一個の餃子に一個の魂——「餃子の王将」社長・渡邊直人が語る人間にとって一番大切なもの

全国に730店舗以上を構える中華料理チェーン「餃子の王将」。2013年、先代の急逝を受け同社の舵を取り、様々な経営改革を打ち出すことで過去最高の売上高へと導いたのが渡邊直人氏です。氏はどのような思いで経営に臨んできたのでしょうか。2016年に弊誌で実現したアサヒビール社友・福地茂雄氏との対談から、社長就任時のエピソード、リーダーとしての要諦をご紹介します。
(本記事は月刊『致知』2016年3月号特集「願いに生きる」より一部抜粋・編集したものです)

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目に見えない思いやりこそ一番大事

〈渡邊〉
やはり大きかったのは、不慮の事件を受けて突然自分が社長になったことです。

先ほども申し上げたように、当初はもう逃げ出したいくらいの重圧に見舞われていましたけれども、翌日真っ先に会社まで来てくださったのが、アサヒビールさんでした。

まだ事件の全容も十分掴めていなくて、リスクがあるかもしれない現場に、いまの小路明善社長が役員の方とともにお越しくださって、「アサヒビールはどんなことがあっても御社をお支えしますから、渡邊社長、頑張ってください」と言ってくださったんです。

小路社長のお言葉からは、商売上の取り引きを超えた、人としての温かみが伝わってきました。私はあの言葉を一生忘れません。

勇気を与えていただいた出来事は、そればかりではありませんでした。

事件の直後から、お客様がどんどんどんどん、お店に押し寄せてこられて、大東への線香代わりにうちの餃子を次々と注文してくださったんです。お店に行けばスタッフが「ありがとうございます」「ありがとうございます」と感謝の言葉を繰り返しながら、一所懸命餃子をつくってお出ししている。

「追悼餃子」と報道されて大きな話題になりましたけれども、おかげさまでその期は過去最高(当時)の762億円を売り上げることができました。王将はこんなにも多くのお客様、そして従業員の皆さんに支えられて今日まで来られたんだなぁと改めて実感しましたねぇ。

今後の経営に不安を抱いていた私はあの時、店の大変な賑わいに感動を覚えながら、そうだ! と。お客様と従業員のためを思ってやったら間違いない。答えはここだと確信したんです。

福地さんから教わったゴールデン・トライアングルの真意が本当に理解できたのは、あの時でしたね。そしてその一角を占める投資家の皆さんもキチッと支えてくださったおかげで、株価は事件当日こそいったん下がったけれども、すぐに持ち直しました。

窮地に立たされた時に人の温かさによって救われたことで、人間には結局そういう目に見えない思いやり、愛情というものこそが一番大事だと実感しましたね。

「君たちは、いつも最高の餃子をお出ししているか?」

〈福地〉
実に感動的なご体験ですね。渡邊さんはそういうご体験を重ねながら、どういうリーダーを目指してこられましたか。

〈渡邊〉
まずビジョンを持つことが大事だと思います。皆がワクワク、ウキウキするようなビジョンです。夢、希望というふうにも言えると思いますが、リーダーはそれを達成していくためのストーリーをキチッと考えて、皆がやりたい、やって楽しいと思えるようにしていかなければなりません。

そしてそのための行動力も求められます。大東前社長から学んだのも、やっぱり行動力でした。

「口ばっかりで何もやっとらへんやないか、渡邊!」とよく叱られながら、
「理屈はナンボでも言える。大事なことは、それをどう実現するかや。行動しかあらへんがな」
「簡単なことでいい。その代わり誰もできんくらいに一所懸命、必死になってやるんや」
などとよく言われたものです。

あとは、部下をしっかり育てていくこともリーダーの重要な務めですね。私は従業員に、うちの餃子が最後の晩餐になった話をよくするんです。

〈福地〉
ぜひ聞かせてください。

〈渡邊〉
王将の餃子が大好きだったあるお客様が、末期のがんで病床に伏せってしまいましてね。お母様が、何か食べたいものがあるかと聞いたら、王将の餃子を食べたいと。すぐにうちの店から買ってきたけれども、衰弱し切って体も動かせないので、お母さんが抱きかかえて餃子を口に運んであげたら、むしゃむしゃと噛んでゴクンと飲み込んだ。

「美味しいか?」と聞いたら、息子さんは両目からツーッと涙を流して逝ってしまわれた。うちの餃子が人生最後の食べ物になったわけです。

私は店長会議でその話を引き合いに、「君たちは、いつも最高の餃子をお出ししているか?」と問うんです。焦げたり、生焼けだったり、そんなしょうもない餃子をお出しして、それがお客様の人生最後の食べ物になってしまってはならないんだと。

人生って長いようだけど、この一瞬一瞬は二度と戻ってこない。だから「一個の餃子に一個の魂」。一個一個を大切にしていかなければいけないんだと言い続けているんです。

〈福地〉
人生の最後に王将の餃子を食べたいと言ってくださるお客様がいらっしゃるというのは、本当にありがたいことですね。そういうお話を交えながら、社員さん一人ひとりに使命感を持たせて、能動的に働く組織をつくることは、社長の一番大事な仕事といえます。


(本記事は月刊『致知』2016年3月号特集「願いに生きる」より一部抜粋・編集したものです)

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時代を乗り越えて成長し続けるため、生きるための指針となる『致知』の更なる発展を心より祈念いたします。

◇ 渡邊直人(わたなべ・なおと)
昭和30年大阪府生まれ。54年桃山学院大学を卒業し、王将チェーン(現・王将フードサービス)のに入社。平成25年前社長の大東隆行氏の死去に伴い、社長に就任。

◇ 福地茂雄(ふくち・しげお)
昭和9年福岡県生まれ。32年長崎大学経済学部卒業後、アサヒビール入社。京都支店長、営業部長、取締役大阪支店長、常務、専務、副社長を経て平成11年社長に就任。14年会長。18年相談役。20年第19代日本放送協会会長(23年まで)。著書に『お客様満足を求めて』(毎日新聞社)。

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