侍ジャパン前監督・栗山英樹氏が語る、大谷翔平の勝利を手繰り寄せる「思考力」

昨年3月に開催されたWBC(ワールドベースボールクラシック)で、3大会ぶり3度目となる世界一に輝いた侍ジャパン。日本中に歓喜の渦を巻き起こす快挙の立役者となったのが、この度、大リーグ史上初 の50本塁打 50盗塁を達成した大谷翔平選手です。そんな大谷選手の勝利を手繰り寄せる思考力について、侍ジャパンを率いた名将・栗山英樹監督に語っていただきました。

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大谷翔平選手に見る「浩然の気」

〈横田〉
決勝戦の最後がトラウト選手との直接対決。あの場面をご覧になっている時の監督は、これで抑えてくれると微塵も疑いがなかったわけですか?

〈栗山〉
監督の仕事っていうのは、最悪の状況でも負けないようにすることです。3対2と1点リードで迎えた9回表、翔平をマウンドに上げた時、野手も2人交代して守備固めに入りました。

「もし同点にされていたらどうしたんですか」って、後で周りからも言われたんですけど、僕があそこでほんの一ミリでも同点になるとか負ける可能性を頭に描くと、その通りになってしまうと思ったんですよ。翔平の覚悟も感じていたので、あの采配は絶対にこのイニングで終わらせるというメッセージでもありました。

〈横田〉
両者ともメジャーリーグを代表する選手ですから、おそらく技術の差はほとんどないと思うんです。

でも、監督もお読みになっている『孟子』に、「浩然の気」という言葉が出てきますね。これは大河が滔々と流れていくような、この上なく強く大きく真っ直ぐな気のこと。大谷選手の浩然の気が相手バッターを圧倒していったんじゃないかと感じました。

それから、準決勝のメキシコ戦で9回裏に劇的な逆転勝利を呼んだのも、先頭で彼がヒットを打ち、ヘルメットを投げ捨てて全力疾走し、二塁まで到達してベンチに向かって叫びましたよね。あれで気の流れが変わって、こちらに引き寄せたと思うんです。

〈栗山〉
普通の選手はああいう追い込まれた状況に直面すると、プラスとマイナスのイメージがどちらも頭の中に浮かぶはずです。

ただ、翔平の場合、「もしダメだったら」というマイナス思考が浮かんでいるようには見えない。プラスになるんだって100%信じて行動する。
ちょっと無理かなと思うようなことを僕らが要求すると、彼はすごく嬉しそうな顔をしてやってくれます。

要するに、自分ができないと思われることにチャレンジすると、達成できてもできなくても自分のレベルが引き上がる、能力が高まるということを知っているんじゃないでしょうか。

〈横田〉
決してマイナスには捉えないわけですね。

〈栗山〉
はい。「ええ?」って否定的な態度を取ることは全くありません。「面白そうですね。行っちゃいますか!」みたいな雰囲気をいつも出しています。

〈横田〉
いやぁ反省ですね。私なんか致知出版社からこの対談の依頼が来た時、最初は「できません、できません……」って(笑)。

〈栗山〉
気を遣わせてしまって本当にすみませんでした(笑)。

〈横田〉
それと、準決勝のメキシコ戦で逆転サヨナラヒットを打った村上宗隆選手、それまで4打数ノーヒットじゃないですか。この時も打てないかもしれないとは微塵も思わないわけですか?

〈栗山〉
ノーアウト一、二塁でしたから、もちろん代打を出して送りバントをするという選択肢も並べました。最終的には、この考えがいいのか悪いのか分からないんですけど、もし仮に得点できなかったとしても、僕らもファンの皆さんも、どう負けたら納得するのかっていうことが頭にありました。

その時に、昨シーズン三冠王を獲得し、ジャパンの4番に指名した村上に懸けようと。彼を最後まで信じ切ることが一番だと思えたので、村上に「おまえが決めろ」というメッセージを込めて打席に送り出しました。まぁ本当によく打ってくれたなと思います。

〈横田〉
信じている思いは相手にも伝わるんでしょうね。私としてはあれが一番の感動シーンでした。


(本記事は月刊『致知』2023年10月号 特集「出逢いの人間学」より一部抜粋・編集したものです)

◉本記事では、「歴代最強ドリームチーム 誕生の舞台裏」「人間学の書物に傾倒していった機縁」「リーダーとして大切な 心懸けと自戒」等、侍ジャパンの悲願達成の舞台裏をはじめ、栗山氏自身の基礎を形作った人間学との出逢いからリーダーとしての心得まで、幅広く語っていただきました。栗山氏の歩みには、人間学が現実世界に与える影響を感じずにはいられません。本記事の【詳細・購読は下記バナーをクリック↓】

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◇栗山英樹(くりやま・ひでき)
昭和36年東京都生まれ。59年東京学芸大学卒業後、ヤクルトスワローズに入団。平成元年ゴールデン・グラブ賞受賞。翌年現役を引退し野球解説者として活動。16年白鷗大学助教授に就任。24年から北海道日本ハムファイターズ監督を務め、同年チームをリーグ優勝に導き、28年には日本一に導く。同年正力松太郎賞などを受賞。令和3年侍ジャパントップチーム監督に就任。5年3月第5回WBC優勝、3大会ぶり3度目の世界一に導く。同年5月監督退任。著書に『栗山ノート』『栗山ノート2』(共に光文社)など多数。

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