ギネス認定・1300年続く老舗温泉旅館「慶雲館」に伝わる教え【川野健治郎×田中真澄】

 

甲斐の山懐に包まれた辺縁の地に、1300年もの歴史を刻んできた西山温泉慶雲館。度重なる自然災害にも屈することなく、「世界で最も古い歴史を持つ宿」としてギネスブックにも認定されるに至った要因はどこにあるのでしょうか。同館の運営に奮闘してきた川野健治郎氏の運鈍根の歩みを、長年老舗企業の研究を重ねてきた田中真澄氏に繙いていただきました。

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旅館業以外には手を出すな

〈田中〉 

私は書籍や講演などでよくご紹介するんですが、アメリカ建国の父であるベンジャミン・フランクリンは、『富に至る道』という本で、勤勉や倹約、誠実さなどの大切さを説いています。つまり、「富に至る道は、徳に至る道」であって、川野さんのような「運鈍根」を地でいくような生き方を重ねていくことこそが、真の富や成功に繋がる道なんです。

ところがいまのアメリカは、利益第一の儲け主義で、人格や徳といった人間として大切なことがほとんど顧みられなくなったように感じられます。日本もこのままでは、アメリカと同じようになってしまうのではないかと危惧しているんです。

〈川野〉 

私は先代から、旅館業以外の事業に手を出すなときつく言い含められてきました。他のことに手を出しても決して長続きしない。旅館の主に徹しろと。ですから、これまでいろんな投資の誘いも受けてきましたけど、すべて断ってきましたし、別の旅館を買いませんかという話をいただくこともありましたけど、この慶雲館をしっかり運営するのが私の使命ですからと言ってお断りしてきたんです。

〈田中〉 

賢明なご判断だったと思います。これまで日本の企業は、グローバリズムという趨勢に流されてあまりにも手を広げ過ぎてきました。いま一度原点に戻る時が来ていると私は思っています。

〈川野〉 

少し前にインバウンドによって活気づいた時期がありましたけど、私どもは殊更にインバウンドのお客様を取り込もうとはしていません。ギネスブックに認定されたおかげで海外からもたくさんのお客様にお越しいただいていますが、まず日本のお客様があった上でのインバウンドだと思っていますから、海外のお客様を取り込むために値下げすることはしませんでした。

その代わり、泊まってよかったと言っていただくためにどうすればよいのかを真剣に考えて、例えば、体の大きな外国のお客様にも対応できるように、2メートルの布団を特注して、慶雲館の布団は足が出ないと喜ばれたこともありました。

タイのお客様が日本人の奥様を連れてお越しになった時に、お土産に慶雲館の袢纏と浴衣をお渡ししたら、奥様が大喜びされて、この袢纏を着てタイの街を歩くとおっしゃってくださいました。しばらくすると、実際にタイから団体の予約が入ったんです。

それから、これはコロナ禍で頓挫しましたけど、シンガポールからお越しいただいた方から、向こうで温泉宿をつくりたいので、ぜひタイアップしてほしいという相談をいただいたこともありました。

〈田中〉 

値引きでお客さんを引き寄せるのではなく、泊まってよかったと喜んでもらえるおもてなしを追求したことで、評判が広がっていったのですね。

〈川野〉 

昔のように黙っていてもお客様が来てくださるわけではありませんから、新しいお客様を創造し続け、私がいなくなっても次の代、さらにその次の代と続いていくためにはどうしたらいいのか、日々真剣に試行錯誤を重ねているところです。


(本記事は月刊『致知』2022年11月号「運鈍根」より一部抜粋・編集したものです)

◎『致知』2022年11月号「運鈍根」には、川野さんと田中さんの対談を掲載。本記事には、

・「コロナ禍を通じての決断」

・「先代の厳しい要求に応え続けて」

・「よい企業に共通するもの」

・「いかにして運を育むか」

など、永続する企業の条件、運を引き寄せるヒントが満載です。本記事の詳細・ご購読はこちら「致知電子版」でも全文をお読みいただけます】

◇田中真澄(たなか・ますみ)

昭和11年福岡県生まれ。34年東京教育大学(現・筑波大学)卒業後、日本経済新聞社入社。日経マグロウヒル社(現・日経BP社)に出向し、『日経ビジネス』の創刊業務に携わり、販売手法の確立に尽力する。54年独立し、ヒューマンスキル研究所を設立。社会教育家として講演・執筆活動を展開。講演回数は7000回を超える。著書に『百年以上続いている会社はどこが違うのか?』(致知出版社)など多数。

◇川野健治郎(かわの・けんじろう)

昭和34年宮崎県生まれ。高校卒業後に上京し、㈲西山温泉慶雲館入社。59年より同社が運営する慶雲館勤務。平成29年、同館の運営会社となった㈱西山温泉慶雲館社長に就任。

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