう。

ぜひ本誌をご覧ください。

↓ 対談内容はこちら!
◇気心知れた先輩・後輩の間柄
◇世界が認めた国産OS「トロン」
◇時代を先取りしたトロン電脳住宅
◇日本は80年周期の第三の開国の時にある
◇「勉強する場」大学の使命を取り戻す
◇ブレークスルーが生まれる土壌をつくる
◇トロンの成功が教えてくれること
◇壁にぶつかっても諦めずに努力し続ける
◇一人ひとりの考える力、行動が日本の未来を創る

▼『致知』2025年2月号 特集「2050年の日本を考える」
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