バレエの道一筋——吉田都さんが教える「コンプレックス」との向き合い方

世界三大バレエ団の一つ、英国ロイヤル・バレエ団にてアジア人女性初のプリンシパルに選ばれ、「ロイヤルの至宝」と称された吉田都さん。22歳から引退までの約30年、常にバレエ界のトップを走り続け、現在も新国立劇場武踊芸術監督としてご活躍されています。その吉田さんに20代の頃の努力の日々、体験から掴んだコンプレックスとの向き合い方を教えていただきました。(写真提供:Tamaki Yoshida)

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何度も何度も工夫を重ねる

〈吉田〉
厳しい指導の甲斐があり、中学三年次には全国バレエコンクールで一位を、17歳の時には若手バレエダンサーの登竜門と言われるローザンヌ国際バレエコンクールでローザンヌ賞をいただくことができました。

このローザンヌコンクールは全世界から100名以上のダンサーたちが集い鎬を削るため、大変刺激的でしたし、一般的なコンクールと異なりダンサーたちの将来性を見るため、演技だけではなくお稽古の段階から審査されるという特別なものでした。

後年、自分が審査員側に回って気がついたことですが、審査員の方々は、技術面以外を非常によく見ています。バレエ団に入ってから皆と協調性を持ってやっていけるか、先生の指導を素直に受け入れ、直そうと努力しているか。そうした性格、礼儀や挨拶など基本的なところも特に重視されていたのだと思います。

幸い私はローザンヌ賞と共にスカラシップをいただき、一年間、単身で英国ロイヤル・バレエスクールに留学することになりました。

英語も十分に話せない上に、いまほどネットで簡単にやり取りができなかったため、すぐにホームシックになりました。それでも、厳しいお稽古を乗り越えられた自信や一日中バレエ学校で踊れる喜びを心の支えに打ち込みました。

食事や生活などすべてがカルチャーショックで、最も驚いたのは欧米のダンサーたちの表現力の高さです。教育自体が異なるのでしょうが、日本では与えられた役を完璧に踊ることを目指すのに対し、欧米では皆がそれぞれ個性を前面に表現していたことは衝撃でした。

振り付けは同じでも、強調するポイントが三者三様なのです。では自分はどのように踊るのか? そう考えると、自分には表現できるものが何もないことを痛感させられました。一方で、言われたことを完璧に仕上げる技術面は私の強みとなりました。ダンサーの中には、表現力こそ高かったものの、技術単体で見れば簡単なことを難しそうにしている人もいたのです。

表現力は経験を積んで身につけるしかありませんが、回転やジャンプといった技術力は努力次第でいくらでも磨けました。この基礎を徹底して磨いたことが、のちに未来を切り開いてくれました。

また、欧米の方々とアジア人の自分の骨格や体格の差は否応なしに意識せざるを得ませんでした。体格に恵まれた人はどの角度から見ても体が綺麗なのに対し、私は体のバランスが悪く、普通に立つだけでは綺麗に見えない。

このコンプレックスとは一生付き合い続けるしかありませんが、どうにかそれを補おうと、鏡の前に立ち一番綺麗に見える角度を一ミリ単位で研究し続けました。手足の短さについても、踊り方や魅せ方でカバーしようと、何度も何度も工夫を重ねていました。


(本記事は月刊『致知』2021年10月号 連載「二十代をどう生きるか」より一部抜粋・編集したものです)

月刊『致知』2021年10月号では、この後も吉田都さんに20代の努力の日々を振り返っていただきながら、「プレッシャーに打ち克つ方法」「趣味と仕事は全くの別物」など、人生・仕事のヒントを語っていただいています。ぜひご覧ください!

〈致知電子版〉でも全文お読みいただけます

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◇吉田都(よしだ・みやこ)
東京都生まれ。1983年ローザンヌ国際バレエコンクールでローザンヌ賞を受賞し、英国ロイヤル・バレエスクールに留学。84年サドラーズウェルズ・ロイヤルバレエ団に入団。8822歳の時にプリンシパルに昇格。95年英国ロイヤル・バレエ団に移籍。2010年からはフリーランスのバレリーナとして舞台に立ち続ける。19年に現役を引退し、20年より新国立劇場舞踊芸術監督を務める。著書に『バレリーナ 踊り続ける理由』(河出書房新社)。

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